製図試験とは〜お弁当に例えて
はじめに
以前未受験の後輩に製図試験のエスキスについて問われた際、「お弁当」に例えて話した所、一緒に聞いていた同僚(有資格)から「その説明は分かり易い」とお褒めの言葉をもらったのでいつかまとめてみよう、と思っていたものがここからの内容になります。
最初に一言で要約しておくと「製図試験のエスキスはものすごく一般的なもの」だということです。
お弁当とは
これを読んでくださっている方は毎日どのようなお昼ご飯を食べているでしょうか?コロナ禍の現状、外食機会は減っているかも知れませんがおそらく多くの方に共通して言えることは、「特別に高級なものは食べていない」ということになると思います。お弁当に限らずテイクアウトの何か、おにぎりや惣菜パン、カップラーメンという方もいる中で高級フレンチだったという人はそう多くないはずです(いるとは思いますが)。
前置きとして長かったですが何が言いたいかと言うと、「ほとんどは一般的な食事(お弁当)=特別な食事は一握り」ということです。これは製図試験で求められる建物についても同様で、求められているのは「一般的な建築物=特別な建築物ではない」ということです。あくまで基礎的な知識が問われているだけなので隈研吾さんが設計するようなコンセプトやアイデアが求められているわけではありません。
製図試験においては「建築家が設計する建物=食材や味付け、配膳や雰囲気にまでこだわった食事」ではなく、「どこにでもあるような建物=決まりきった大きさで誰もが知っているおかずの入っているお弁当」を作ることが肝要になります。
毎年大手ゼネコン設計部やアトリエ系事務所勤務または出身の方の半数くらいはまずその事実を飲み込むのに時間がかかっているような印象があります。お弁当なのでコンセプトなど必要ありません。簡単な仕込みで良いのに必要以上に丁寧に下ごしらえをしている、というのもよく見られることです。
具体的な対比
料理を例えに持ち出しているのでそのまま話を進めると、一つの「食事」として完成するまでの流れは大凡次のようになると思います。
①食材調達→②計量・下準備→③調理→④盛り付け
これを製図試験に置き換えてみます。
①課題文→②読み取り、条件整理→③断面検討など→④1/1000および1/400
この文章自体あくまで個人的に思っていることを書いているだけですが、行為の目的と結果を照らし合わせるとこの例えは大きな齟齬のないものだと思っています。
一言でエスキス、と言っても大きくは②〜④の3工程に分かれている、と認識することが大事だと思います。
お弁当の場合、どこかの工程でミスがあると文字通り食えないものになってしまうのは言うまでもありませんが、それは製図試験のエスキスにおいても同様です。詳しくは『エスキスが苦手な受講生の共通点』を読んで頂きたいのですが、エスキスを苦手にしている、あるいは苦手だと思っている受講生は主に④1/1000および1/400=盛り付けにしか注意が向いていません。しかし最後の1/400のエスキスでうまくいかない(盛り付けが上手くできない)ということは、多くの場合「②読み取り・条件整理(計量・下準備)」の不足に起因します(上記記事中の「情報整理不足」)。また盛り付け=1/400エスキスに際して「③調理=断面検討」したものを使わず調理をしていない食材を使ったり(上記記事中の「情報の不採用」)ということもよくあります。エスキスにおいてはどうしても④1/400のエスキスに意識が向きがちですが、やはり重要なことは②や③になります。「読み取りが最も重要」という講師が多いのも、料理において味付けや分量が間違っていたらその後何をしても台無しだということを考えればご理解いただけるかと思います。
なぜお弁当なのか
ここでもう一度なぜ「料理」そのものではなく「お弁当」に例えているかというと、お弁当=普通の建物においては特別な食材、その下準備や特別な調理、華美な盛り付けは必要ない、ということです。隠し味も求められていません。お弁当は調味料は砂糖、塩コショウ、酢、醤油、味噌があれば他に何もいらないし大きさも大体決まっている、というように製図試験においてやるべき物事は普遍的に定まっています。つまりボリュームの約半分がご飯(ホールを中心とした共用部)であり、メインのおかず(その年の課題用途)が入り、何かしらの添え物(屋上広場などのその年の特色)がある、そしてそれをパッケージングするというフォーマットは、試験元が製図板を使いA2の用紙に手書きをさせるという形式を変えない限り常に不変です。
この事実は「設計」という本来決まりきった答えがない行為に対して試験元が「合否」を判断する際の根拠にもなっているはずです。「お弁当」を作ってねと言ったいるのに「フレンチ風の何か」を作っても良しとはされません。ご飯が中央にあるお弁当や四隅に分かれているお弁当が食べにくそうと想像できるのと同様、たとえ素晴らしいコンセプトがあろうともお弁当的でない建物は「使えない」と判断されて製図試験に合格することは出来ません。美味しい(=素晴らしい建物)かどうかが求められているわけではない、ということです。
またこの事実は資格学校やその他の同種のもの(僕のnote含む)が「設計」という行為を教えることが出来る根拠にもなっています。上記のように求められるものが「お弁当」であるからこそ、マニュアルを作成し、効率的に準備、調理、盛り付けする方法を伝えることが出来るのです。毎年課題用途は変わりますが、変わっている部分はメインのおかずだけ、つまり唐揚げか白身フライか、くらいの違いだと思えば重要な骨格部分は変わっていないことがわかってもらえるかと思います。本来曖昧模糊とした「設計」手法が一般論として伝達可能なのは、ほとんど毎年変わらないから、ということになります。
さいごに
お弁当に例えることで、エスキスが工程を飛ばしてはいけない連続しているものだということ、1/400そのものよりもその前の下準備(条件整理)が重要なことがより直感的にわかってもらえたかと思います。最後にこれまで書いてきたエスキス関連のnoteを上記のお弁当の例えに関連させて紹介させてもらいます。これまで購入し読んでくださった方は今一度どの工程の記事なのか意識していただくと理解が深まると思います。また今後購入を検討いただく方にはどの工程の内容なのかご理解いただけると思います。
よく読んでもらっている記事になります。お弁当の例えで言うと、エスキス苦手な人は②計量・下準備と③調理、つまり②読み取り、条件整理と③断面検討などが上手く出来ていないですよ、という内容です。
最も多くの方に読んで(アクセス)いただいている記事であり、また最も多くの方に評価をいただいている記事になります。メインの内容は上記の工程で言うと④1/1000および1/400、つまり盛り付けの方法になります。プランニング全般について書いています。
同じく④の内容ですが、より詳細に1/400の管理ゾーンに特化したプランニングについてまとめています。上記『エスキスのコツ〜平面検討・プランニング』でも「小部屋の納め方」として概要は書いていますが、こちらの記事はより具体的に書いているので特に管理ゾーンがうまくまとめきれない人には有効だと思います。
これも多くの人に読んでもらっている記事になります。具体的には③調理=断面検討などについて書いており、プランニングに進むために正しい検討ができているかどうかをどのように自己判断するのか、が主な内容です。
2020年「高齢者介護施設」に特化した③調理=断面検討などに必要な情報をまとめたものになります。
少し概念的な内容で、直接②〜④の工程のどの部分、というものではありません。今回の例えを用いると、明太のり弁当を作るのか唐揚げのり弁当を作るのか、同じのり弁当であってもちゃんと食材(課題文)を確認しないと(読み込まないと)わからないですよ、という話です。
これも直接②〜④の工程のどの部分というものではなく、純粋にエスキス力向上のためのトレーニング方法について書いています。エスキスがある程度出来る人用です。