見出し画像

2024年一級建築士製図試験 本試験課題エスキスと感想


はじめに

エスキスと解いてみての雑感、復元図の傾向や合否のポイント(後日追記)になりそうなことなど書いていきたいと思います。

なお、内容は全て個人的見解によるもので特定の資格学校の見解等とは全く関係がないことご承知おきください。

雑感とポイント

ここ数年で間違いなく一番難しい試験だったと感じました。

R5年は北側斜線という初出の法令があった代わりなのかプラン自体の自由度は高くまとまりやすい傾向にありました。
決して簡単ではなかったもののスパン割や構成に悩む所は少なく、条件遵守のハードルも低めであったように思います。

一転してR6年はサプライズと言えるような項目はなかったものの課題条件が比較的多く、何よりプランニング難度が跳ね上がりました
廊下係数が厳しい、いわゆる器におさめにくい難しさではなく、室条件の厳しさ(採光、面積、整形、無柱等)によるもので、平面検討(特にコア配置)の明確な方針を持たずにパズル的にプランを行っていた方はおさめることが非常に困難であったことが容易に想像できます。

R1年を振り返ると学科合格率が高い年の製図課題は難しくなる流れがありましたが、R6年においても同様の流れになったと言えるでしょう。

以下、いくつかのポイントについて列挙します。

①プランニングの難しさ

上記の通り、結果として今年一番のポイントはプランニングの難しさだと思いました。
これは課題文を読んだだけではわからない、実際にやってみないとわからない難しさです。

均等スパンを制限する免震や駐車場のサイズ、大面積の室や無柱・整形が基本の室とその数、さらに室面積適宜要求による自由度の高さ。
R1年のプランニングの難しさとは種類の違う、最も本質的な(建築設計的な)難しさの要求だったと思います。

R1年をはじめとしてこれまで建築士試験のプランの難しさは基本的に計画する器の大きさが小さい、つまり延面積の上限指定によるものでした。
その場合、廊下係数を出すことでプランをやり始める前から「プランニングが厳しい」ことが分かるため何かを割り切らなければならないことも最初から想定しつつのプランニングが可能でした。
実際、共用空間の小ささ、廊下の屈曲、室の形状、無窓等を織り込み済みでプランすれば何とかおさめることが出来るというものでした。

一方、本年のプランの難しさは器の小ささ、つまり延面積による制限ではなく計画する室、つまり中身の大きさとその条件による難しさでした(器を小さくするのではなく入れるものを大きくしてきた)。
実際に各階の廊下係数を算出すると幅はあると思いますが1.6〜1.8となり「プラン自体は難しくない」と思われる数字が出ます。
ところが実際プランニングを始めてみると「余白はあるのに」おさめられない、ということが起こったと思います。
これは室そのものにキツめの条件を付与しているためそれらを実際にプラン出来る面積(部分)が限られていることによるものでした。
さらに下層にある大空間の影響でコア位置も制限されました。
そのような状況である程度割り切ってプランを進める必要があったわけですが、廊下係数の緩さから「割り切る必要」を感じていない中このような難しさを処理するのは簡単ではなかったはずです。
むしろ廊下係数の緩さから「プラン出来ないのはおかしい」という制限がかかって不必要に時間を浪費された方も多かったのではないでしょうか。
本試験の緊張と焦りの中で何が何だかわからないとなった方は相当数いたのではないかと思います。

方法は人それぞれでしょうが「エスキスのコツ〜平面検討・プランニング」で書いているような「プランニングの基本的な考え方と方法・方針」がないと対応が難しかったはずです。

大きなサプライズや初出の法規はなかったものの、このプランの難しさによってエスキス時間、ひいては作図時間とチェック時間に影響が出た方は非常に多いでしょうしそれによって他の課題条件への対応に差が出たであろうことを考えても本年の合否を結果的に分ける最も大きなポイントだと言えると思います。

②階数指定なし

近年の基準階タイプでは階数指定なしはスタンダードになっておりサプライズですらなくその対応をどうするのかが重要というものになっています。

高さ制限や斜線の情報が厳しくみられることも当たり前になっている中、まずは高さを抑えて4階、無理なら5階、無理なら6階、、、という形で考えるのが基本だと思います。

ただ本試験においては課題文を一読すると「5階建以外ありえない」となる内容でした。

というのも段抜きに「主に建築学科の学部3年生(定員80人)、4年生(定員80人)及び大学院生(定員80人)の総勢240人の学生が使用する」と明記されているからです。

この情報から深く考えずとも基準階3層はすぐに判断が出来ますし、実際基準階に計画要求がある室面積合計を3層で割ると1,2階の計画要求室面積の1/2とほぼ同等の数字となり総5層での計画が可能であるという数字が得られます
室数要求がある研究室も3の倍数であり、階数指定がないと言ってもほぼ自動的に基準階3層、5階建が導き出せる内容でした。

では5階建以外の計画(4階建、6階建)はどうなのか?です。
ここで上記の段抜き情報を深く考える必要があると思います。

製図室床面積が与えられていることから「3つの学年、それぞれ80人」という段抜きの情報がなくても階数の検討は可能でした。
ヒントにはなっていますが「無くてもエスキス検討には問題ない」ものです。
ただ、試験元は不必要な情報を課題文に記載しません
ではこの段抜きが「何を」示しているか、です。

これは、3つの「学年ごとのゾーニング」及び「製図室面積は1人当たり3㎡弱必要」という条件に近いものだと考えられる、ということです。

少し考えればわかりますが、ゾーニングをほのめかすだけなら人数は必要ありませんし、1人当たりの面積をほのめかすだけなら3つの集団であることを示す必要はありません。
「3つの学年」と「人数」を合わせて明記することで意図の読み取りが難しい条件になっていると感じました。

これを元に4階建、6階建の可能性を考えると、4階建は条件を満たすことが可能です(3年+M1、4年+M2の2層)。
ただ、6階建つまり4層に分けると「ゾーニング」か「1人当たり面積」のいずれかは満たせなくなります(1層はプレゼンルームと考えゾーニングを守って3層に振り分けると面積不足、4層に人数を振り分けて面積満たそうとするとゾーニング破綻)。
4階建はヴォリュームの検討から計画が困難であることはわかるのでここからも結果として「5階建」が導かれます
上記で「5階建以外ありえない」と書いたのはこういう理由です。

これまでの階数自由の本試験では階数が原因での不合格は無かったと思われる結果になっています。
今年も同様に階数自体は何階でも良い、になる可能性はありますがここで書いたように自由としつつもこれまでには無かった「条件」があると読み取れるため5階建以外での計画は非常に大きな減点=不合格になると予想しています。

①で書いたプランニングの難しさから5階建を諦めて6階建にした受験生もいると思いますが結果は厳しいものになるのではないかと思います。

※10/25追記

Xで「こういう6階建はどうでしょうか?」というDMがありました。
許可を得たのでここで内容踏まえて追記したいと思います。

要約すると内容は「製図室面積が210㎡、面積の根拠は各階を学年ごとで使うとして3層で630㎡、要求の700㎡の90%を満たしつつ4層あるので合計は840㎡>700㎡で問題がない(4層目は模型展示のギャラリースペースとして提案)」というものでした。

私はこれを読んだ時大丈夫だと思いました。

この考え方は試験時のもの(だとしたらかなり冷静)か後付けかは教えてもらえませんでしたが、自己都合解釈ではない課題文内容を踏まえて、かつ論理的な根拠が存在するものになっています。

「約」要求は近年出なくなりましたが要求面積の9割を満たしていれば問題ないことはこれまでの結果から読み取れます。
製図室210㎡は「ゾーニングを守ることを考えた時に9割面積を満たしつつ6階(4層)であることで以上要求も満たす」ことが出来ています。

つまり6階建であっても各階の製図室面積が210㎡以上であればゾーニングを満たしていると考えられる=6階建で問題ない、です。

そもそも私が「5階建以外ありえない」と考えるのは6階建になると「ゾーニングが破綻する」と考えていたからです。
つまり6階という「階数」そのものではなくゾーニングが満たせないことが問題だと思っていたわけです。

ゾーニングについては例年、合格基準に「空間構成とゾーニング」という形で必ず記載されています。
R5年においては児童開架スペースを複層に分け、かつそれぞれの階にプレイルームと一時託児室を設けていない(児童開架としてのゾーニングが破綻)方で合格している人はいませんでした。
またR4年においてはレストランのトイレが客用のものになっていない方はほぼ合格していません(時間別ゾーニングの破綻)。
いずれも「ゾーニングせよ」ではなく特記項目の解釈からゾーニングが要求されていたと考えられるものです。
結果からも試験元はゾーニングに関して重要なポイントとして考えていることがうかがえます。

なお経済性についても気にされていましたがそれは問題がないと考えています。
課題文中で経済性に言及されているのは基本的に「構造」に関してのみです。
確かに階が増すことでコストアップになりますが階数が増えたことで部材断面が極端に大きくなるわけではありません。
そう考えると不必要なPC梁の計画や岡建ち柱の計画といった合理的ではない計画をしていない限りは減点はあっても小さいと考えられます。

このDMくださった方の合否は分かりませんが、採点会を経て何も考えずに5階建にしたという方もいることを思うと、この方の方がおそらく試験元の求めている建築士としての素養が備わっているなと思いました。

③基礎免震構造

課題発表時の留意事項に「大地震等の自然災害が発生した際に、建築物の機能が維持できる構造計画とする。」という項目があったこともあり出題自体は驚きのあるものでは無かったですし受験生の方も対策は十分であったと思われます。

そのため、計画の不備は不合格に直結するのではないでしょうか。
特に断面図、要点の不備は非常に大きな減点が予想されます。

また平面においては「犬走り」と「カバー」の2つの明記が求められており、その作図や補足有無、さらに要求には無かった「メンテナンス用免震ハッチ」の有無などがどこまで出来ているかがポイントになるかと思います。

④講堂等の適宜面積

①の主要因の一つですが、条件整理として曖昧だとプランニングの難易度をさらに上げる要因になった項目です。

特に講堂面積は人数も多いため1人当たり面積の想定の差がそのままプランニング難易度に直結したと考えられます。

知識としての数字が重要であることは言うまでもありませんが、その根拠としての空間構成や什器レイアウトなど深い学習が出来ていたか問われる内容でした。

また別の視点では上限値と下限値の幅がある中での選択、適切なレイアウトによる設定など短期間の学習だけではカバーすることが難しい、臨機応変な対応力を必要とする計画能力を試す内容だったとも言えると思います。

⑤アプローチ計画

まず車の動線について、「歩道の切り開き不可」というこれまでにない明確な表現で西側からの駐車が制限されました。
西側駐車はわかりやすい不合格項目の少ないR6年本試験において数少ない一発失格項目だと言えるでしょう。

そのため車に関しては東側駐車一択ですが、一方の歩行者主動線については西側が望ましいことは周辺環境より明らかです。

こうした情報の整理から東西通り抜けのエントランスホールが理想であることは誰しもわかる所ですが、ここでも①、プランニングの難しさから様々なパタンのアプローチ計画がありそうです。

ただ、HPからの動線含め、免震のヘリあきで敷地内に通路が確保出来ているため(出来ているはずのため)「西側からのアプローチがない」や「HPから主出入口が遠い」は近年本試験の結果や標準解答例からも大きな減点にはならない(ランクⅠになる人もいる)と思われます。

⑥道路斜線

東西道路のはさみうち斜線ですが西側は復員80mと明らかに適用範囲外となる大きさでした。

東側についても免震+HP、または屋上庭園の1スパンセットバックなどによりほぼほぼ斜線抵触することのない敷地条件でした。

こうした中で東道路斜線の抵触や高さ情報の不備は不合格に直結する可能性が高いですが、昨年までと異なるのは課題文の高さ情報の中から「勾配」の明記が消えていることです。
斜線そのものや計算式から勾配を1.5としているかは当然確認出来ますが額面通りに受け取れば「勾配」は抜け落ちていても大丈夫、ということになります。

またポイントになるのは西側に何を書いたか、書いていないか、です。
そもそもは「適合情報」の要求です。
西側は明らかな「適用範囲外」で適合云々以前の問題であるためベストな表現は「何も書かない」だと思います。
もちろん「適用範囲外」の文字を書き込むことは大丈夫でしょうが、問題は復員を80mとした計算式を書いている場合です。
法的に「存在しないもの」の書き込みは法の理解不足として重く見られるのか不問なのか、注目のポイントです。

⑦屋上設備の配置

昨年に引き続いて要点での出題になりました。

要点では受験生の出来が悪いものは続けて出されることが以前にもありました。
R2年に「耐震計算ルート」が問われ、初出ということもあって当時は多くの受験生が適切な解答を書けずでした。
しかしそれが合否に影響したとは思われない結果となりました。

翌年R3年に再び「耐震計算ルート」が問われ、前年の学習が出来ていた方は問題なく答えられた一方、続けて出ることはないと高を括っていた方は中途半端な記述となり、図面に全くミスがない方でも不合格になる方がいました。

これは相対試験のため出来不出来の差の大きさが結果に現れたとも言えますが試験元が厳しく判断した可能性もあると思います。

要は昨年出ているもののため出来ていない時の減点は要点の他の項目より大きい可能性は高いのではないか、ということです。

内容次第では断面図の高さ明記部分との不整合にも問われる内容のため合否を分ける大きなポイントになるのではないかと思います。

本試験エスキス①(1/400)

毎年受講生が復元図を描いている時にエスキスをするのですが、受験生ほどの緊張感は持てないにしろ時間を決めてやりきることにしています。

その為まずはセオリー通りに「受講生ならこうなるかな」と思いながら解くことを意識しています。

※後日追記予定

受講生の答案状況

※後日追記予定

↓下記、有料部分は現状見出しのみで本文全くありません。
ご購入いただいても情報が全くない状態ですのでご注意ください。
なお、本文については10/17以降随時追記予定です。

ここから先は

66字

¥ 3,500

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?