アメリカでいちばん有名なお悩み相談『おしえて!ドクタールース』
ドクタールース。
時代に翻弄された、米国で最も有名なセックスセラピスト。
家族をホロコーストで失った少女時代。
終戦後はパレスチナでスナイパーとして活動。女性が学ぶことが難しかった時代に大学で心理学を専攻。アメリカに渡り、シングルマザーとなり娘を育てた。(公式サイトより)
セックスセラピストとして性にまつわる相談を受けるラジオ番組で人気が出て、メディア・講演会にひっぱりだこになったドクタールース。
アメリカでも80年代では女性がそんな話をするなんて!というとらえられ方だったけれど、彼女は明るく、そして真摯に、この世でノーマルなものはないんだと説く。性的指向も、そう。
それは過激ではないフェミニズムであり、ヒューマニズムだ。
誰も虐げられるべきではないし、誰しもが主体であるべきだということ。
ユダヤ人の彼女は10歳で両親とわかれ、彼女だけがスイスに疎開して命が助かった。
ユダヤ人だから、という理由で命を奪われそうになったこと。両親と親族はみな命を奪われたこと。だから彼女は、属性で差別される人を絶対に救いたかったんだろう。
そんな彼女は、自分の悲しい話はしないと語る。「誰もわたしのことを救えないから」と笑う。
この笑顔とこの言葉が、少女時代に受けた絶望の深さを伝えてくる。
女子に高等教育は不要といわれたスイス時代を経て、フランスで大学入学の資格を手に入れる。そしてホロコーストにより学ぶことができなかった人への救済措置としてアメリカに渡る資金を得る。
教育の機会を奪われても学び続けた彼女の意思と、教育機会を与える当時の欧米社会のそういった面での豊かさがすばらしい。
幼い頃に家族を奪われたからこそ、人を愛し、愛する人に触れられることの大切さを知っているんだというようなことを語っていたことも、心に残る。
バイタリティに溢れていて常に笑顔の彼女の原動力は、とても悲しい。
おもしろおかしいセックストークと、ホロコーストによる悲劇の半生とをうまく編集した、緩急の良いドキュメンタリーだった。
戦争で起こったことを語れる世代はもう少ない。そんな面からも貴重なドキュメンタリー。
公開から日が経っているので観られる劇場は限られているかもしれないけど、たくさんの人に観てほしいですね、ドクタールース!
劇場情報(2019/10/25)
https://eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=grJFiQ7g