お金大好きさん
仕事のある日はできるだけ周りの人をほめて、お礼をいって、口をとがらせないように過ごそうとしている。それはそんな風に決めておかないとすぐにその反対をやってしまうからだ。
考えないようにしているけど、仕事はめちゃくちゃ忙しい。気付くと息をとめていて、夕方には呼吸が浅くなっている。パートタイマーなのでやっていけるけど、この仕事はフルでは無理だ、わたしの体力では。
夕方、ふうっと息をついてフロアを出て洗面所に向かった。フロアの扉を閉めると、扉の向こう側からライオンの鳴き声が聞こえた気がした。小学生のころ、家と学校のあいだにある民家から何度かライオンの鳴き声を聞いたことを思い出した。
よくあることだ、人間社会を動物に例えるなんて。耳がライオンの鳴き声を聞きたがっているだけだ。
フロアの自席に戻って、隣の席のパートタイマー同僚に話しかけた。
「今日も一日、小銭稼ぎましたわ」
親指と人差し指でわっかをつくって、銭ジェスチャーをした。同僚は笑ってくれた。そしてにこにこしながら
「わたし、お金だぁいすき!」
と返してくれた。おどけてみせたつもりが、彼女から予想外にくっきりはっきりと意思表示されて、戸惑ったわたしはへらへら笑ってごまかしてしまった。じゃれてみたら、思いがけず相手の大きな牙を見てしまってしっぽを巻いたへなちょこの自分。そしてこのよくある、動物にたとえた話。今日はなんとなく、へなちょこ気分である。
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