見出し画像

「M1グランプリ 2023」について思ったこと

今年もM1グランプリが終わりました。
「令和ロマン」優勝おめでとうございます🏆

 さて、今年のM1グランプリは時間もあり、ゆっくり準決勝から観ていました。そして色々おもったのでメモしておこうと思います。

敗者復活戦の新システムはかなり不公平?

 今回の敗者復活戦は、いつもの六本木のテレビ朝日から新宿・住友ビル三角広場になりました。会場も大きく2000人を収容できる場所です。今回から新システムになり、A,B,Cブロックに別れ、それぞれのブロックの勝ち抜き戦という形で行われました。

 勝ち抜いたのは「シシガシラ」でした。「シシガシラ」ももちろん面白かったですが、結構不公平なシステムだなと思いました。

https://profile.yoshimoto.co.jp/talent/detail?id=8846

 というのも、まずそれぞれのブロック7組の漫才を見て、その都度前(or勝ち残り)芸人と比較してどうかを問われます。それも約2000名の観客の中から選ばれた500名の「観客審査員」にです。
 毎回4分の漫才とインタビューを繰り返し、大体1巡するのに1時間かかります。正直、一番最初に観た漫才と最後に観た漫才の面白さの比較はできるのでしょうか?これには相当な技術が入ると思います。

 例えば、今回の決勝でも松本さんが最初は「令和ロマン」に基準点で90点とつけていましたが、後半の組に行くにつれて、本当にその基準点超えている内容なのか?という漫才にもその点数がついていました。
 つまり、言いたいことは、人の評価は絶対的にできず、どんどん記憶が薄れてぶれていくということです。ましてや、素人の観客が松本さんよりも覚えて正確に評価できると思いません。

 つまり、このシステムは、圧倒的にあとでやる方が有利なのです。6番目か7番目です。たとえ、最初の番手の人で多く笑ったとしても、後の人で笑えばなんとなくこっちの方が面白いような気がする、として、後の番手の方を選択するのです。
 その結果、Aブロックをみてみると一番最後の「ヘンダーソン」が勝ち、Bブロックも6番手の「ナイチンゲールダンス」が勝ち(※「オズワイルド」の漫才はダメすぎた・・)、そして、Cブロックだけは3番手の「シシガシラ」が勝ちという内容でした。
 「シシガシラ」が勝ち残った理由としては、観客がわかりやすく、覚えやすい、ハゲネタだったからではと推測しています。4番手以降一番接戦だったのが「ダイタク」。それ以降は、あのなんとなく面白かったハゲネタと、今回どっちが面白いっけ?という比較になります。

 さらにこれも不公平かもと思ったのが、次のステップの、5人の芸人審査員が、Aブロックの勝者、Bブロックの勝者、Cブロックの勝者の中から1組を選ぶところです。そこでも同様なことが起こります。
 Cブロックが終わった時点でAブロックの漫才は二時間前。つまり、2時間前の漫才と1時間前の漫才と30分前の漫才を比べてどれが面白かったか?を選択しないといけないのです。そのため、芸人も5人中4人が直前の「ハゲ」ネタを選択しました。
 なので、かなり運要素の強い戦いになったと言えます。ただし、敗者復活戦の順番も準決勝の順位によって均等に決まったということなので、上位が最後の番手になっているのであれば、ある種公平なのかもしれません。

 また会場が広すぎではないかということも加えておきます。会場が狭いと集中できますが、広いと観客も集中できません。また漫才の細かい部分まで見えているのか・・。
 暗闇で集中できる映画館での2時間の鑑賞が耐えられないという人が多い中、今回の3時間を超える敗者復活戦で、正確な判断ができていたとも思えません。ただし、芸人さんの中にはそれを理解していて、最初はゆっくりとみんなが理解できるようにわかりやすく喋って、引き込んだところで、だんだんテンポを上げていくということをしていた人もいて、さすがだなと思いました。

 さて、以上が準決勝について思ったことですが、YouTubeに準決勝のネタが載っていたので、個人的に面白かったと思うネタをいくつかピックアップしておきます(期間限定公開のようなので見れなかったらごめんなさい)。
 
 優勝 「シシガシラ」
 開始1分少しで笑いの動線を仕掛けて、ツッコミもボケもなく、ただ歌うだけで何をしても笑ってしまうネタ。後述でもあるが歌モノ漫才でこれはすごい。これを決勝でやったら650-60くらいはいけるネタだった。

 Bブロック優勝 「ナイチンゲールダンス」中野なかるてぃんのキャラ性の高さと斜め上をいくボケとツッコミ。とてもうまい。来年こそは決勝に行ってほしい。

 Aブロック優勝「ヘンダーソン」 オチがなあなあで終わってしまったけど、高い漫才技術と小ボケの連発。M1ラストイヤーだったそうで、、残念。

 「ロングコードダディ」構成もボケも悪くなかった気がする。うまく面白い。普通に決勝で高得点を取れるネタ。純粋に順番が不運だと思う。個人的には一番笑った。

 「ダイタク」お父さんネタはベタだけど面白かった。双子だからこそできるネタ。

 「エバース」最初ケンタウロスってなんだろう?と思ってたけど、そこをうまく使って最後まで笑いに昇華させた。高い構成力。これは騙されたと思ってみてほしい。

近年稀に見る低い点数?の決勝戦

 総じて全体的に爆発的に面白いと思える組が少なかった。おそらくこれは誰もが思ったことなのではないだろうか。

https://rscnews.com/m1-2023-matome/#google_vignette

 では具体的に、今回の令和ロマンの点数が「648点」がどうだったのか?現在の7人制になった2017年まで振り返ってみる。

https://www.m-1gp.com/history/
https://www.m-1gp.com/history/
https://www.m-1gp.com/history/
https://www.m-1gp.com/history/
https://www.m-1gp.com/history/
https://www.m-1gp.com/history/

 審査員の入れ替わりもあるので平等に比較できないが、昨年対比で考えると、3位の点数が「659点」なので、昨年に比べるとレベルが低かったことが伺える。
 なお、21年以前は、審査員に(高得点をつけがちな)山田邦子がいないので参考値となるが、20年は「648点」、19年は「654点」、18年は「648点」、17年は「645点」である。そのため、「令和ロマン」の「648点」は過去と同程度のラインと言えそうである。

 特に今年の山田邦子は、さや香に1人だけ98点と高い点数をつけており、それを少し差し引くと、今回は「ヤーレンズ」の「656点」あたりがトップ点だと言えそうである。

M1の点数の決まり方の考察

 では、そもそも点数はどう決まるのだろうか?また、面白い漫才とはなんなのか?

 結論、環境やルール、審査員などによって求められるものは違ってくるとは思う。しかしながら、あくまでも個人的な見解にはなるが、朧げながら「M1グランプリ」における漫才の評価ポイントは以下のもののようにおもわれる。近年の審査員コメントを考えながら推測してみた。

1 漫才の流れの構成力

 歌のメロディーのAメロ・Bメロ・サビ・大サビのような感じで、漫才にも話の流れが重要視されている。いきなり話題が変わるのではなく、いかに一つの軸をブラさずに、かつ変化させていき、だんだん右肩上がりに面白くしていくかという点である。
 とりわけ「後半失速した」とか言われるのはこの点が失敗していることが多い。最初のボケをずっと続けて繰り返していくと、観る方はだんだん飽きてくる。例えば、今回だと「クラゲ」は同じパターンを3回繰り返したが、ボケのレベルが変わったわけではないので、構成としては平坦だった。

2 ボケ(笑いどころ)の数

 近年は限られた4分の中に「どれだけボケを入れれるか?」ということが重要となっている。
 だからこそ、音楽(歌)ネタは、この点にリスクを負うことになる。音楽を歌うことが軸になるとどうしても時間をとられるので、ボケの総量が少なくなってしまう。音楽ネタが難しい点は今年だけではなく、過去何度も決勝で同じことがおこり、その都度審査員が言っているので、どうして「ダンビラムーチョ」はその選択をしたのか、ネタが始まった瞬間に感じてしまった。
 一方で「ヤーレンズ」はここがうまく、相当な数のボケを入れていたと思う。決勝戦の1発目のネタを見返したが、大体40箇所程度はボケなどのお笑いポイントが入っていた。つまり1分で10回、6秒に1回ボケをいれているのである。
 ちなみに、1人喋り(相方だけが喋るすぎたり・動き回る)が多い漫才もボケの数では不利になる。

3 ボケ・ツッコミのわかりやすさ

 当然ボケの数とともにわかりやすさも重要。ある程度みんなが知っていることでないと、笑えない。またツッコミのわかりやすさも大事である。
 わかりやすいダメな例は、今回の決勝のファイナルラウンドでの「ヤーレンズ」のネタに使った「ベンジャミン・バトン」である。

 ネタに途中で、いきなり「ベンジャミン・バトン」が出てきて、しかも結構後半まで引きずっていき、ネタの最後は、正式タイトルである「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」という日本語版正式タイトルを使った。
 僕自身映画が好きなのでよくわかるが、そもそも「ベンジャミン・バトン」という映画が、主人公と最愛の人の年齢が逆転していく恋愛映画だという設定を、ネタ中に即座に理解しないと「??」が浮き、観る人がついていけなくなる。おまけに途中に口頭でサラッと映画の設定説明も入ったが、さらに漫才のテンポを悪くしてしまった。

4 大オチ(伏線回収)

 終わりよければ最後よしではないが、今までの伏線を回収しつつ見事に大笑いさせる技術これが決まれば、観客は「あー面白いもの観た!」と満腹になれる。今回のネタの構成で、できてそうだったのは「ヤーレンズ」のベンジャミン・バトンくらいだが、そもそもわかりにくかったので機能しなかった。

5 漫才の基礎技術

 そのまま漫才の技術である。例えば、アドリブのうまさ、ツッコミの間、ボケや話のリズム、全体的な安定さ(緊張していると結構ずれる)である。この点においては、今回の「さや香」はかなり高かったのである。

 そして、「漫才の流れの構成力」「ボケ(笑いどころ)の数」「ボケ・ツッコミのわかりやすさ」「大オチ(伏線回収)」「漫才の基礎技術」これらを全て満たしていくと、ミルクボーイのような「681点」が起こるイメージである。

決勝・最終決戦のネタについて

 最初に決勝のネタ・最終決戦のネタについて考えたい。なお、動画はLeminoで期間限定でみれるようなので、必要であれば、下記リンクより観ていただきたい。

 では、今回のネタについて4段階評価「S(素晴らしい)、A(良いけど後一歩)B(まあまあ)C(ダメ?な気がする)」で考えてみる。あくまでも素人としての見解なので、参考程度に読んでほしい。

「令和ロマン」

漫才の流れの構成力: A
ボケ(笑いどころ)の数: A
ボケ・ツッコミのわかりやすさ: S
大オチ(伏線回収):A ※後述
漫才の基礎技術:S

 構成は良かった。面白いドラマがあるんだと言いながら、クッキー屋から奇想天外なところまで飛んでいく。ただし、一つ一つの説明が長いので、ボケの数は多くはない(複雑な作業をするクッキー屋の説明もちょっと長かった)。ただし、三密回避とか、トヨタとか誰もが知っているワードで構成されているので、ボケが何なのかはしっかりわかったと思う。
また漫才のテンポも非常によかったので、基礎技術はSとした。

 大オチについてはAとした。正直僕自身は「えっ!そっちに行く?」と思い、あまり笑えなかった。後々から考えれば、これはかなりせこいオチだなと思った。と言うのも、最後のツッコミが「そんな人は吉本にはいる」という内容だった。これはサラッと言っているが、吉本芸人に対する大きな自虐ネタである。つまり、最後いやーすみません、それは「やっぱり自分達は変な奴らでした」といっているものだった。

 こうすることによって、吉本所属の芸人は笑わざる負えなくなる。つまりこのオチは、観客ではなく、審査員票をしっかりと狙うためにやってきたのではないかと思った。だからこそ、このネタを決勝に持ってきたのではないかと。完全に「令和ロマン」の戦略勝ちだった。

 そう思った背景は、ふと「審査員で吉本所属は誰だっけ?」ということを考えたからである。以下最終投票者と所属のリストである。

山田邦子 「ヤーレンズ」
 所属:アスリート・マーケティング(元は太田プロ)
博多大吉 「令和ロマン」
 所属:吉本興業
富澤たけし「ヤーレンズ」
 所属:グレープカンパニー
塙宣之  「令和ロマン」
 所属:マセキ芸能社
海原ともこ「ヤーレンズ」
 所属:吉本興業
中川家・礼二「令和ロマン」
 所属:吉本興業
松本人志「令和ロマン」
 所属:吉本興業

 7人中4人が吉本興業所属である。つまり、吉本興業の面々にはオチが非常に刺さりやすく、4人中3人が「令和ロマン」に票を入れていた。ただし、あくまでも飛び抜けたネタがなく、悩んだ際に「令和ロマン」が選ばれやすい、という状況だったということを強調しておく。もちろんここに「ミルクボーイ」がいたら、みんな「ミルクボーイ」だろう。

一方、「ヤーレンズ」はどうだろうか。

最終決戦はこんな感じかなと思った。

漫才の流れの構成力: A
ボケ(笑いどころ)の数: S
ボケ・ツッコミのわかりやすさ: C
大オチ(伏線回収):A ※頑張ったけどわからなかった
漫才の基礎技術:A

 決勝1回戦は面白かった、とりわけ、ボケの数では圧倒だった。しかし、決勝は、ボケのわかりやすさという点とオチが問題だった気がする。特に、繰り返しになるが、「ベンジャミン・バトン」に囚われてしまったのが残念だった。そのため、「ベンジャミン・バトンで大オチをしたため、ベンジャミン・バトンが理解できる人しか、笑えなかった」となってしまった。観客はともかく、審査員の中で、知っていた人は何人いたのだろうか。そのため、知っている人には刺さるが、裏を返せば、ほとんどの人にはどうした?と思われてしまう漫才になってしまった。
 また漫才技術においても「令和ロマン」を下回っていた気がする。

 そのため、評価としては、「令和ロマン」はとても良いとは言い難いけど、ボケの数がすごい(&予選が良かった)ということで「ヤーレンズ」を選択したのではないかと推測される。

最後に「さや香」についてはどうだろうか。

 結論・・山田邦子の言う通りだと思う。

 四則演算から新しい計算式が・・・という、いきなりわかりにくいネタに入っていってしまった。正直僕も30秒くらいでこれはやっちまった感を感じてしまった。
 特に、難しかったのが、「笑うために説明を聞き、理解が必要となる漫才」になってしまった。観客のみんなも疲れ切っていて、最後にひと笑いしようと思って見た途端に、不意を突かれた感じである。もちろん動きとかは面白そうだったけど全く頭に入ってこない。ただ混乱してしまった。
 きっと序盤とかでやるとハマるネタなんだろうなと思った。設定を加える漫才を選んだとしても「シシガシラ」の敗者復活戦ネタくらいわかりやすいものだと良かった。

最後に

 以上、今回のM1グランプリについて思ったことを書いてみました。お忙しい中お読みいただきありがとうございます。

 個人的に今回のM1グランプリのMVPは「おいでやす小田」じゃないかとも思った。あの緊張の空気の中をあのテンションで行ききるのは本当にすごい。あそこのやりとりは楽しかった。そして、もう電車移動は使えない、笑

 ということで、また来年も楽しみにM1グランプリをみようと思います。 もしすこしでも良いと思っていただけたら「いいね」を押していただけると嬉しいです。

<追記 12:30>
博多大吉さんの評価方法について記事がありましたので掲載します。

 最低点は80点、最高点は98点に設定。最高点98点の理由は「100点は出ないし、ぼくがつけることはできない。99点も現実的ではない」と説明。
 そして「新しさ」「技量」「オリジナリティ」をそれぞれ5点満点とし、観客が爆笑した「爆発ポイント」を3点満点で設定。これですべて満点で18点となり、最低点の80点に足せば最高点の98点になるという仕組み。
 これを基準に、トップバッターの令和ロマンの1回目の漫才は「新しさ3点、技量3、オリジナリティ4、爆発1」で91点に。

https://news.livedoor.com/article/detail/25611745/





 最近大﨑さんの下記本を読みましたが、なかなか面白かったです。途中決勝で誰かが、「松本さんと今田さんって友達ですよね?」とか言っていましたが、全然そんな関係じゃないと思います。この本を読んだらよくわかります。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?