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2021年一級建築士製図試験の合格基準、標準解答例について

はじめに

祝賀会も終わり合否いずれであっても落ち着いて振り返りが出来る時期だと思います。不合格になった方はR4試験をどのような形で(資格学校or独学、長期or短期etc)受けるのか、それだけでも決めておいた方が良い時期でもあります。本試験の結果を改めて振り返り今後の方針決定の参考にしてもらえればと思います。

↓試験元公表の「令和3年一級建築士試験「設計製図の試験」合格基準等について」です。

採点結果の区分

2019年から3年続けて同じような区分の結果となりました。
ランク1が35%、ランク2が5%、ランク3と4で60%です。ランク3と4の割合は微増微減しているものの、大きく「合格に近い4割」と「合格に遠い6割」で分けられていると考えて良いのではないでしょうか。
3年続けて同じような割合という事で昨年も書いたように今後もランク1=合格率は35%程度で推移すると考えられます。また製図試験が約1万人受験→約3.5千人合格という大まかな枠組みも3年続けてのことなのでこの流れもしばらくの間は継続するのでしょう。もちろん来年大きくこれらの構成が変わる可能性については試験元以外誰にもわからないことですが、現状この流れを受けて考えていることを書いていきたいと思います。

R3年は学科の合格率が低くなりました。これはR2年の受験資格緩和で学科合格者が増えたことに起因するR2年製図不合格者(=R3製図受験者)の増加と、もう一つこれまで製図試験受験者属性が2種類だったものが3種類になったことが原因でしょう。つまり既受験生と学科合格者だけだった所に新たに製図受験回避組が加わったことによるものと考えられます。約1万人受験が前提ならば既受験生とこの製図受験回避組の人数を引いた数が学科合格者数となるからです。製図受験者数と合格者数が今後も同程度で推移していくと仮定すれば潜在的な製図受験有資格者がこの2年間で増えた為、学科合格者の数は今後も約5千人程度となることが予想されます。これはR1年までとは異なり、製図試験受験者内の製図受験経験者及び何がしかの準備をしていると考えられる製図受験回避組の割合が半分以上となることを意味しており、製図初受験の学科合格者にとっては一層合格が難しい試験になっていくと考えられます。
この2年は受験資格緩和後の過渡期であることやオリンピックの影響で初受験者の準備期間が長かったことを考えると、今後は学科合格年にそのまま製図を受験することを避け、準備期間をとって2ヶ年計画で合格を目指す方が増えるかも知れないと思っています。

採点のポイント

上記リンクにも貼った試験元発表の合格基準等は昨年のものと構成は大きく変わっていません。ただ集合住宅という課題内容に応じて変更されている所以外にも細かいですが少し気になる変わっている所があります(後述します)。
最もポイントになっている所はここ数年試験元から示されるようになった、「ランク3及び4に該当するものが多く、具体的には以下のようなものを挙げることができる」の内容です。
ほぼ昨年、一昨年と同様の内容ですが今年は「道路高さ制限への適合が確認できる情報の未記載」という項目があり、これが合否を分ける大きなポイントであったことは確認できた受講生の合否結果からも明らかです。
これについては非常に厳しい内容だと思います。防火区画や延焼ラインといった「書いていないと法適合が判断出来ないもの」とは異なり、高さ制限は断面図からだけでも法適合かどうかの判断が可能です。そのような法令自体への適合是非ではなく、「法適合の証明記載有無」が合否判断の基準となったことはより法令への深い理解とその証明を求めているという試験元からのメッセージではないかと思います。

合否のポイント

以下に個人的に見ることが出来た図面とその合否(ランク)から想定される合否を分けたポイントをまとめます。ここから書く内容はあくまで個人的な分析であり、特定の資格学校の分析や見解ではありません。また必ずしも全ての図面に共通するわけではなくどうしても不合格要因がわからないものもあります。なお、今年は分析のために見ることが出来た図面サンプルは50弱と例年よりも少ない数ですので一般性についてもさほど高いものではないこともご承知おきください。

先に結論として、今まで以上にランク2〜4の違いがどこにあるのかわからない結果になりました。これは確認出来た図面の中に、未完成、上下階不整合、延焼ライン間違い、室欠落といった明らかに分かりやすいランク4図面がなかったことも原因ですが、昨年までであれば多少の誤差のようなものはあるものの延焼ライン防火設備忘れ、防火区画、斜線抵触等はほとんどがランク4であったのに対し、今年の図面では防火設備落ちや斜線抵触でランク2やランク3というものも散見されました。また少数ではありますが庇緩和対象外により道路斜線抵触している図面で合格しているものもありました。こうしたはっきりとした基準が読み取りにくい結果でしたが、それでも大まかな傾向はあったのでそのことを書いて行きます。

  • 要点の重要性
    要点については例年合否を分けるポイントとしての傾向がわかりにくいと感じていましたが、R3年はランク1、2とランク3、4でほぼ明らかに分かれており、ランク1、2になっている方は内容的にもほぼ取りこぼしがないのに対してランク3、4の方にはいくつかの取りこぼしが見られました。R3年の要点は新規で出たものが1/100平面など対策を十分に行っていたものであったため、「ほとんどの人が書けていないもの」がありませんでした。その為、結果から見ると書けていないものが「悪目立ち」する形になっています。特に「屋上庭園の断面イメージ」や「耐震ルート採用で考慮したこと」など直近本試験で問われたものが書けていないものでランク2以上になっているものはありませんでした。また確認出来たランク1の要点は記述密度(分量)は様々であるものの問われている内容に対して的確な回答がされており内容が不適切(間違い)であるものはありませんでした。
    本試験は一発失格項目でランク4をはじいた後、減点の多寡でランク3を決め、ランク1と2の判定を主に要点で行なっている、というイメージをここ数年の結果から持っていましたが、今年の結果から図面のミスと平行して要点も細かに見られている、という印象を受けました。

  • 高さ情報の記載有無
    上記でも触れた「高さ情報」の記載についてですが、R3年においてはこれが最もわかりやすくランクに反映されていました。斜線の有無、計算式の有無、離隔距離の情報、なんでも良いのですがこれが全く書かれていないものは法適合していてもランク4になっていました。一方、斜線の間違い(勾配間違い、離隔距離の間違い、作図間違い)や計算式の間違い等があってもランク1になっている図面は多数ありました。確かに要求図書の内容ではあるものの法適合自体ではなくその記載の部分が失格項目に該当していることは少し意外でしたが、ここ数年の必要以上(と感じる)の法令遵守要求からすると納得できるのも確かです。「計画」させるだけではなく「明示」させることを要求することでより一層曖昧な知識では合格が難しい試験であることが強調された形となりました。

  • 地盤への対応
    上記「採点のポイント」で触れた「少し気になる変わっている所」ですが、(3)構造計画の③が「地盤条件を踏まえた基礎構造の計画」から「地盤条件や経済性を踏まえた基礎構造の計画」に変更になっており、「経済性」という言葉が新たに加わっています。R2年試験においても課題文中の留意事項には「経済性」の文言はありましたが採点のポイントにはありませんでした。今回はこの経済性も含めて是非が問われたと思われる結果になっていました。
    個人的に地盤に関してはN値=10の部分が基礎下部にあると合格は難しいと考えていましたがランク1、2の中にそのような図面も少ないながらありました。ただそうした図面は地盤改良範囲が小さすぎてN値=10部分が残っている、または部分深基礎がN値=30部分に少しだけ届いていない、というような不完全ではあるものの無駄なこと(経済性の観点から)は行っていない図面でした。一方、ランク3、4になっているものは地盤への配慮がゼロまたはN値=10部分が残っているにも関わらずN値=30部分にまで地盤改良を行っていたり全体的に深基礎になっているなど、「経済性」の観点から不必要な対応を行っているものも散見されました。H29年に軟弱部分が敷地内にあるものが出て以降、5年間で4回も配慮が求められる地盤条件が出ていることから適切な地盤への対応は試験元が強く理解を求めている項目であることが伺えます。

  • 設備、構造の知識不足
    ランク3、4の中には目立った失格項目をおかしていない図面もありましたがそうしたものには設備や構造の基本的な知識が不足しているものが見られました。具体例で言えば「DSが無いのに空調機械室がある」、「住居下部の広範囲に渡ってPSが無い」、「空調用PSがあるのに屋外機の設置が確認出来ない」、「ラーメン架構外の支持方法がわからない階段がある」、「光庭周りの架構が不明なスラブがある」、「柱1本あたりの支持面積が大きい」などです。これらはそれ単独でランク3、4にされた訳では無いはずですが、ランク1の図面の中には見られないミスです。R3年課題は設備的にも構造的にも難しい内容はなく、また本試験においても未知の知識を問われた訳では無い為、こうした小さなミスも上記の要点と同じく「悪目立ち」する形になっていました。

以上、大きな傾向として見られるものは上記4点くらいですが、全体的に見回すとやはりミスが多いものから不合格になっている、という当たり前の傾向が見られます。上述した例年ならばランク4相当でランク2になっている図面などは○防忘れ以外のミスが見つけられず、また要点も完璧に書けている方でした。これはミスが少ないことで結果的にランク2になった、としか考えられません。
どのような項目からどの程度の重要度でチェックされているのかわからないのは変わりませんが例年以上に基準が分かりにくくなったと感じられることで却って総合的な知識と技能が求められている試験であることが浮き彫りになった(今年の用途はコレだからココをおさえておけば良い、では通用しない)と思います。

なお、「2021年一級建築士製図試験 本試験課題エスキスと感想」の有料部分で触れた「実際の合否を分けるポイント」についての振り返りは同記事有料部分内にて今後数日内に追記更新します(購入いただいた方には更新通知をお送りします)ので、記事を購入いただいた方は後日ご確認いただければと思います。

標準解答例

2021年の標準解答例は2020年に続き「これでも良かったのか」という内容がほぼありませんでした。上階の居住者プランは2案とも至極まともなものですし1階に関しても不自然に感じる所はありません。用途上わかりやすいものであった上に建築面積や延べ面積の条件が緩くプランニングも難しくなかったことで「不自然なプランでも合格する」ほど合格ラインが低く無い、ということが伺えます。
住戸の配列タイプに関してはI型とL型の解答例となっていますがこれはI型のみ2案だと「I型でなければならなかった=住戸は必ず南」というメッセージになるのでそれを避けるためでは無いかと思います。またツインコリダーではなくL型であることにはさほど大きな意図があるようには感じられません。確認出来た受講生図面だけの話ですが、ほとんどの方がI型でツインコリダーとL型はいずれも数名でしたがその合否においてタイプ別で有意性の見られる差異は確認出来ませんでした。R3年課題のサプライズとして最も大きかった床面積なし、住戸数指定なしに対しては2案とも最小限の床面積、最低限の数となっており「課題文条件を満たすことが最優先」であることを改めて伝えてくれていると感じました。
他、2案とも駐輪場に特定防火設備がついていますが、これは異種用途区画からの必要性というのではなく、昨年の解答例2の中庭周りの防火設備同様「安全性への配慮」という捉え方で良いと思います(法令において「駐輪場」が「駐車場」に当たるかどうか定義されていない)。実際ランク1図面で駐輪場に特定防火設備を書いていないものの割合は半分以上でした。
また、今回集合住宅ということで2案とも屋外階段がありますが、この階段の竪穴区画としては防火設備が記載されています。例年階段(や吹き抜け)については「竪穴区画と面積区画を兼ねるという考え方で全て特定防火設備の計画」としていますが、R1年1013実施の解答例2に続いて「竪穴区画は防火設備」ということが明示されたことは来年以降何らかの形で理解を問われる可能性があるかも知れません(とはいえ、特定防火設備は安全側であるのでこれを否定する方が難しいのですが)。

まとめ

R3年課題は「2021年一級建築士製図試験 本試験課題エスキスと感想」にも書いた通り決して難しい課題ではありませんでした。その為不合格になった方でも「ある程度出来ていた」方が大多数であり、「もう少しだった」という気持ちの方も多いと思います。ただ、合否図面を比較して、その基準は明確でないながら感じたこととしては、「もう少しだった」ということは事実であっても「そのもう少し」を詰めることが難しい試験だ、ということです。基本的な知識を身につけること、確かな作図技術を身につけること、合理的に課題条件を整理できること、客観的な視点で計画をチェックできること、それを限られた時間内にこなすこと、これら全ての能力を高い水準で身につけることが最後少しの差で合否を分ける時に合格側に残るために必要です。自分自身その少しの差を意識させ身につけさせる指導を行っていきたいと思います。

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