春のおじいさん
こだわりを捨てた宮崎駿のようなおじいさんが、喫茶店の広いテーブルの、わたしの前の席に座った。女物のような小洒落たキャップをかぶっていて、目を惹く。太い黒ぶち眼鏡が似合っている。
少しして、二人分のコーヒーをトレイに載せて、もうひとりのおじいさんがやってきた。トトロみたいな丸みのあるお顔に、前歯は上下ともに無い。
「ああ、どうもね」
「これ、片方は毒が入っているから」
くすくす笑うおじいさん二人のその会話が可笑しくて、つい笑ってしまったわたしに、おじいさんたちがにんまりと笑いかける。
「聞いちゃった」
そう呟いたわたしに柔らかな笑い声がかぶさる。ちょうどカフェオレを飲み終わったところだったので、それをきっかけにわたしは席を立った。
「では」
とお二人に声をかけて。
「うん」
「気をつけてね」
春の妖精かな。
いや、ただの仲良しのおじいさんたちだ。
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