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母が見られなかった聖火リレーのはなし

2019年の梅雨前、関東地方はスーパーマーケットの床に寝転んでじたばたするお子のごとく、じったんばったんと真夏日になってみたり春になりたてのふりをしてみたりと大暴れをしていた。暴れられたためにたくさんの人があっちが痛いこっちが痛いと泣いた。横浜市に住むUNIもその一人であり、今まで抱えた頭痛よりもはるかに大きく強いものが彼女にのしかかり、UNIもしばらく泣いて暮らした。

頭がもとの通りに戻ったような気がやっとしたのでUNIは地元に帰ることにした。飛行機に乗る。その前に母にメールをすすっと送る。父母が家を出て少し用事をすませたのちに神戸空港に着いたころ、たたたっとUNIも到着ロビーに現れた。

飛行機は速いね
飛行機は速いの

六甲の山にへばりついたUNIの実家は涼しく、これは熱をもちやすい頭にもきっと良いだろうと彼女は水を飲んだ。六甲のおいしい水、ではなく濾過された水道水だ。びわ湖のおいしい水かもしれない。

UNIと母はなんとなしにオリンピックの話をする。
前の五輪の聖火リレー見たんでしょ?
それがね、あさイチに送ったのそのエピソード。そうしたら採用されちゃった。

彼女の母はテレビをぱしゃりと撮影した画像を娘に見せる。

王子動物園の近くを聖火リレーランナーが通るというので小学生だったわたしは見に行くことにしました。貧しいながらも父が五輪のロゴの入った新しい青いブレザーを買ってくれたので大変楽しみにしていましたが、雨が降ってリレーは中止になってしまいました。あの日のことを思い出すと着られなかったブレザーの色を思い出します。

こんな感じの投稿で、雨天中止になるとなぜブレザーが着られなかったのだろう家で着れば良いのではと思ったUNIだったが、かつて、昔、まだ一桁の年のころ、本筋と違う疑問を母にふと投げてたいそう叱られた経験から、彼女は口をつぐむことにした。

紺色だったのだろうか明るい青色だったのだろうか。

わからないまま自分の胸内で着色し、母の思い出はUNIの思い出へと溶けていく。

#エッセイ
#日記
#オリンピック
#聖火リレー

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UNI(うに)
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