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【管理会計の論点 その10】予算実績管理うまくできていますか?

こんにちは!

当コラムでは毎回、管理会計プロジェクトで論点になりそうなトピックを解説します。

論点というぐらいなので、いつも選択肢は1つではありません。
どうやって答えを決めるのか?いつもお客様と一緒に悩みながら、その時にベストな解答を探しますが、ベターなやり方を選択することも多いのが実情です。

さて、第10回目のテーマは「予算実績管理」です。

予算を作って実績と比較する。簡単そうでなかなかなうまく行きません。多くの企業が抱える「予算実績管理がうまくいかない」という課題について、A社のケースを見てみましょう。


A社の会計期間は1月から12月で、毎年7月から翌年の年度予算の作成を開始します。この開始時点では当たり前ですが、まだ当年下期である7月~12月の実績データがありません。そこで、当年上期(1月~6月)の実績と、下期(7月~12月)の予算値をベースに翌年の予算を組んでいます。

A社の年度予算は、各事業部の担当者が自部署の予算を立案し、事業部長の承認、本社経営管理部の承認、そして最終的には本社取締役会での承認によって最終決定されます。このように複数の関係者が関わるため、担当者が予算案を提出しても、上層部の指摘や見直し指示により、何度も修正を重ねることになります。

さらに、予算編成も大詰めとなる11月頃には、外部環境の変化や最新の実績データの影響で、前提条件が変わることが多々あります。例えば、売上目標が引き上げられたり、コストダウン目標が追加されたりと、作成当初の計画とは異なる新しい条件が発生するのです。こうした条件変更があると、担当者はそのたびに計画をつぎはぎをするように修正するしかありません。結果として、12月末までに予算が完成せず、翌年2月頃になってようやく承認が完了するような状況です。

しかし、ここで完成した予算は、前年の7月に作成し始めたものであるため、当初の見通しと現状の実態が合わなくなってしまっていることも少なくありません。実際、予算作成が完了したときには、既に1月の実績が確定し、初月から予算と実績の大きな差異が発生しています。この差異に関しても自部署の会議や経営会議で報告が必要となり、担当者は「報告のための」理由説明に多くの時間が割かれています。

こうした状況下では、予実差の分析や報告資料作りに手一杯となり、事業を成長させるための改善活動や経営計画の修正にかける余力が残りません。このように、時間をかけて作成した予算がすぐに古くなり、現場での管理が難しくなるという状況が、毎年のように繰り返されているのです。

予算実績管理のよくあるつまずきポイント

予算管理でよく見られる課題は、以下の3つに集約されます。

  1. 未来を予測する難しさ
    未来のことを正確に予測するのは難しく、予測が甘くなり過ぎたり、逆に慎重すぎてしまうことも多々あります。これにより、実際の状況とかけ離れた予算になってしまいがちです。

  2. 作成に時間がかかる
    予算作成には複数のステークホルダーが関与するため、各部門での承認や経営層での再検討、部門間の調整などの工程が多く、最終的な確定までにかなりの時間がかかります。その結果、年度のスタートまでに予算が完成しないこともしばしばです。

  3. 完成した時にはすでに「賞味期限切れ」
    環境変化が頻繁に起きる現代では、長期間かけて作成した予算が最終的には現状と合わない、いわば「古いもの」となりやすいのです。完成した時点で既に使いにくくなってしまうのが問題です。


対応策としての「着地見込管理」

こうした予算実績管理の課題に対処するために注目されているのが「着地見込管理」です。これは、一定の期間(たとえば毎月や四半期ごと)で未来の着地点を見込む、言わば「小刻みな予算再設定」アプローチです。最新の実績データに基づいて予測を行い、前回の予測と比較しながら改善策を施していくこの方法には、次のようなメリットがあります。

  • 精度の向上
    毎月、もしくは四半期ごとに予測と実績の比較を行うため、環境変化を即座に反映した、より精度の高い見通しが立てられます。これにより、無理のない実績比較管理が可能です。

  • 素早い対応が可能
    作成に時間をかけすぎることなく、重要なポイントに集中できるため、効率的かつ効果の高い対応ができます。また、短期間でサイクルを回すことで、リアルタイムに近い管理が実現します。

  • 長期的な予算にも転用可能
    経験を積むことで、見込期間を延ばし、年間ベースの予算管理にも応用することが期待できます。こうした着地見込の積み重ねは、将来的に全社予算としても転用可能なほどの精度に育つでしょう。


毎年、膨大な時間とリソースを割いて作成した”賞味期限切れの予算”に追われて改善活動ができない現状を打破するために、着地見込管理を導入してみるのはいかがでしょうか?

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企画:
アットストリームコンサルティング株式会社
プリンシパル/公認会計士 内山 正悟

EY新日本有限責任監査法人を経て、現在に至る


執筆:
アットストリームコンサルティング株式会社
取締役・シニアマネージングディレクター 松永 博樹

アーサーアンダーセンビジネスコンサルティング(現 プライスウォーターハウスクーパース)を経て、現在に至る。


編集:
アットストリームコンサルティング株式会社
執行役員・マネージングディレクター 伊藤 学

プライスウォーターハウスコンサルタント株式会社(現 日本IBM)、
ベリングポイント株式会社(現 PwCコンサルティング)を経て、現在に至る。