2021年一級建築士製図試験 本試験課題エスキスと感想
はじめに
エスキスと解いてみての雑感、復元図の傾向や合否のポイントになりそう(あくまで個人的な見解)なことなど書いていきたいと思います。
本試験エスキス①
以下のエスキスはおそらく受講生ならばこのようなものになるだろうな、という想定で作ったものです。資格学校の解答例も似たようなものになるのではないかと思っています。自身で最初に解いたものは少し異なっておりそちらについてはデータ化出来次第後日アップ予定です。
雑感とポイント
課題文を最初読んだ時は皆さんと同じくかなり驚きました。「床面積の合計」記載がない!しかし、言葉は悪いかもしれませんがそれだけでした。もちろん皆さんのようにプレッシャーがかかる状態で解いたわけではありません。それでもエスキス検討に影響を及ぼすものかといえばそうではありませんでした。しかも難易度はここ数年の中でも最も易しかったと思います(仮に難しい、と感じたならそれはやはりエスキス手順がしっかり身についていなかったからだと思います。やるべき検討をやるべきタイミングで行えば手が止まる課題ではありませんでした。)。特にSに通っており、直前対策、直前集中を受講した方にとっては既視感もあり、課題攻略のポイントもほぼ同じで本試験ということを差し引いてもさほど苦労せずにエスキスを完成させることが出来たのではないかと思います。
昨年同様、今年も復元会の出席率は非常に高かったです。昨年の記事にも書きましたが、「出来た」と思う人が多い時は復元会の出席率も高くなる傾向にあります(自分自身では合否、というより不合格の断定が下せない=ある程度出来た実感がある人が多い)。復元会参加者の中には未完成の方もおらずエスキスの難易度も低めであったことからミスの多寡=作図の完成度が合否を分けそうだ、というのが第一印象でした。ただ、エスキス実施後はこの自由度の高さが合否に影響を与えるかもしれないと思っています(下記で詳述)。
以下、ざっとポイントになりそうな所を列挙します。
①東西に幅員の狭い道路
東西に接道があり、昨年同様幅員が4m、8mと狭い道路であったため道路斜線の検討が必須でした。昨年と違い5階建てであること、東西の両側から斜線がかかること、用途上屋外階段やバルコニーなど計画次第で斜線が当たり易いものがあることなど、今年のエスキスを進める上で最も難しい所だったかと思います。ただ上記の通り、S通学の方は十分な対策を行っており対応出来ていない方、ミスをしている方はほとんどいませんでした。
②床面積の合計記載なし
R1年課題発表時に初めて注意書きに「建築基準法に適合した建築物の計画」という記載があり、内容としてそれまで問われてこなかった「容積率」の記載がありました。そのためR1年時は容積率から床面積の合計を想定する課題もやっていましたがR1が例年通りの課題文であったためR2、今年とも容積率から床面積を想定する、という手順は行っていませんでした。今回初めて容積率から最大の床面積を想定する必要があったわけですが、最大幅員の前面道路から出す容積率は4/10(住居系用途地域)×8m=320%であるため、課題文で与えられた容積率を用いて計算すれば良く、一発失格を誘引するものではありませんでした。また、エスキスを進めていけば分かることですが、300%の容積率を使う必要がない課題条件のため「惑わせる」以上のものではありませんでした。
③住戸数◯戸以上
住戸の数がA〜Cのいずれも◯戸以上、とあり②の床面積上限指定がないことと合わせ課題指定から増やす必要があるのかどうか、も迷うポイントだったかと思います。冒頭設計条件に「賃貸集合住宅」という文言があり当然多いほうが良いことは読み取れました。仮に「留意事項」や「計画の要点等」に何かしら「収益性」や「事業性」に関わる要求があれば「増やすことを求められている」ということになりますが、冒頭部分以外に「収益性」や「事業性」に関わる文言がないため、課題要求として増やす必要があったわけではない、と言えます。難しく考えすぎず、まずは最低限の要求戸数を満たしていれば問題ないというスタンスでエスキスすれば良かったかと思います。
④屋上庭園
日照要求や眺望要求がなく配置に制限がないばかりか、面積も50㎡以上と大きくはなかったため難しい要素ではありませんでした。
一点、一体利用要求のある共用室が「主に住戸C入居者用」であることに対して屋上庭園自体は入居者同士の交流スペースとあって「全ての入居者」が対象の場所であると読み取れることから共用部からの出入口が必要であったと思います。共用部からの出入り不可の場合、共用室が「主に住戸C入居者用」という表現で制約が緩められていることから住戸C入居者以外の使用も出来そこからの出入りも可能とも考えられますが、ゾーニングの観点から少しの減点はあるかもしれません。
他、「植栽」という言葉に引っ張られて客土を計画している受講生もいましたが客土の指定はないため階高が高くなって計画を苦しめるだけでした。防水と段差処理のスラブ下げだけで十分ですし植栽についても盛り土部を設ければ問題ありません。読み取りが曖昧な方、これまでの復習が曖昧な方は苦しんだかもしれません。
⑤アプローチ
二面接道とはいえ敷地短辺接道でかつ歩道付きは片方のみであるにも関わらずアプローチが必要なものは⑴住宅歩行者⑵住宅自転車⑶住宅車⑷カフェ歩行者⑸塾歩行者⑹塾自転車、と6つもあるためその処理は①の道路斜線に次いでエスキスのポイントになったかと思います。ただ採光を考慮しても南北でさほど大きいヘリ空きが必要ではないので奥行き4スパン取ることが難しくなく、また基準階が小さいことでコア位置の制限もほぼ無かったため処理の難易度もそれほど高くはありませんでした。
基本的な考え方は歩行者は歩道付きから(安全性の観点から)とし、加えて塾の自転車アプローチも歩道側から(小中学生対象の塾のためこちらも安全性の観点から)、歩車分離で駐車場は西側、住宅駐輪場はどちらでも、という所でしょう。
テナント部門は「外部から利用しやすい計画」という要求があるため駅などの周辺環境を考慮しても東側歩道付き道路に面することが必須と考えられます。一方住宅部門については課題要求がないため十分な敷地内通路+滞留空地が取れれば東西南北のどこに設けても減点はないのではないかと考えられます。
⑥住宅部門とテナント部門の動線
テナント部門について「住宅部門との動線やプライバシーに配慮」という文言の処理に悩んだ担当受講生が半分くらいいました。用途に即して考えれば「テナント部門は独立して設けアプローチでの動線交錯が無いようにする」ということになるかと思いますが、建物内動線を設けるかどうかで悩み、結果設けた方も数名いました。事務所ビルなどであれば他用途と建物内で接続していることも珍しくありませんが、こと集合住宅となると課題文にあるプライバシーや、何よりセキュリティへの配慮から内部接続は考えられません。ただ課題文から絶対にダメということが読み取れないということも事実(配慮という言葉には含みがある)です。行き来の動線に「セキュリティに配慮」したオートロックなどの明記があればいくらかの減点はあるかも知れませんが一発失格にはならないのではないかと思います。
⑦異種用途区画
これまでの面積区画、竪穴区画に加えて新しい要素として初出題でした。
Sでは触れる機会が2回ほどしか無かったため勘違いしている担当受講生もいたのですが、そもそも異種用途区画は「法27条1項〜3項に該当する部分があればその該当部分とそれ以外を区画する」というものです。今回の集合住宅は階数が3以上ですし面積も300㎡以上でもあるので法27条1項に該当します。つまり集合住宅以外の部分があればその規模に関係なく異種用途区画が発生します。今回具体的に異種用途区画が発生する可能性があるものとしては⑴学習塾(事務所)、⑵カフェ(飲食店)、⑶駐車場(自動車車庫)の3つになります。⑥に書いたように⑴、⑵に関しては行き来が必要ないものだと考えられますが住宅部門とテナント部門に行き来出来る部分があればその扉(やそのガラス袖壁部)は異種用途区画の対象になります。仮に「オートロック」の記載があっても◯特の記載がなければランク4でしょう。また駐車場に関しては居住者用かどうかに関わらずピロティ部になっていれば(屋内的用途が発生していれば)異種用途区画が必要になります。勘違いしていた担当受講生は150㎡未満の駐車場ならば異種用途区画はいらない、と思っていたようですが、おそらく事務所と駐車場の間で異種用途区画が必要かどうかの判断が150㎡以上の駐車場になっているかどうか、というよくある学科の問題に引きずられていたのではないかと思われます。上記の通り今回は「集合住宅自体が異種用途区画発生の該当部」になるのでピロティになっていれば駐車場の規模は関係ありません。実務上では50㎡以下の居住者専用駐車場であれば異種用途区画必要なしの緩和がありますが法改正により少なくとも建築基準法条文からはその緩和判断ができる部分が無くなってしまったので試験元がどのように判断するかはわかりません。
まとめると、⑴学習塾(事務所)、⑵カフェ(飲食店)、⑶駐車場(自動車車庫)との行き来部分に◯特が全くなければランク4になると思われます。
⑧地盤への対応
昨年に続いて一部軟弱地盤という条件でした。昨年の結果からこの地盤の対応についても不適切な場合厳しい減点があったように思われます。セオリーとしては上記エスキスの断面のように底盤下部の軟弱部分を地盤改良することになると思いますが、深基礎にしたり全体を地盤改良したりと受講生の対応は様々です。昨年同様断面図を東西指定してきたことにより、道路斜線と共に地盤対応についても問われているのでただのベタ基礎で何も配慮がない場合は合格は難しいのではないかと思います。
以上長くなりましたが個人的にポイントになったであろうと思う所をまとめました。課題を多くこなしていた方は対応出来た可能性が高いのですがやはり最も大きなポイントは①だと思います。道路斜線は採光ヘリ空きと共にミスをしている場合「明らかに」失格であり減点ではすまされません。これについて以下道路斜線に抵触する可能性のあるものを2つ追記します。
❶東側道路面の庇幅7m以上
上記⑤でも書いたように東側道路には多くのアプローチが来る可能性が高い課題設定でした。ここでアプローチ部全てに庇を設けていた場合、その幅の合計が7mを超えることは可能性として十分あり得ます。敷地の東側接道長さは35mであり、庇幅合計が7mを超えると庇幅が敷地接道長さに対して7/35=1/5以上となります。この場合この庇は道路斜線検討の際のセットバック緩和対象外となりセットバックを建物柱面ではなく庇先端からの数字にする必要があります。高さ17.7mの場合東側柱芯の必要なセットバックは3.48m→4mですが庇幅7mを超えているとその庇の出寸法の大小に関係なく最も出寸法の大きい庇出寸法分数字が小さくなるので3mや2mとなり道路斜線が当たっている可能性が高くなります。
❷西側空地に屋外機設置
西側は東側より道路斜線が厳しく高さ17.7m想定の場合多くの方が6mのヘリ空きをとって計画を始めたはずです。こちら側には駐車場も来るためこのヘリ空きの大きさとの相性もいいのですが、要求駐車台数がさほど多い訳ではないため計画によっては大きめの空地が発生します。ここに屋外機を設置した場合、建築設備も建築物の一部となるためセットバック緩和の対象外になります。5㎡以下と判断できるものなっていれば問題ありませんがそれ以上の大きさのものだとその屋外機の位置でセットバック距離が決まるため6m以下となり道路斜線が当たっているという方がおられることが予想されます。
受講生の答案状況
改めて、ですがここから書く内容についても個人的な考えやこれまで経験による憶測であり、特定の資格学校の見解ではありません。情報源もあくまで担当受講生及び所属教室の状況(大体の)を踏まえてのものであり一般性については何の保証もありません。
受講生の復元図を見て、まず完成度の高さ、密度は昨年と同等かそれ以上だ、というのが第一印象です。難しかったという意見もありましたが、それは本番の難しさであって課題を解き作図を完成させる難しさはやはりそれほど高くなかった、ということだと思います。ただ、上記に挙げたポイントをしっかりと押さえておかないと合格図面にはたどり着かない、という点で本試験らしい課題だったと思います。
ザックリとした分類ですが、全くミスをおかしておらず、間違いなく合格するだろう、という図面は全体の2割程度で昨年と大きくは変わらない印象でした。ただ、残り8割の図面は大小何らかのミスをしておりその内、間違いなくランクⅣだろう、というものが昨年より少なく2割程度、ランクⅣになるかも知れないというものが4割程度でした。このランクⅣになるかも、というのは主に新規要素である異種用途区画違反と上記❶に書いた庇緩和なしによる道路斜線違反の他、道路斜線作図ミスをはじめとしたミス多数図面です。資格学校ではこれらは一発ランクⅣではない、という判断(そうするとまともな合格者が35%が出ない)のようです。残りの2割の図面がおかしているミスはランクⅢ相当(不適切な地盤、不適切な動線交錯等)であり例年では合格図面にはなりません。資格学校の判断はこの例年同様の明らかなランクⅢ図面は不合格としてランクⅣかも知れない4割から1.5割の合格者が出るだろうという考えのようです。そのため採点会ではランクA(合格の可能性がある)が6割程度の受講生についています。
これらを踏まえて実際の合否を分けるポイントについて個人的な考えを書いていきたいと思います。
※以下有料部分では合否のポイントの他、当日に自身でやったエスキスとその考え方、他個人的に理想的だと思うエスキスなど3つを掲載しています。
また、昨年の同類記事にも書きましたが、個人特定につながる可能性もあるため想定数以上購入されるか、一定期間が経過した後は値上げさせて頂きます。
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