#8 オストメイトと言葉の話
こんにちは!オストメイトといっしょ!秘密結社アッと♥ストーマの共同管理人、中島小百合(ユリ)です。きょうは自己紹介がてら、オストメイトをとりまく言葉について感じてきたことをお話しします。
言葉の仕事をしています
英語発音デザイナーという肩書で、歌手、俳優/声優、講師、ビジネスエグゼクティブなど、アメリカ英語を話す言語表現のプロのバイリンガル化をサポートしています。えいご発音塾 こまば音庵(おんあん)というスクールを主宰しています。
その人の骨格や筋肉の動きを丁寧に分析しながら、その方の身体をオリジナルの楽器のように扱い、カスタムメイドの英語発音と発声をつくる仕事です。
と説明しても、ほとんどピンと来てもらえないので... (笑)
YouTubeチャンネルで英語やボイトレのお話をしています。
英語にまつわるさまざまなトピックを紹介しながら、皆さんと英語との心地よい関係づくりを応援するチャンネルです。
夢は英語と歌の本質が学べるカリキュラムを書き上げることと、英語と歌の学習をコンプレックス商法から解放することです。その話はまた別の機会に。
オストメイトとしての発信
言葉の仕事をする者として、自分の名前で、自分の言葉で発信することを大切にしています。
自分が2016年に初めて主治医から人工肛門という言葉を聞き、ネット検索でぶつかった衝撃写真の数々に深いトラウマを負った身として、
オストメイトになるかも、オストメイトになりたて、という「駆け出しオストメイト」の皆さんが少しでもポジティブな記事と出会えるよう、祈るような気持ちで発信を続けています。
【記事リンク】心療内科医・エッセイストの海原純子さんに取材していただき、Yahoo!ニュースのランキングでまさかの第1位を獲得した記事のオリジナルコラム。
【記事リンク】こちらはTOTOのユニバーサルデザインにまつわる座談会。車いす使用者の小澤綾子さんと、視覚障がい者の上田喬子と、トイレのユニバーサルデザインについて語り尽くしました。
【記事リンク】グロテスクに見えない、ストーマの模型を作ってみました
「オストメイトといっしょ!秘密結社アッと♥ストーマ」も、もちろんそのひとつです。
名は「ありよう」を縛るもの
さて、今回は名前の話をします。
私の好きな小説に「この世で一番短い呪とは、名だ」という台詞があります。名前をつけることで、私たちはそのモノが何なのかを定義します。
流行語は時代の流れが生んだ新しいモノや感情に名前を付けたものだし、なんだかモヤモヤと悩んでいる時、その悩みが言葉になった瞬間に悩みの正体がわかり、解決に向かったりして。
言霊というほど大げさなものではありませんが、ものの呼び名が私たちの身体や心に及ぼす影響は無視できません。
人工肛門という言葉
そんな私が2016年にオストメイトになり、いちばん辛かったのは「人工肛門」という言葉です。
英語ではもちろん肛門(anus)なんて公の場で口にしづらい言葉は使わず、ギリシャ語由来の「Stoma(口という意味)」が使われます。
ちなみに英語の人に「私のコレ(ストーマ)、日本語だと人工的につくられた (artificial) おしりの穴 (butthole, anus)って呼ばれるの」と言うと、たいてい「ハァ!?」と憤慨し、不愉快 (offensive) だ 侮辱的 (insulting) だとぷりぷり怒ってくれます(笑)
日本でも「ストーマ」と表現されることがありますが、「ストーマって何?」と聞かれたら、結局会話のどこかで人工肛門という言葉を口にしなければならず。
それがいつも苦痛でした。
言葉から受ける印象は人によって異なるので、人工肛門という単語に抵抗のない人も居られるのかもしれません。しかし女性として、また、夫との親密な時間も大事にしたい者として「自分のおなかに肛門がついた」という表現は受け入れがたく。
術後5年以上が経った現在でも、口に出すたび心に引っかかりを感じます。
蓄便袋という言葉
もうひとつ、聞くたびに心が重く沈む単語は「蓄便袋/畜尿袋」です。
オストメイトはおなかに作ったストーマから食べたもの、飲んだものが出るため、ストーマに袋を貼って生活をしています。
その袋はパウチと呼ばれることが多いのですが、役所で給付金の申請をするさい「蓄便袋/蓄尿袋」と書かなければいけない地方自治体が未だにあるという話を聞きます。
私は障害者手帳の給付を受けておらず(オストメイトを障害者と呼ぶかどうかについても、人それぞれの考え方があると思っています)、パウチ等の装具はすべて自費で購入しているのですが、理由のひとつに「もし出された書類で蓄便袋なんて書かされたら、ショックで心が折れそう」という恐怖があります。
オーバーに聞こえるかもしれませんが、着替えやトイレで自分の身体を目にしたとき、これは蓄便袋なのだ、私は蓄便袋を貼り付けて生きなければならないのだ、と思った時のみじめさ、悲しさは... 今こうして文字にするだけでも溜息が出ます。
デコパウチという言葉
そこで私が思いついたのは、袋にデコレーションを施すことでした。
装具や肌に安全な素材を選んで、ステッカーを貼ったり、マジックで幾何学模様や絵を描いたり、はんこを押したり。
透明な袋に溜まる便が見えないように、たとえ見えても、それにいちいち落ち込まなくても済むように。と、いろいろと失敗もしながら(笑) デコパウチ活動を始めました。
赤いマジックで♥を描くだけでも。100均のシールを貼るだけでも。ちょっとでも袋に何か工夫をしたらデコパウチ!
他の人に見せなくても、自分の気持ちをふわっと軽くするためのデコパウチ!と、交換のたびにTwitterで写真をアップしていたら...
すこしずつ「こんなのどう?」と他の方もデコパウチを始めてくださるようになり。
せっかくだから!と勇気をだして、オストメイト支援グループの機関紙に記事を書いたり。インタビューでもデコパウチの話をしたり。オストメイトの患者会でお話したりして、すこしずつデコパウチ仲間を増やしています。
皆さんも、何かパウチにデコレーションをしたら「#デコパウチ」とハッシュタグをつけて、SNSに投稿してみてくださいね。どんなちっちゃなものでも大丈夫です。お友達になりましょう。
有袋類という言葉
そんなデコパウチ活動をするなかで、オストメイトではない方がデコパウチに参加してくださるようになった時。
「オストメイトでない人を何とお呼びしたら良いかしら?」と悩みました。
前回の投稿でれなさんも話してくれましたが、オストメイトとそうでない人を、両方同じ地平に乗せられる言葉がないんです。
「健常者と障害者」ってのも、「当事者と支援者」ってのも、何だかなぁという感じで。「オストメイトと非オストメイト」と言われると、思い出すのは平清盛の名台詞「平家にあらずんば人に非(あら)ず」(笑)
非オストメイトなんて、排他的じゃないですか。
「左利きと右利き」くらいニュートラルに、お互いの属性を語る呼び名はないか?と考えた結果。思いついたのが「有袋類」「無袋類」という呼び名です。袋のあるなしで分類。
でも「袋」と言ったときにも、蓄便袋のイメージは払拭したい。
それなら派手なデコパウチをつけた、カンガルーやコアラのような愛らしい動物のイメージを上書きするのはどうかしら。という意図です。
実寸より相当カワイイを盛っておりますが(笑) 蓄便袋つき人工肛門保有者と呼ばれるくらいなら、私は自分をカンガルーだと宣言したいです。胸を張って。
言葉はパーソナルなもの
とはいえ、私の使う言葉は、あくまでも私にとっての心地よさを追求したもの。
同じ気持ちで同じ言葉を使ってくださる方がいたら嬉しいなとは思いますが、自分の言葉づかいを誰かに強制するつもりはありません。お好みに合えばどうぞ、お使いください。しっくり来ない方はどうぞ、別の言葉で発信をされてください。
誰のどんな言葉であれ、みんなが自分の誠実な言葉で気持ちを語り続けることこそ、オストメイトの日々を明るく楽しくする一歩に繋がると思うので。
ご自身の想いを言葉や文字にすることの癒しの力や、それが誰かに届いた時の嬉しさ。そしてそこで出会った仲間と、同じ気持ちで何かに取り組める充実感。
同じ志を持つ誰かとの出会いは、自分の言葉を信じて発信することから始まります。誰かをはねつけ、戦うための言葉ではなく、誰かと響きあい、つながるための言葉を。いつも綴っていきたいなと強く思います。
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