誠実なドキュメンタリー映画『性別が、ない!インターセックス漫画家のクィアな日々』
自分自身を「男性でも女性でもない何か」と認識して、自身の体に起きた体験をエッセイ漫画として発表しているインターセックス漫画家・新井祥の内面に迫るドキュメンタリー。30歳まで女性として暮らし、染色体検査でインターセックスと判明した新井祥。離婚も経験した新井は東京から名古屋へ転居し、専門学校の非常勤講師となる。ゲイのアシスタントこう君との日常を中心に、新井と国内外のセクシュアル・マイノリティたちとの交遊を追っていく。(映画.com)
LGBTとは違う、インターセックス。性器や性自認などのいろいろな面で、性別があいまいだったり一致しない疾患。映画の中で流れる新井さんのマンガで、それがどういったことなのかを理解しながら、新井さんの日々の端っこを眺める。
新井さんのほかにも、体が女で精神が男(書き方があっているだろうか)の人、男性ホルモンを打ってヒゲが生えている上で女性として持っていた豊かな胸はあってそのセットが自分にしっくりきた、という人がその気持ちを伝えてくれる。
もし自分だったらなんてありきたりな感想は書けない世界がそこにある。
どういう状態の自分だと自然な自分であるのかを探して闘うこと、一番身近な親に理解されないこと、相次ぐ手術やホルモン投与。それが辛いと訴える作品ではない。きっとわたしが勝手に想像しているわかりやすい辛さとは別の、何百種類の葛藤や喜びがある。
ちょうどこれを観る前に、別のドキュメンタリー映画を観た。それはわかりやすく作り上げられていて、「これを伝えたい」と言わんばかりの監督のツバみたいなものが飛んでくるようで、ひどく腹を立てながら観た。
『性別が、ない!』は監督自身の戸惑いが伝わる。
それが良いのだ。わからん、でも新井さんの生き様を撮るぞという必死さ。真摯な黒子。比較してでないと語れない自分の稚拙さがもどかしい・・・
映画を観終わったら、監督の舞台挨拶があった。「ブラボー!」と叫べない、殻をやぶれないわたしがいた。大きな拍手をするだけで精一杯だった。
渡辺正悟監督、新井祥さん、関わった方々に大きな拍手。
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