『ウインド・リバー』
映画好きの父に勧められ、横浜のジャック&ベティで鑑賞。
雪深いネイティブアメリカンの保留地で、なぜ18歳の少女は殺されたのか?
その残酷な真実は現代のアメリカの闇に隠されている
今回の舞台となるウインド・リバーは全米各地に点在するネイティブアメリカンの保留地のひとつで、荒れ果てた大地での生活を強いられた人々は貧困やドラッグなどの慢性的な問題に苦しんでいる。保留地で頻発する女性たちの失踪や性犯罪被害にインスパイアされ、その信じがたい現状を告発した本作は、まさに今のアメリカに渦巻く闇を衝撃的なストーリー展開でえぐり出していくのだ。
カナダのモントリオールに留学していた時、さらに北の地区へ旅したことがある。うろ覚えなので間違っている記憶もあるかもしれないが、訪れた土地のひとつがファーストネイション(アメリカで言うネイティブアメリカン)の居住地だった。
建物はコンクリ造りの古い保育園みたいな簡易なつくりで通りすがりの者にもわかる寒村っぷり。ケベックの美しいヨーロッパ調の町並みとの対比にショックだったことを思い出しながら映画を観る。
クライムサスペンスと読んでいたが、心に残ったのは、家族を暴力によって奪われた者がどう生きるのか、残された者の闘いのストーリーだった。
これが一番好きだったシーン。
娘を奪われた父親は自分で命を絶とうと決める。そんな時にふさわしい部族の儀式の、顔のペインティングがあるはずなのに、それがわからない。自分で勝手に塗りたくった、ピエロみたいな顔は、そんな父親の悲しみとペインティングの可笑しさと、部族の伝統すら奪われている絶望を一瞬で伝えてくれる。
死んだ少女たちは危険に近づいた運の無い者たちではない。弱い子鹿だったかもしれないが、生きようと必死でもがいた強さを描き、実話で被害者となった多くの少女たちへの敬意を表していた。