カバンの中のおにぎり
整理整頓が苦手だ。
カバンを貰いがちで、いろんなタイプのカバンがある。
だからいろんなカバンに少しずついろんなものが入っている。リップクリーム、読みかけの文庫本、ウェットティッシュ、飴。
とりあえずは無くても困らない少しずつのものたちが、部屋のあちこちのカバンの中に潜んでいる。
小学3年生の頃だった。
給食があるのに、なぜラップに包んだおにぎりがサブの手提げカバンに入っていたのかは、覚えていない。
放課後に通っていた学童保育所のおやつに出たおにぎりが食べきれなくて、ラップに包んでもらった可能性もある。
手提げにおにぎりを入れたまま、わたしはおにぎりのことを忘れてしまっていた。
手提げカバンに何冊も本を入れる。おにぎりはカバンの端で潰れている。
潰れてから何日経ったのか、曖昧だった。
農家出身の父はお米を食べ切ることに厳しく、わたしがお茶碗にひと粒でも残すと険しい顔で注意した。
母の手作りのかわいいカバンの中で、大事なお米のおにぎりが潰れている、そのダブルの失敗に怖くなり、わたしはしばらく見ないふりをした。
カバンから本を出すときに胸が痛んだが、カバンを机の脇に置くとすぐに失敗のもとを忘れた。そしてまた半日ほど経つと胸を痛めた。
訳がわからないことをするものだ。
大人になっても、胸の痛むことや苦手なことはできるだけ遠ざけようとしてしまう。
そんなとき、カバンの中で潰れてしまったおにぎりのことを思い出して…
忘れてしまいたい。見なかったことにしたい。と、ひりひりじたばたする心をなだめすかしてなんとか大人のふりをして生きている。
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