2023年一級建築士製図試験 本試験課題エスキスと感想
はじめに
エスキスと解いてみての雑感、復元図の傾向や合否のポイント(後日追記)になりそうなことなど書いていきたいと思います。なお、内容は全て個人的見解によるもので特定の資格学校の見解等とは全く関係がないことご承知おきください。
雑感とポイント
近年課題の自由度が高くなっており、昨年、一昨年についてはその自由度が難しさの一因となっていた(R3:住戸数以上要求、R4:階数自由)のですが、本年の課題においてはその自由度ゆえにここ数年で最も解きやすかった課題となったように感じました。
復元会に帰ってきた受講生に聞いてもエスキスに2時間以上かかった方がおらず、私自身もゆっくりとやったにも関わらず1時間半程度で終わってしまいました。
ただその高い自由度の中で構成に根拠を持つ必要があり、要点記述の(2)の内容との整合性は非常に重要なポイントとなりそうです。
他にも要点記述(4)の屋上設備の配置次第で塔屋が道路斜線の対象となるかどうかが判断できることや(7)で構造配慮を問われる内容もあることから記述と図面の整合性は例年以上に大きなポイントになるかも知れません。
与条件の情報処理という側面がここ数年強かったように思いますが、一転して与条件が少なくなり「課題用途をわかっているか」「設計思想を持っているか」を問うているような実務により近い試験にシフトしたという印象を与える課題だったと思います。その意味では「解きやすい=簡単」ではなく「試験」と割り切れない人(資格学校に通っている人では少数でしょうが)にはモヤモヤしたものが残る課題であったと想像出来ます。
以下、いくつかのポイントについて列挙します。
①課題文の変化
課題文がA2用紙になって以降、その密度は変わることなく高いままであったものが今回大きな余白がありました。要因の一つとして「Ⅱ.要求図書」の「1.要求図面」に『「Ⅰ.設計条件」の要求等を満足したことを明示』の文言があり、これよって「1.要求図面」の内容が大きく省略されたからでしょう。
具体的には「設備シャフト」や「要求室表の特記事項」の図示要求がなくなっています。
ただ、『「Ⅰ.設計条件」の要求等を満足したことを明示』という表現からこれまで同様、「設備シャフト」や「要求室表の特記事項」を図示することは要求されていると考えて間違いありません。
構成の些細な変更のようにも思えますが、これまでは「1.要求図面」の内容を満たしていさえすれば良かった所が、『「Ⅰ.設計条件」の要求等を満足したことを明示』となることで「どこまで図示すれば要求を満足したことになるのか」の判断が受験生側に託されています。これは実務において「どこまで表現すればクライアントに伝わるか」を考えることと同様であり、これまでの「これだけ描いておいてくれればいいよ」とは大きく異なるものです。試験元=クライアントがどのようにでも判断出来る採点上のバッファが出来たとも言えますがより建築士の資質を問う内容に変化していることは間違いないと思います。
また「要求室表」に明示される室名等が少なく「必要な室等を適切に設ける」の文言による要求は課題用途への理解を確認しているだけでなく設計者としての能力(判断力)を試していることは自明であり、問い方(課題文)自体も大きく実務よりにシフトしたことを感じさせました。
②北側斜線
Sにおいては本講座内で北側斜線を取り扱う課題がなく、対応出来たかどうかは講師や校舎によって左右されそうです。ただ北側斜線は道路斜線のように後退緩和がないため「知識」として一度さらっておけばその対応は難しいものではなかったと思われます。
試験元は初出の法規に関しては一発アウトにしない傾向があります。
今回は道路と(無関係といっても過言ではない)隣地に関しては斜線勾配を明示しているにも関わらず北側については触れず、一方で要求図面の断面図においては北側斜線明示の要求があります。
このことから「正誤は問わず作図していないものは一発アウト」「間違えているものはその内容により減点幅あり」になるのでないかと思います。
③北側隣地公園との関係
北側公園との関係についてですが、まず課題文に明確に「管理者が異なる」と書かれてある意味を考えると「北側公園からアクセス」しているものは非常に厳しい結果になると思われます。
担当受講生にも「周辺環境と駐車場位置を考えるとアクセス出来ない方がおかしい」と言う方がおり、その考え方には同意出来ますが、課題文に周辺条件として「管理者が異なる=一体利用は出来ません(しません)よ」とわざわざ書いてあるので苦しい主張と言わざるを得ません。課題文に意味のない文章は存在しないからです。
仮に課題文に「管理者うんぬん〜」の表記がなければ「公園からのアクセス」は望ましい計画と言えるでしょうが本試験は「こうあるべき」ではなく「条件遵守」が要求されることは結果からも明らかです。
一方、これは「北側アプローチ」を否定するものではありません。
北側斜線の影響もあって大きくなりがちな北側へリあきを使っての「開放的なアプローチ空間」という提案はあり得るとは思います。ただし当然敷地内へのアクセスは西側道路からですし、敷地内通路も西側道路に達するように描けている必要があります。
④異種用途区画
「荷解き配本スペース」が異種用途区画の対象かどうか、ですが私は対象になると考えています。Sにおいてそのように指導していたからというのもありますがそもそも異種用途区画とは用途の異なる室が同一建物内に並存する時、その利用者や利用状況の違いからくる危険性を避けるための防火区画です。今回図書館自体がその対象用途規模であることでそれ以外の用途がある場合は区画が必要となります。
ここで焦点は「荷解き配本スペース」が駐車場であるか否か、ですが駐車スペースがある以上「駐車場用途」があると考えるべきだと思います。
一方課題文には「防火区画(面積区画、竪穴区画等)」とあり異種用途区画には具体的に触れられていません。そのため一発失格ではない可能性が高いと思われますが「等」の文字に異種用途区画が含まれている、と読むことも可能です。
いずれにせよ安全側で計画しておいた方が良かったものだと思います。
⑤蔵書数指定
面積が与えられた上で蔵書数の指定がありました。
これは明らかに「作図している書架スペース面積」を確認するということでしょう。
一般開架については50000/170≒300㎡程度、児童開架については10000/170×2≒120㎡程度、それぞれ書架の作図がこの面積以下の場合は減点がある(条件を満たせていない)と思われます。
⑥必要諸室の設定
「乳幼児連れに配慮した室」「運営管理に必要な室」ですが、それぞれきちんと学習をしていれば「ないことが不自然」なものは問題なく計画できたと思われます。
前者に関しては最低限「授乳室」、出来れば「幼児用便所」「ベビーカー置き場」等、後者に関しては最低限「事務室」「図書作業室」「ごみ庫」「倉庫」、出来れば「更衣室」「館長室」「案内カウンター」「休憩室」等になるかと思います。
⑦屋上設備の配置
屋上設備スペースが建築面積の1/8を超えると塔屋が道路斜線の検討対象となります。今回条件にて屋上設備スペースの面積指定はありませんでしたが要点記述において配置が要求されておりその内容から明記していなくても1/8を超えていると判断される可能性があります。
まず太陽光パネルがあることからも1/8を超えている前提での検討が必要か否かですが、必要ないと考えられます。
一般的に太陽光パネルを設置した場合は広範囲となりますがあくまで問われているのは「配置」であり「面積」ではありません。そのため1/8を意識したイメージ図の場合、1/8を超えているの判断が明確に出来ないため塔屋が道路斜線に当たっていても不問になると思われます。また屋上設備スペースに「建築面積の1/8以下」と明記している場合はイメージの内容如何に関わらず不問になるでしょう。
一方、明らかに1/8を超えているイメージを描き「建築面積の1/8以下」の補足もなく塔屋が道路斜線に当たっている場合、法規に抵触していると捉えられる可能性があると思います。
いずれにせよコアを南端から1スパン北側に計画したり、北側斜線との兼ね合いもありますが南側へリあき4mで計画出来ていれば問題ないかと思います。
本試験エスキス
毎年受講生が復元図を描いている時にエスキスをするのですが、受験生ほどの緊張感は持てないにしろ時間を決めてやりきることにしています。その為まずはセオリー通りに「受講生ならこうなるかな」と思いながら解くことを意識しています。
ただ今回は自由度が高く、さらに 課題条件を整理するだけでは一つの案に収束しそうにありませんでした。ここ数年本試験は「設計」ではなく「条件整理」の様相を呈しており「空間構成」はもとより「コンセプト」のようなものも要求されていませんでした。ところが(上記に詳述していますが)一転して条件が少なくなることで「コンセプト」=「どのような図書館にするかという考え」がないと非常にチグハグな構成になる課題でした。
結果として1階に企画展示関係を配置し、2階児童開架+3階一般開架 or 2階一般開架+3階児童開架というフロアゾーニングの構成が受講生の主流でしたが私は多世代交流、面積の「計○㎡」から階をまたぐ分散計画が望ましいと考えエスキスを進めました。
外部施設配置はセオリー通りに西側歩道付道路の主アプローチ脇にHP、歩道のないサブ道路から荷解き搬入とし東側駐車場からのアプローチとして南側にサブエントランスが作れれば良いな、という意識でした(南は住宅、集住とはいえ1階は「店舗」のため、西の歩道付道路同様に人の流れがあると考えられる)。
要求室に階指定も配置指定も近接・隣接要求もない為、「一般開架を吹抜けで繋いで高天井部分とし専用階段を設ける」というイメージで階高4m×3で検討し北側3m、南側3m、西側はHPで6mのヘリあきをとって40m×29mの計画範囲となり、50㎡単位以上要求から8m×7mグリッドが最も妥当という判断で器を決めました。
「図書館」であることから1階に一般開架と児童、2階にその残り、と考えましたが(下記に詳述)、要点(7)の閉架書庫の構造が気になり1階に閉架書庫を配置することを優先し1階企画展示関係、2、3階図書という構成で進めることにしました。
2階については(結果的に計画出来た吹抜けのある)廊下を挟んで北側の景観の良い方に一般開架、南側の日照に期待できる方に児童開架とし賑わいのある図書スペースとし、一方の3階は落ち着いた雰囲気の、書架のみが高天井吹抜けに面して並ぶ一般開架と図書関係の諸室が南に並ぶことをイメージし、廊下係数に余裕があるため問題なくプランできました。
自習室については3階にまとめて計画も可能でしたが対面朗読室は落ち着きのある3階の方が良いと考えたことと、自習室も読書用→2階、学習用→3階という分け方は自然に思えたので分散配置しました。またワークルームは1階での計画も可能でしたが特記からその用途を考えると地域住民の利用よりも中高生等の書籍を用いたグループ利用の方が「図書館」の室として現実味がありそうと感じたので3階にまとめて計画しました。
階高については今年はそもそも「図書館」であることから4mスタートで計画することに違和感を持っていました(天井高さが3mに満たない圧迫感のある「図書館」を体験したことがありません)。ただ指導においては検討方法の確立及び道路斜線や階段計画への対応から合理的ですし実際エスキスする際にも手早い検討が可能です。
本試験においては個人的に大丈夫そうと思う受講生にだけ天井高さ指定がない場合に斜線検討でのヘリあき決定後、逆算して階高(天井高)を上げた方が良いこと伝えていましたが実際に本試験でその対応が出来ていた受講生はいませんでした。
上記エスキスで階高4.4mとしているのはこの逆算による結果(4.4mの場合、階段外形も変えなくて良い)です。
試験元の標準解答例においてもR4年標準解答例からも読み取れるように斜線に当たらない範囲で階高の調整がされると考えています。
以上、上記エスキスをするにあたり考えていたことですが、改めて、今年の課題用途は「図書館」であり決して「コミュニティセンター」ではありません。
プランのし易さに任せて1階に企画展示とセミナールームを配置しましたが、そもそも「図書館」と言いながら1階に書籍スペースがないことには違和感があります。
階高のことも含め、そのような「図書館」としての「理想形」になっていないからといって不合格になる試験ではありません。
おそらく法令関係やアプローチ条件他もろもろのミスだけで不合格となる6割強の図面は決まってしまうように思います。ただ試験元が出してくる標準解答例①はそのような「理想形」の「図書館」になるのではないだろうかと思っています。下記有料部分ではそのような「理想形」の「図書館」のエスキスを公開したと思います。
受講生の答案状況
改めて、ここから書く内容は特定の資格学校の見解ではありません。Xにも書きましたが資格学校のチェックシートでは実際にどうなるかに関係なくほぼ合否の判定が出ないものになっています。そのためここに書く判断基準は個人的な考えやこれまでの経験による憶測であり、年末に出てくる標準解答例との差異が少なからずあるであろうこともご承知おきください。情報源もあくまで担当受講生及び担当教室、所属校舎(+α)の状況(大体の)を踏まえてのものであり一般性については何の保証もありません。
今年は昨年同様、約100枚〜150枚程度の復元図を確認することが出来ました(うち詳細に内容を見ているものは50枚程度になります)。
ここ数年は作図時間短縮の強化、およびチェックの重要性についても力を入れていることもあって完成度や密度に関しては一定以上のものになっているものがほとんどであり未完成と呼べるものはありませんでした。
復元図全体の内容ですが、今年は「北側斜線をかわせているかどうか」が大きなポイントになることはご承知だと思います。ただ「それ以外の目立った減点項目」が非常に少なく一見すると完成度が高いため小減点の多寡が合否を分けそうです。
北側斜線を除いた従来の法条件違反やその他のミスによる明らかなランクⅣの図面が1割程度しかなく残り8割強から合格図面が選ばれます。上記で「試験元は初出の法規に関しては一発アウトにしない傾向があります」と書きましたがこの状況では「北側斜線絡みのミス」は重大な不適合扱いになりそうです。
ここで、「北側斜線」に抵触している図面の割合ですが、非常にまちまちです。
担当教室では該当者が1割もいなかった一方、所属校舎の他教室では半分以上抵触している所もありました。確認出来た図面で重大な北側斜線抵触割合は25%程度です。また他地方に所属する友人講師に状況を聞くと校舎ごとでのばらつきが大きい(2割以下〜5割近くまで)ということでした。このことから平均すると3割程度は「北側斜線絡み」の不合格となりそうです。それでも残りの6割程度の図面は合格している可能性があるものとして考えられます。
資格学校のチェックシートにおいてもおそらく同じような割合でAがついているはずで多くの受講生はどこがポイントになるのか気になる所だと思います。
上記の通り今年は全体的な完成度も高く「これがポイントだ」と明確に言えるものがほとんど無い状況です。そうした中で復元状況を元に明らかなランクⅣに該当しているものと合わせて合否を分ける減点になると思われるもの、その理由を次項目で書いていきたいと思います。
※以下有料部分では復元図や昨年本試験結果等を踏まえての合否のポイントの他、標準解答例がこういうものでは無いかと想定したエスキスを掲載しています。(内容から個人の特定につながる恐れもあるため有料記事としていることご了承ください。)
※今後想定数以上の購入あれば値上げさせて頂きます
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