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2020年一級建築士製図試験の合格基準、標準解答例について

はじめに

結果発表から3週間以上が経ち合否いずれであっても落ち着いてきた頃かと思います。時間が経ってしまったため、エスキスの記事を書いた時同様需要は少ないかも知れませんが個人的にも整理になるためまとめをしておきたいと思います。

↓試験元公表の「令和2年一級建築士試験「設計製図の試験」合格基準等について」です。

採点結果の区分

2019年試験でランク3、4で6割を超えていたことは驚きましたが、2020年試験においても同じような結果となりました。ランク4の割合が微増していますが、ランク3かランク4かは試験元のさじ加減という感じもするので何れにしても採点の俎上に載せるわけにはいかない(と試験元が考える)何らかのミスをしているということでしょう。
また2年続けてランク1の割合が35%程度になりました。これまでは増減あっても40%程度であったことを考えるとランク3、4の割合同様、昨年だけのことではなく今後もランク1=合格率は今後も35%程度で推移することが予想されます。とはいえ、最終的な合格者数に大きな変動はないため、受験資格を緩和した学科での合格者数を調整(増やし)し、約1万人受験→約3.5千人合格という大まかな枠組みになったということだと思います。一級建築士試験自体では合格者数が変わらないものの、製図試験のみで語るならばより競争が厳しくなった、ということも言えると思います。

採点のポイント

試験元の発表は2019年のものの構成と大きくは変わりません((5)が※に変更されているくらい)。課題内容に応じて詳細項目が変更されているだけに見えます。が、後述しますが一つ合否に大きく関わった(のかも知れない)、「(3)構造計画」の内容がありました。これは試験元から特に触れられているランク3、4に該当した内容には含まれていないもので、確かに不合格図面のランクを見るとランク2になっているものもありました。ただこの内容に抵触して合格している図面がないこと、合格している図面は問題なく出来ていることから採点会における資格学校の減点以上のポイントであったことが伺えます。かく言う自分自身もそれが不合格要因になるとは思っていませんでした(というよりももっと重視すべき合否に関わるポイントがあると思っていた)。
試験元から発表されているランク3、4に該当した図面の犯していたミスについてもほぼ2019年のものと同じ内容で、唯一「吹き抜けとなっていないもの」が「各ユニットのゾーニング等が不適切」になっています。受講生の復元図を見ても、ユニットゾーニングが不適切なものはランク4になっています。ただ、どういうものが不適切(どの部分が不適切)と判断されたのかについては割とはっきりとした傾向があるように思います(後述)。
他、法規に抵触しているものも発表通りランク4になっています。ただ、2020年試験では受験生も注意していたためか一つだけ○防○特を落としている、という図面サンプルがなく、それらがどの程度厳しく判断されたのかはわかりません。

標準解答例

2020年の標準解答例は2019年のもののように「これでも良かったのか」という内容があまりありませんでした。これは2019年(本試験、再試験とも)よりも全体的に「出来ている」図面が多かったからではないか、と思っています。一方、これまで標準解答例①と②で違う構成のものを出してくることが多かったことに対していずれの解答例も東西ユニット、北側に主要室なし、という似たような構成のものになっています。これは南北ユニットや北側主要室が不合格(またはランク3)ということではなく(そうであれば担当受講生のほとんどが不合格になっていた)、用途を鑑みた計画の重要性を試験元が強いメッセージとして出してきたな、と思いました。特に資格学校(S)の日照=南(または東、西)、自然光=東西南北OKという画一的なマニュアル的判断を行うことに警鐘を鳴らしている、という印象です。標準解答例②の中庭は建物の平面に対する大きさから考えても採光、快適性の面でそれほど優れているとは言えません。それでも標準解答例としてあえて出してきているのは、「自然光を取り込んだ快適な空間」と「採光に支障のない開放的な空間(北側居室)」は明らかに違うものだということを伝えたいからではないだろうかと思います。このこと自体は実務であれ大学教育であれ、建築設計に関わっていれば想像に難くないことだと思いますが、良し悪しの感想に近い感情も入る事柄を試験で採点出来るのか、という問題でもあります。そのため一発ランク3やランク4といった評価ではなくあくまでも減点の項目として見ているということを間接的に伝えるための同構成の標準解答例②だったのかと想像しています。
今回の課題で言えば、「高齢者介護施設」という用途の「生活の場」であれば要求にある共同生活室やデイルームは日照や二面採光、個室にも多様性に配慮した異なる光環境を用意したい、という設計者としての常識・良識が問われていたのではないでしょうか。そして今回の課題は『2020年一級建築士製図試験 本試験課題エスキスと感想にも書いた通り廊下係数に余裕があり標準解答例②程度の小さい中庭や光庭を計画することはさほど難しいことではありませんでした。
評価され合否という明確な結果を突きつけられる資格試験においてこのような曖昧な設計者としての常識・良識を一律に伝えることには無理があります(個人によってその内容も異なる)。しかし「日照=南(または東、西)、自然光=東西南北OK」という基本ルールの上に+アルファの配慮を促すことが出来るか、には講師としての力量が問われている気がします。
ツラツラと感想を書いてきましたがまとめると、今回の標準解答例が伝えていることは安直に「主要居室には日照が必須」というような安易なルールを示すことではなく、ちゃんと考えて計画をしているかを問いますよ、ということだと思っています。

合否のポイント

以下に個人的に見ることが出来た図面とその合否(ランク)から想定される合否を分けたポイントをまとめます。ここから書く内容はあくまで個人的な分析であり、特定の資格学校の分析や見解ではありません。また必ずしも全ての図面に共通するわけではなくどうしても不合格要因がわからないもの、分析に該当するランクになっていないものもあります。なお、分析のために見た図面サンプルは50〜100程度ですので一般性についてもさほど高いものではないこともご承知おきください。
2020年一級建築士製図試験 本試験課題エスキスと感想の有料部分に絡む内容もあるためほぼ有料とさせていただきます。ご了承ください。
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ランク4となっている図面の共通点

未完成や建築面積オーバー、延べ面積オーバーといった従来からの重大な不適合以外ではここ数年厳しく見られている法規関係に違反しているものは当然のようにランク4でした。高さで引っかかっているものが目立ちますが、延焼ラインの引き忘れによる○防落ち延焼ラインの位置間違いもランク4でした。上記の通り○防○特に関しては延焼ラインが引けているが一つだけ落としている、というようなサンプルはなかったためランク4に該当するかはわかりません。一方、延焼ラインと外壁が接しない部分の延焼ライン書き忘れは合格しているものも数枚あり、お咎めなし(あったとしても小減点)だと思われます。2019年も同じでしたが、必要ないものを書いていないことは問題なく(課題文からも必要ないことが読み取れる)、間違えたものを書いていると厳しく見られる(知識不足だとはっきり判断出来る)ようです。また明らかな室欠落もランク4でしたが、担当受講生に一人、室欠落で不合格だと思っていたのに合格していた方がいました。図面を再度精査しましたが、やはり室欠落に該当する内容でした。ただ、「室名」ははっきりと明記してあり、室になっておらず(いわば文字だけ、不適当な場所に書いてある)要求された床面積記載もないという状態でした。これは採点官によるのかも知れませんが、少なくとも文字があるため有無しチェックはすり抜けたということだと思います。図面自体は綺麗で密度もあり、文字も綺麗ため一見問題ない合格図面に見えることも功を奏したのかも知れません。また「調理室」という記載がないものでも「厨房等」の明記があれば室欠落とは見られなかったようです。
他、ランク4になっているものの共通点として挙げられるのが「ユニットゾーニング」の不備です。これついてはその内容によってランク4、ランク3、それ以外がある程度はっきり見て取れます。

※以下有料パートとさせていただきます。

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