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2022年一級建築士製図試験課題「事務所ビル」

はじめに

今年の課題が発表になりました。例年通り「所感」をまとめたいと思います。
念のため、内容は完全に個人的な見解であって何らかのエビデンス等があるものではないことご承知おきください。

発表内容

まずは発表内容についてですが、概ね昨年同様となり大きな変更点は見られません。
昨年は(注)の数が大きく減り(ヒントが少なくなり)、また「集合住宅」という誰もがよく知る用途であるため絞りどころがなく難しくなった印象を受けました。今年の「事務所ビル」も昨年の「集合住宅」同様絞りどころがないだけでなく、H21の「貸事務所ビル」以上に該当する建物が広範に渡るため、単にレンタブル比を押さえれば良いというような単純な学習では不十分になることは明らかです。さらに複合用途がある場合、「集合住宅」以上に組み合わせ可能な用途、空間が多岐に渡るためエスキスの難易度(本試験はともかく、学習・修得しておくべき内容)は上がりそうです(詳細後述)。

昨年との変更点は3つあり、一つ目は(注1)の法令の内容から「採光」が無くなっています。これは「事務所」では法的採光が必要ないことが理由と考えられます。二つ目は(注2)として「建築物移動等円滑化基準」を満たす建物が要求されていることです。これは「事務所」が特定建築物でバリアフリーの適合義務がないためあえて記載してバリアフリー建築の計画をさせることが目的と考えられます。ただ要求が「建築物移動等円滑化誘導基準」適合ではないため階段に関しては法適合していれば良く、レンタブル比等との兼ね合いでどこまで配慮・計画するのかは判断力が問われる部分になりそうです。三つ目は留意事項の中で、「二酸化炭素排出量削減」に配慮、という文言が初掲載されていることです。これまで同様「省エネルギー」という文言もあり、試験においてはこれまで同様の対応(高効率設備の計画やパッシブデザインの導入等)になるでしょうが世相を踏まえた変更点でもあり、要点でより踏み込んだ知識が求められる可能性もあると思っています。

読解力が重要

ひと月ほど前にtwitterに「オフィスビル」になっても不思議ではないと書きましたが、そもそもそのように考えた最も大きな理由が、昨年本試験で「床面積の記載がない」課題文が出ていたことです。結果的に「床面積の記載がない」ことはエスキスや計画の難易度だけでなく合否にも大きく関わらなかったわけですが、ここ数年の傾向では試験元が課題文や標準解答例で行うこのような「変更」は翌年以降の合否に関わるようなポイントの布石になっています。
昨年本試験では◯戸以上という「匂わせ」のみで収益性、事業性についても問われていなかったため条件遵守で良かったわけですが、床面積の記載なし(=容積率いっぱいまでの計画が可能)という条件下であれば様々な形で難易度を調整出来る「オフィスビル」は狙われそうな用途の筆頭だと思っていました。

単純に貸事務所の場合、「事業性・収益性」という言葉が課題文の頭や留意事項、要点等で複数回出てくれば昨年のように条件を遵守するだけではなく容積率いっぱいまで床を計画する方が妥当(それが課題文要求と読み取れる)になり、その判断をさせる難しさがあります。一方自社ビルの場合には「事業性・収益性」という言葉が複数回出てきても必ずしも床面積だけの問題にはならない、という難しさがあります。地上部に設けるカフェ等の顔出し、自社をアピールするギャラリーの設置等が十分「事業性・収益性」に対する答えになりえるからです。

つまり昨年は条件遵守で良かったから今年もそうだ、と一概には言えない課題用途であり、読解力と判断力が曖昧だと命取りになるような課題だと思います。

「事務所ビル」=基準階型ではない

2年続けて基準階型であったため、ゾーニング型を想定していた人が大半だと思います。その中で「事務所ビル」となり、3年続けて基準階なのかと思っている人も多いでしょう。しかしよく考えて欲しいのですが、そもそも「基準階型」と「ゾーニング型」の大きな違い=エスキスにおけるポイントの違いは何なのか、ということです。大雑把には、「基準階型」は基準階でコア位置を決めてから低層部の計画を行うのでプランがしやすく、「ゾーニング型」では大空間や吹抜けを手がかりにコア位置を決める必要があるので比較的難易度が高くなる、というのが一般論になると思います。この一般論において、「基準階型」で基準階平面およびコア位置が定まってくるのは同一単位の反復(昨年であれば居室)があるからであり、そのような反復単位のない「事務所」は基準階平面を定める根拠に乏しく(景観などの条件も用途上強制力が高くない)、したがってコア位置も一意には定まってきません。つまりコア位置の決め方はむしろ「ゾーニング型」と同じになるため「事務所ビル」を「基準階型」と考えるのは早計です。
要求図書が3年続けて各階平面図となっているため何階建ての建物になるのかはわかりませんが、僕が持っているイメージとしては「3層のゾーニングタイプの建築物でかつ可能性として3層目と同じプランが上部に複数積まれている建物」です。
「事務所ビル」は断面図の作図量が増えるかもしれない「ゾーニング型」の建築物だと言えると思います。

複合用途について

昨年の「集合住宅」とは異なり「事務所ビル」ということで大空間や吹き抜けとの相性は悪くありません。このことも「事務所ビル」がゾーニングタイプとして考えても良い理由になると思います。上述の通り、要求図書が各階平面図となっているためおそらく3平面(〈B1F、1F、2F〉or〈B1F、1F、基F〉or〈1F、2F、3F〉or〈1F、2F、基F〉)となり、自社ビルであろうが貸ビルであろうが低層部(1Fまたは1F+2F)には複合用途が入ることが予想されます。具体的にはレストラン、カフェ、ショールーム、店舗、ギャラリー、集会所、多目的ホール、保育園、クリニック、etc. 要は何でもありえる、ということです。こうした複合用途の中で特に注意をしておきたいのが、異種用途区画の対象になるものが何か、ということです。昨年初出の異種用途区画ですが、初出のためか結果からミスしていても即ランク3、4ではなかったことが読み取れました。ただ、これは◯防、◯特の時と同じで今年からは一発アウトになる可能性が非常に高い項目でもあります。昨年は「集合住宅」自体が法27条1項〜3項に該当する建築物であったため、それ以外の部分(具体的にカフェや学習塾、駐車場)との区画に異種用途区画が必要でした。今年の「事務所ビル」はそれ自体が特殊建築物ではないため、複合用途部分が法27条1項〜3項に該当する建築物になるかどうか、がポイントになります。詳細は割愛しますが、建築士試験の規模の建物の場合、対象になりそうなものは「200㎡以上の集会場」と「150㎡以上の駐車場」です。これらの用途が複合用途として要求された場合は区画部に◯特記載が必要となるので注意が必要です。

ゾーニングについて

今年はゾーニングタイプの建築物同様になるのではと予想していますがそれは仮想床(2層大空間や吹抜け、屋上テラス等)の計画においてであって、昨年の「集合住宅」同様「事務所ビル」もゾーニング自体が難しくはならなさそうです。というのも、利用者と管理者を明確に分ける必要性がある用途ではないため動線の交錯が問題になりません。あくまで課題条件に従って計画すれば問題なさそうです。「事務所ビル」においてありえそうなゾーニングとしては、
①時間別フロアゾーニング
②セキュリティゾーニング(自社ビルの場合)
③複合用途部分の利用者/管理ゾーニング(レストラン等)
くらいになるのではないでしょうか。

現代の「事務所ビル」

コロナ禍以降の在宅ワーク推進だけでなく働き方も変化している現代において事務所空間にどのような変化が起きているか、についてです。
コワーキングスペースやシェアオフィス、レンタルオフィスやサテライトオフィスといった様々な呼称、使い方がありますがこれらはオフィスをどのような場所として考えるか、またその考え方によって運用しているかという「ソフト面」での多様性であり、建築そのものである「ハード面」において特徴的な空間特性やゾーニングがあるわけではありません。つまり建築士試験において計画する「事務所」において特別わかっておかなくてはならないことはないと言えると思います。もちろん要求室表の室名にこれらの名称が当てられることはありえますし、要点記述で考え方が問われる可能性もあるため知識学習は必要になりますが必要以上に構える必要もないと思っています。

まとめ

昨年同様学習の焦点が定めづらい難しい課題になりました。ただ、ここで書いたように昨年の流れから押さえておくべきポイントもいくつか存在します。何よりここ数年継続している法令遵守の流れは変わっている様子はありません。「事務所ビル」というシンプルな用途のためエスキス(計画)自体が複雑でおさまらないというものになるとは考えにくく、やはり課題文を正しく読み取り、如何にミスを少なく出来るか、が合否に直結してくると思います。


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