村上春樹愛にあふれる映画『ドリーミング村上春樹』
村上春樹作品を20年以上訳してきたデンマークの翻訳家メッテ・ホルムを追うドキュメンタリー。
「文章」という単語ひとつでも、丁寧に探っていく。ただ外国語の単語を覚えればいいのではない。村上春樹が何を思ってこの単語を選んだのか、そこまで考える。翻訳というのはピースをあてはめるパズルなのではなく、異素材で同じ工芸品を作りなおすような、芸術に近いものなのだと感じさせられる。
亡くなった翻訳家、天野健太郎のことを思い出す。『歩道橋の魔術師』著者の呉明益がたしか“天野さんはどうしてここまで知りたいの?と思うような細かいところを聞いてきた”というようなことを書いていた。慣れないうちはあなたの記憶は本当に正しいのかと問いただされているようだった、というようなことを書いていた気がする。手元にないので間違えているかもしれないけど。
翻訳家によってそのスタイルは違うのだろうけど、依代になるようなものなのだろうか、と自分のおぼろげな記憶とスクリーンとが交差する。
東京・京都・芦屋の街並みが映る。
『ロスト・イン・トランスレーション』のようなブリンブリンな風景では無く、淡い水彩画のような。
村上春樹の描く並行世界のような、夢と現の狭間のような心地よい歪みのしくみもある。
村上春樹の世界を愛する人たちがつくると、こんなドキュメンタリーができあがるのか。
ハイティーンのときにハマった、村上春樹。最近自分の好みが彼から離れた気がして読んでいなかった。人にあげた、あの本、この本が急に惜しくなる。
デンマークの翻訳家、メッテ・ホルムは20年以上村上春樹作品を訳してきた。村上春樹の作品はこれまで世界50⾔語以上に翻訳されてきたが、そのほとんどが英語からの翻訳となり、メッテのように⽇本語から直接翻訳することは珍しかった。映画は2016年、村上春樹がアンデルセン⽂学賞を受賞し、デンマークを訪れ王⽴図書館でメッテと対談する瞬間と、同時期にメッテが村上春樹のデビュー⼩説『⾵の歌を聴け』を翻訳する貴重な姿を捉える。
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