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2020年一級建築士製図試験 本試験課題エスキスと感想

はじめに

試験終了から10日以上が経ってしまったので需要はもうないかも知れませんが、エスキスと解いてみての雑感、受験生の答案などから見られる傾向や合否のポイントになりそう(個人的な見解)なことなど書いていきたいと思います。

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雑感とポイント

解いてみての感想としては、「特に難しくはない、むしろ本試験としては簡単な部類かな」というものでした。担当受講生に話を聞いていても「難しい」という感想を持った方はおらず出来なかったという人も少なかったようです。それは試験当日の復元会の参加者の多さからも予測出来たことでした。「出来た」と思う人が多い時は復元会の出席率も高くなる傾向にあります(自分自身では合否、というより不合格の断定が下せない=ある程度出来た実感がある人が多い)。課題文のレイアウト変更、文章量増と「揺さぶり」はありましたが難易度に大きく影響を与えるほどではなかったと思います。
以下、上記エスキスをやるにあたっての感じたことやそこから想定される課題の(試験元の)狙いなどについて書いていきます。

①厳しい敷地条件
敷地図がここ数年より小さくなって情報量が減った代わりに、道路幅員が8m、4mとこれまでにあまり無いような厳しい敷地になっています。これは明らかに道路斜線の検討をしているか、またそれを踏まえた計画が出来ているかを見るためのもので、断面図が東西切断指定となっているのも「4m道路側の斜線を見るぞ」という試験元からのあからさまなメッセージだと思いました。『2020年一級建築士製図試験課題「高齢者介護施設」』に書いて想定していたような道路斜線の図示要求はありませんでしたが道路斜線への理解は必須でした(最低4mのヘリあき必要)。ただあからさま過ぎることもあり、後述しますがここに引っかかった受講生は少なかった(担当受講生では0)かと思います。少し試験元の葛藤があっただろうなと思うのは1階の地域交流スペースに天井高指定がなかった点です。仮に天井高指定があれば配置計画がかなりタイトになり斜線に当たる人も増えたことが想定出来るので、失格者を多く出し過ぎない(合格者4割確保)ための天井高指定なし、だったのかなという印象を受けました。

②緩い廊下係数
ユニット3つと居宅サービスを2、3階にまとめる、という構成は面積の整理からもほぼ自明の構成で、逆にそれ以外にするとやりにくいほど断面検討は分かりやすかったのではないかと思います。面積的にもユニット1つと居宅サービスがほぼ同じ、残りの共用管理にしてもユニット2つ分の面積とほぼ同じで階移動のバランス検討をする必要すらほぼありませんでした。つまり非常に簡単に断面を構成することが出来ました。しかも大きくヘリあきを取って小さいはずの建築可能範囲で計算しても余裕がある廊下係数が計算で出てきたかと思います。昨年は構成はほぼ自明であるものの廊下係数が厳しい(というより要求室面積を満たすことが難しい)という課題であったことと比べても今年の課題の易しさが際立ちます。ここでなぜそのような課題になっているのか考えて思い当たったことが、次の2つです。
 ❶光庭または中庭を作らせようとしているのかも知れない
 ❷1階に機械室が必要だということへのヒント
まず❶についてですが、敷地条件が厳しいこともあり個室郡には採光関係の条件指定はないにも関わらず、生活の中心になる共同生活室とデイルームには「自然光を取り込み、快適な空間」とする条件がありました。周辺環境を考えても東西南北の優劣がさほどはっきりしない中、光庭または中庭はその条件を有効に満たすだけでなく、吹抜け等の要求がないこと、廊下係数に余裕があることと相待って、課題として要求しているものだろうなと思いました(が、そのような受講生解答は僕が見た限りではありませんでした…)。上記のエスキスの他、下記2つのエスキスもそのような考え方の元作ったものになります。
次に❷の機械室ですが、今回設備については「2.建築物(4)③」に「屋上に、室外機、キュービクル、自家発電設備を設置」と、屋上に置くものを「など」といった表現を使わずはっきりと指定し、かつ「2.建築物(5)要求室表」の設備欄に「設備計画に応じて機械室を計画」と室内に機械室を設けることを指示しています。読み取りで気づいていなくても廊下係数が緩いこと前提で読むとはっきり見えてくる内容だと思います。ここから1階に機械室を計画出来るよ、というヒントかな、と思いました。

③ユニットの構成とスパン割など
留意事項に「居室の採光」とあるものの、上記の共同生活室、デイルーム以外には特段の条件がないため、2階以上であれば最低でもバルコニー先端から境界線まで2mあれば法的採光は満たせる計算になります。そのため個室の配置とユニットのパターンは複数想定されます。上記のエスキスは「南北住戸、東西ユニット」ですが他にも「南北住戸、南北ユニット」や「東西住戸、東西ユニット」(下記エスキス参照)があり、どれを選んでも問題なくプランニング出来ます。個人的に試験当日夜に解いた時は下記エスキスの「南北住戸、南北ユニット」になり、最も速く、やり易い構成だと思います。またスパン割に関しても6スパン×3スパン、7スパン×3スパン、6スパン×4スパン、5スパン×4スパンなど、どのスパン割でも大きな問題なくプランニングが可能です。大空間(というか、仮想床)がないため自由度が高く、この検討で苦しんだ人は復元図を見てもほぼいなかったように感じました。

④その他の条件
まずは「アラーム弁室」で?となる人は多かったかと思います。こういう類のものは毎年何かしらあり、そういうものに出会った時に大事なことは欠落だけは防ぐ、ということです(担当受講生はまさしくそのような対応をしてくれていました)。試験元も完璧に計画することではなく注意深く物事を処理しているかを見るためにこういうものを入れているのだと思います。
そして「屋内廊下1.8m」です。これは今年の合否を分けるポイントになるかと思います。書かれ方からすると明確な条件であるため、管理側であろうと条件を満たせていなければランクⅢだと思います。ただ、一律ランクⅢとすると4割のまともな合格者が出ない程ミスをしている受講生が多いということも事実です。そのため減点になるだろうという資格学校の分析はもっともだと思います。管理廊下を2mで計画した人の中には「管理ゾーンなのにそんなに広い廊下が必要なはずはない」という主張をする人もいるでしょう。その通りだとは思います。しかし建築士試験においては自身の考えや一般常識より「課題文内容」そのものの方が重要です。そしてそれは実務においてクライアントの意向が最優先であるのと同様です。実務においては常識や慣例を元にクライアントと議論出来る可能性はありますが、建築士試験においては出された条件は絶対であり議論の余地はありません。個人的には減点は大きいだろうと思っています。

受講生の答案状況、合否のポイント

改めて、ですがここから書く内容はあくまで担当受講生及び所属教室の状況(大体の)を踏まえてのものであり、特定の資格学校の見解ではありません。また個人の経験による憶測であることを前提としてください。

※以下有料部分では合否のポイントの他、上記のもの含め3つのエスキスエスキス時にどのように考えていたかを掲載しています。Nの解答例は見れていないのですが、資格学校のものとも違うものになっているかと思います。
また、昨年の同類記事にも書きましたが、個人特定につながる可能性もあるため想定数以上購入されるか、一定期間が経過した後は値上げさせて頂きます。

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