<第34話>外務省をぶっ壊す!~私、美賀市議会議員選挙に出ます!~
月曜日~金曜日更新
この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
<第34話>
ダムの落水から発生したマイナスイオンの力を借りに、青堅寺湖にやってきた。
万が一、私が誤認逮捕され、告示日に立候補する事叶わず、3000万円弁償の債務を負った場合に備えて、篤姫会物販部の商品アイテムをさらに充実しておかねばならない。
久しぶりに自分のネットショップを覗いてみる。
立ち上げてから随分日が経ってるが、相変わらず何も全然売れてない。
他のショップでは「イイネ」はいっぱい押してあるのだが、イイネボタンはどこにあるんだろう?イマイチ使い方がよくわからない。
リニューアルとして絵本作家芸人の描いた『えんとつ町のプペル』のイラストも勝手にTシャツの柄にして投入した。
https://r25.jp/article/581356883170827173
さすが、プロのイラストである。
一辺にショップ画面全体があか抜けた。
なんとこれらのイラストは、芸人が自身の絵本の宣伝になるからと「著作権を放棄している」というので大いに甘えさせて頂く。
「ヨシ!これで3000万円稼げるショップになったぞ!」
なってる訳はないが、そう思わなければやってられない。
さて、政見放送である。
NHKスタジオでの収録まで2週間を切った。
湖の水面がさざ波打ってキラキラしている。
ひと気のない自然の中で澄んだ空気を吸えば、脳が活性化する筈だ。
助手席に積んであったコンテナバッグごと引きずり出して、政見放送に使えそうな資料をゴソゴソと漁る。
親指に貼った絆創膏が剥がれそうだ。
世に蔓延るありとあらゆる問題を盛り込んでやろうと歴史本を始め、NHKを批判したものからオカルトものまで図書館から借りてきた。
都庁の記者会見で同席した他の候補者たちは皆、一流大学を出ていたり、有名企業のビジネスマンたちで、皆が皆「絶対に爪痕を残す!」とやる気満々であった。
それぞれが趣向を凝らした政見放送を考えていた。
「負けられない!」
「私だって結果を残したい!クレバーに効果的に『外務省をぶっ壊す!』という決め台詞を散りばめて歴史に残る政見放送にするんだ!」
プレッシャーに深呼吸をする。
絶対に入れなきゃいけない話しは、「真珠湾攻撃の送信遅れ」という外務省がやらかした世紀の大失態だ。
「こんな重大事が未だ我が国において誰にも断罪される事もなく、更に拉致被害者を何十年も奪還せずにのうのうとしている外務省なんてぶっ壊さなければならない!そう思わない奴は日本人ではない!」と唇を噛む。
はてさて、ツカミはNHKへのリベンジと決めていた。
日本の闇を堀さげれば反日は外務省だけではないと分かってきた。
なんとNHKは平成15年8月14日に放送した「昭和の戦争と平和」という番組の中で英霊のお手紙を朗読する際、「父に会いたい時は九段へいらっしゃい」という大事な一文を意図的に省いたというではないか。
この事実はチャンネル・マンゴーというネット保守系番組で紹介されていた「NHKの正体」という本で初めて知った。
海軍大尉 植村真久の命が書かれたお手紙で、主旨を変えない程度に省略されているのだが、植村大尉が生まれたばかりの娘さんに宛てたお手紙であり「父に会いたい時は九段へいらっしゃい」という大事なメッセージ部分を削るなんてあり得ないのである。
改めて靖国神社の社頭に掲示されていた植村大尉のお手紙を読み返す。
素子、素子は私の顔をよく見て笑いましたよ。
私の腕の中で眠りもしたし、またお風呂に入った事もありました。
.素子が大きくなって私の事が知りたい時は、お前のお母さんか、佳代子叔母様に私の事をよくお聴きなさい。
私の写真帳もお前の為に家に残してあります。
素子という名前は私がつけたのです。
素直な、心の優しい、思いやりの深い人になるようにと思って、お父様が考えたのです。
私は、お前が大きくなって、立派な花嫁さんになって、仕合せになったのを見届けたいのですが、若しお前が私を見知らぬまま死んでしまっても、決して悲しんではなりません。
お前が大きくなって、父に会いたい時は九段下へいらっしゃい。
そして心に深く念ずれば、必ずお父様のお顔が心の中に浮かびますよ。
父はお前は幸せ者と思います。
生まれながらにして父に生き写しだし、他の人も素子ちゃんを見ると真久さんに会っている様な気がするとよく申されていた。
またお前の御祖父様、御祖母様は、お前をただ一つの希望にしてお前を可愛がって下さるし、お母さんも亦、御自分の全生涯をかけて只々素子の幸福をのみ念じて生き抜いて下さるのです。
必ず私に万一の事あるも親なし子などと思ってはなりません。
父は常に素子の身辺を守って居ります。
先に云った如く素直な、人に可愛がられるやさしい人になって下さい。
お前が大きくなって私の事を考え始めた時に、この便りを読んでもらいなさい。
追伸、素子が生まれた時おもちゃにしていた人形は、お父様が戴いて
自分の飛行機にお守り様として乗せております。
だから素子は父様といつも一緒にいた訳です。素子が知らずにいると
困りますから教えてあげます。
胸に染みて涙腺が緩む。
「この植村真久の命のお言葉全てを全国民に聞かせなきゃダメだ!だからこそ私の政見放送にこのお言葉を盛りむ!NHKも許せない!」
丸暗記必須、そしてこのクソNHKのスタジオで、この私が、この門田マチルダの手でリベンジを果たす。
「絶対、落とし前、付けてやるーー!」
目前に広がる湖の中心に向けて叫んでいた。
つづく。
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