ボンタンというズボンの話
最近ボンタンみたいな服、流行ってない、若い子の、女の子のあいだで。
と彼が言った。
「ボンタンて、不良の着るズボン?」
「そう、太いやつ。すっごい太いの着てるってことは強いってこと。弱いやつが太いの着てるとボコられる」
強い奴が太くしたズボンを履くのは、なんだか毛を逆立てる動物の話のようで、可笑しかった。
わたしと彼は2歳しか変わらないが、学生時代の2歳差は大きい。ボンタンという変形学生服を、わたしは実は本当には見たことがない。わたしにとってそれは、テレビの中のことなのだ。
中学生の頃のわたしは今よりもっとぼんやりしていて、女子にはヒエラルキーが存在するのだとやっとそのころ把握した程度の、幼なじみがそばについていてくれなければ完全に周りから浮いていたような生徒だった。
そんなわたしが不良学生の服装まで把握できていた訳がないので、ひょっとするとまだそんな服装の人がいたのかもしれない。
かすかな記憶の中にあるのは、不良の3年生を狙って、他校の不良が原付でわが校まで乗り込んできた、それだけが思い出だ。乗り込んで20mくらいでうちの学校の先生陣になんとか追い返されていたので、クローズゼロ的な思い出でもない。
ボンタンというのは、わざわざ特注して買うのだという。
おかしくない?不良の服を着るためにお母さんにお小遣い多めにもらうの?
そう聞くわたしに彼は教えてくれた。
「違うんだよ、バイトをするんだ。
新聞配達とか工事現場とかね」
ボンタンを買うために毎朝ちゃんと早起きして新聞配達することは、真面目なことだ。わたしにはわからない。成人式の衣装のためにちゃんとお金を貯めて打ち合わせもきちんとしてくれるのよ、と語る北九州の刺繍やさんのインタビューを思い出す。
土地柄か時代なのか、わたしの学年にはボンタンを履いている人はいなかった。
中学を卒業して2年経つと、わたしの同級生を殴っていた暴力教師は体罰が問題とされて訴えられていた。
学校の中は2年で時代が変わってしまう。
ボンタンと似ているのはいったいどんなボトムなのか、今の流行にもついていけていないわたしは、ボンタンが漢字なのか片仮名なのかそれすらもわかっていない。
このままで生きていようと思う。
#日記 てきなもの