<第31話>外務省をぶっ壊す!~私、美賀市議会議員選挙に出ます!~
月曜日~金曜日更新
この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
<第31話>
「井戸の失踪」くらいしか私の周りに異変はなく、国政選挙に出る事の方がよっぽど私にとっても世の中にとっても異変だ。
周りに覆面パト、私服のデカ、機動隊みたいなのがいないか用心しながら家を出る。
途中、黄色回転灯とすれ違ったが、あれは自治体のパトロールだ。
若干ドキドキするのは善良な市民の証拠だ。
よって私は犯人ではない。
今日は警察につけられてる様子はない。
「そもそも参議院議員選挙に出るからと言って、まだ立候補届けも出してないのに私なんかに身辺警護がつく訳がないよな~」
バックミラーを確認しつつ、ハラハラしながら行きつけのカラオケ・ナマケ猫に辿りついた。
元は大型書店だったものを改築した建物だが、店内のアチコチに貼られた高校生半額キャンペーンのポスターが店内の上品さを跡形もなく消していた。
通常通り、爪の長い金髪ギャル店員が、不愛想なのが逆に平常心を思い出させる。
平日の昼間っから音痴のバカがボリュームを上げて歌ってるのが部屋から漏れて聞こえるのもいつも通りだ。
しかし一つ疑うと全部が疑心暗鬼になってくる。
こうやって警察は無実の人間を罪人に仕立て上げるのだ。
足利事件がそうだった。
たまたま有能なジャーナリストが「犯人の男が捕後の公共料金の支払いを気にかけ、姉に頼んでいた事」を知り、「そんな几帳面な人間が児童誘拐殺人犯である訳がない」という直感から丁寧に事件の真相を追い求め、警察の自白強要、精度の低いDNA型鑑定への過信、証人証言の隠蔽などを暴き、執念で犯人とされた男を無罪へ導いた日本の事件史に残る事件だ。
しかも真犯人は未だに野放しにされたままだ。
とにかく不気味だ。
そんな精神的アンバランスを立て直すため、卓谷を呼び出していた。
「選挙ポスターを貼って貰うのが急きょ今月になったから、打合せに来てよ」
指定された10番の部屋で多少斜めにズレて座り向かい合う。
一人カラオケも卓谷が巨漢であるせいで部屋が手狭に感じる。
「つばめよ~高い空から~教えてよ~地上の星を~♪」
駆けつけ一番、中島みゆきを熱唱する。
高音で咽喉が千切れそうだった。
外国党の闘いの幕開けにはこの曲が相応しい。
一方、卓谷は変な色のジンジャエールを麦茶代わりに飲んでいた。
もう4杯目だ。
「ポスター貼りって10月じゃねーのかよ?」
「参院選に出る事になって・・党の売名のためだけの選挙なんだけど、打合せも兼ねてちょっとだけ一緒に貼ろうと思って」
「知るか!」
「何かと、私一人だと心配でしょ?」
「誰が?」
「んー、実は警察に追われてるの!」
確証はないが、口を継いで出た。
こういうナーバスな話しは信頼のおける相手でないと出来ない。
卓谷とは長い付き合いになるが、つくづく男女の関係になってなくて良かったと思う。
まあ、なる訳ないのだが。
「井戸ってオッサンがいなくなったの知ってる?」
「ああ、たかゑって奴から電話が掛かってきた。」
「え?なんで?」
「パンツ買えって。」
メンズシリーズが出たらしい事は知っていた。
「私と一緒にいた所をどっかで見てたんだね。車に書いてたもんね。
卓谷測量って」
「油断も隙もねーな」
ドリンクをズーズー吸っていた。
「要するに、お前がやったんだろ?」
「やってないわよ。何にも!」
「だいたい、あんなDVのオッサンが行方不明になったところで誰も困らないでしょうよ」
「でも警察は動いてるんだろ」
「ええ~・・、死体も上がってないのに~?」
「誰も死んだなんて言ってねーぞ!お前やったな!」
「ちょ、やってないわよぉ~!」
マヌケな犯人よろしくトラップに引っ掛かってしまった。
つづく。
次回更新は11月23日(月)です。
23日は祝日(勤労感謝の日)ですので、自宅のお玄関には日章旗を掲げましょう!
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