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2022年一級建築士製図試験の合格基準、標準解答例について

はじめに

年も明け昨年本試験の結果については冷静に振り返りが出来る頃だと思います。不合格になった方は自身の図面を振り返り、不合格となった原因をしっかりと確認するとともにR5試験をどのような態勢で(資格学校or独学、長期or短期etc)受けるのか、または保留という形をとるのか、決めた方が良い時期でもあります。本記事並びに先日アップした記事「2023年一級建築士学科試験合格者数予想、既受験製図合格率について」を今後の方針決定の参考にしてもらえればと思います。

↓試験元公表の「令和4年一級建築士試験「設計製図の試験」合格基準等について」です。

合格基準等(採点のポイント、採点結果の区分、合格基準)

採点結果の区分

令和になってから4年続けて同じような区分の結果となっています。
ランク1が33%、ランク2が6%、ランク3と4で61%です。ランク3と4の割合は微増微減しているものの、大きく「合格に近い4割」と「合格に遠い6割」で分けられている構成は変わっていません。
また学科の合格率を大きく上げてまで製図試験の受験者を1万人程度にしていることから約1万人受験→約3.5千人合格という大まかな枠組みでしばらくの間は継続すると考えられます。
製図試験の合格率が約40%→約35%へと下がったR1年以降、試験元から示されているランク3、ランク4の具体的要因(該当者が多い項目)ですが、基礎的な不適合ではこれまで多かった「室欠落」がなく「階段」、「基礎」とこれまでに無い新しい項目がありました。また法令に関するものも例年あった「延焼ライン」や「防火区画」がなく、「避難経路」が新たな項目として挙がりました。
この新たな項目に関してはR4年に割合が多くなって取り上げられたということであり、これまで見られてこなかったわけではないと思います。「事務所ビル」というテーマと課題文要求がこうした項目のミスを誘発し易い内容であっただけだろうと思います。具体的に「階段」は天井高指定や屋上庭園などによる階高調整とそれに伴う階段の(平面)寸法調整のミス「基礎」は深い支持地盤に対する対応のミス、等になるかと思います。「避難経路」はこれまでに示されていた「直通階段に至る重複区間の長さ」も含むと考えられる広範な内容を示す表現です。外部における敷地内通路のミスや屋内における廊下幅、直通階段への経路のミス(いずれも下記に詳述)等になるかと思います。

採点のポイント

合格基準等の発表の構成は大きく変わっていません。採点のポイントにおいても「(1)空間構成」に内容の変化はありませんでした。が、「(2)建築計画」において、①はこれまで同様に用途に応じた表現でしたがこれまで表現が共通していた「②要求室の機能性等、③図面、計画の要点等の表現・伝達」については①同様の用途や課題発表に応じたより具体的な表現になっています。これは要点に1/50を要求してきたことと相まってより細かく具体的に内容をチェックしているということだと思われますし、全体的にそういうレベルの完成度であった(細かい所まで見て是非の判断が必要なレベルであった)ということが伺えます。また「(3)構造計画」においてR3年に続き基礎構造の計画に「経済性」という文言が含まれており、今年(R5年)の試験において具体的に問われるポイントになりそうだと感じさせます(R4年においては「経済性」はほぼ不問同様であった)。さらに「(4)設備計画」ではこれまで「給排水設備」といった大まかな表現であった所が、より具体的な「設備スペース及び設備シャフトの計画」という表記が加わりPS、EPSの欠落とともに設備ルートや場所までチェックの対象になった(もしくはこれまでもなっていた?)可能性が伺えます(以下「標準解答例について」で詳述)。

合否のポイント

以下に個人的に見ることが出来た図面とその合否(ランク)から想定される合否を分けたポイントをまとめます。ここから書く内容はあくまで個人的な分析であり、特定の資格学校の分析や見解ではありません。また必ずしも全ての図面に共通するわけではなくどうしても不合格要因が特定出来ないものもあります(特に既受験生図面において)。なお、今年は分析のために見ることが出来た図面サンプルはランクが判明していないものも含め100弱程度(チェック出来た復元図全ての合否確認はできなかった)です。

結論として、昨年同様、ランク2〜4の違いがどこにあるのかはっきりとはわからない結果になりました。ただ合否の判断という意味ではある程度の傾向が見えました。
まず「大きなミス」をしているものはランク2〜4に散らばっていますが合格しているものはありませんでした。傾向として見えたのは「中程度のミス」をいくつしているか、で合否が分かれていた所です。ざっくりですが「中程度のミス」が1つならば合格側、2つ以上ならば不合格、というものです。また「中程度のミス」を2つ以上していてもポイントとなる箇所での加点同等(ほとんどの受験生がミスをしているが出来ている)部分がある図面は合格していました。「小さなミス」はほぼ全ての図面で見受けられ、それが積み重なっているとしか思えない不合格図面もありましたが非常に少なく、大きく合否に影響を与えている印象はありませんでした。
「大きなミス」をしていてもランク2〜4に散らばっている原因を考えたのですが、R3年(あるいはそれ以前からも)から所謂「一発失格」に該当するものが少ない、或いは全く無い(未完成を除いては)のかも知れないと思っています(R3年もR4年同様ランクの分布がよく分からなかった)。道路斜線に抵触していれば以前はランク4だった所がランク2の図面もあるのは、例えば斜線抵触はー30点で他のミスがなければその図面は70点となり、他の細かい減点が積み重なる図面より上位にきているのかも知れません。その上でランク1にしてはいけない「大きなミス」を設定しているためランク4ではなくランク1相当の点数でもランク2という評価になっている、という想像です。この想像には全く根拠が無いですし個人的に図面全体から受ける印象によるものですが、この視点で図面の合否やランクを見ると特に矛盾が感じられません。「一発失格」項目に該当しているが見逃されているのでランク2になっている、という仮説よりは納得出来ると思っています。

また昨年同様に明条件ではない配置やレイアウトによる減点は無かったと思われる結果になっています。メインアプローチが北で南コア、西隣地側に向いたレストランなど周辺環境からは違和感を感じる計画であっても上記の「大きなミス」や複数の「中程度のミス」をしていない図面はランク1となっています。屋上庭園についても東公園側に面して設けている人が多数派ですが、北向き、南向きだけでなく北西角、南西角、西向きであってもランク1になっています(それが原因で不合格と考えられる図面は無かった)。このことからも一般的に常識とされる計画よりも明条件遵守が合否を分けることが明らかになっています。

以下、どういったものが「大きなミス」や「中程度のミス」に該当したのか、個別に書いていきたいと思います。

「大きなミス①」:法令関係

例年通り、法令関係のミスです。具体的に試験元からも示された「道路斜線抵触」の他、少数ですか「延焼ライン」「防火区画」のミスも見られました。「道路斜線抵触」は庇幅合計が間口1/5を超えたことによるもの、エスキス途中での階高変更への対応忘れ(と思われるもの)、などが見られました。
「延焼ライン」については少ないものの東側に記入してあるもの、西側ではあるものの寸法が間違えているもの、出入口に防火設備表記がないもの、また「防火区画」については階段出入口に書き忘れているものなどです。確認出来た中ではランク2が1枚、他はランク3、4ありましたがランク4の方が多い、という状況でした。また試験元から示されている「避難経路」についてですが、様々な減点と思われる項目があり、中には抵触していてもランク1になっているものもありました。不合格になっているものは外部の敷地内通路上に駐車場があるもの、シェアオフィスの貸室C無窓による重複距離オーバー、などです。重複オーバーに関しては結果的に正しい地点を選択できていない、最短となる「避難経路」としての考え方が間違っているということで試験元の指摘が「直通階段に至る重複区間の長さ」ではなくなったと考えられます。一方階段出口横にEPS等を設けることで廊下幅1200をきっているものは合格しているものもあり、同じ「避難経路」違反でも項目によって減点幅は異なっていることが伺えます。

「大きなミス②」:面積不足

事務室面積3000㎡未満で合格している図面はありませんでした。また、この項目についてはかなり細かくチェックされている印象を受けました。というのも、図面中面積や面積表が3000㎡を満たしていても(おそらくチェックで気付き面積表等のみ書き直したもの)不合格となっているからです。面積表に表記欄が設けられていたことからも試験元が重要な項目として確認していたことが伺えます。

「大きなミス③」:地盤対応

何らかの基礎構造が支持地盤に達していない(届くように表現出来ていない)図面は不合格となっており、この傾向はR2年より続いています。地盤への対応については「杭」が正解だったわけですが所謂あり得ないような地盤改良であっても支持地盤にさえ到達していれば合格しています。また杭を書いたものの杭頭がない、基礎梁がないなど何かしらの不完全なものも、同様に支持地盤に到達していれば合格しています。おそらくこれらは一律の減点であって大きく合否に影響を与えないという、試験後の想定の通りであったと思われます。一方、解答例のような「正しい」杭基礎が描けているものは上述した「ほとんどの受験生がミスをしているが出来ている図面」に当たり「中程度のミス」が複数であっても合格しているものがありました。

「大きなミス④」:要求室等欠落

数としては多くはありませんが「要求室」の欠落があるものは不合格となっています。確認出来たものでは「受水槽室」「消火ポンプ室」が欠落しているものです。これらは「部屋」はあるのですが室名表記がなく(「室名欠落」)、それと判断出来ないものでした。試験元が公表している「重大な不適合」に該当するものが欠落してる図面は不合格になったと推測出来ます。ただシェアオフィスや事務室のように明らかにそれとわかる室については室名が欠落していても合格している図面が複数あることから「室名欠落」であるものの小減点で済んだことが伺われます。

以上、大きく4つに関しては抵触しているもので合格しているものはありませんでした。次に「中程度のミス」についてですが、上述の通り基本的には1つのミスなら合格しているものはあるのですが2つ以上に該当すると不合格がほとんどになります。ただ「大きなミス」③の基礎については受験生の多くに減点があったと思われ、その減点がない=正しい基礎が描けている、かつ「中程度のミス」に複数該当している図面で合格しているものはありました。また「中程度のミス」の中でも下記の❶、❸についてはミスをしていて合格している図面が少ないため、「大きなミス」に近い減点があったことが伺えます。

「中程度のミス❶」:階段不成立

試験元が示している「階段の不成立」は抵触している人が多いものの、この項目単独で不合格と考えられる図面は少なく、「中程度のミス」と考えられます。階段に関しては様々なミスがありますが、この「中程度」に該当する代表的なものとしては「階高に対して基準法寸法の階段が計画出来る平面寸法となっていない」(具体的に4.5m階高で3×5m平面の階段)、「段数表記に対して不整合となっている」(具体的に1.5回転表記があるものの各階同位置に出入口がある)というものになります。先に「単独で不合格と考えられる図面が少ない」と書きましたが、このミスをしている図面は他の「中程度のミス」もおかしていることが多く、サンプルが少ないのですが、このミスのみ(他は小減点)の図面はランク1となっています。また最上階の階段表記ミス(屋上に登れる表記になっていない)や中間階の階段表記ミス(破断線がない)は多くの図面で見られたのですが他の「中程度のミス」を犯していても合格しているものが多数あるため、同じ階段に関係するミスでも減点幅に違いがあることが伺えます。

「中程度のミス❷」:階高不足

指定のあった天井高さ(2800mm)が確保できていないと思われる計画も「中程度のミス」と考えられます。これは具体的には「無柱空間のためのPC梁せいと屋上庭園の防水レベル確保のためのスラブ下げにより階高に不都合が出ている」ものです。これは上記「中程度のミス」❶と関連が深く「天井高さのために階高を上げた受験生」は❶のミスをする可能性が上がり、「階高を上げる煩わしさを避けた受験生」は❷のミスをしている可能性が出ます。ただ、階高を上げた場合は「必ず」階段の処理が必要であるのに対して、屋上庭園の配置とスパン割次第ではPC梁があっても階高4000で天井高2800を確保できるため(意識出来ているかはわかりませんが)、該当者は❶より少なかったです。❶同様、このミスをしていても他のミスがなければ合格している図面があること、ただ他の「中程度のミス」と合わせて不合格になっていると考えられる図面があることから「小減点」ではない「中程度のミス」と考えられます。

「中程度のミス❸」:客用トイレ欠落

資格学校の採点シートでは管理側でもあれば良いという判断でしたがレストランの客用トイレがないものは厳しい減点があったと思われます。詳しくは「2022年一級建築士製図試験 本試験課題エスキスと感想」の有料部分、合否のポイントで触れた通りですが、この「ゾーニング」に関しての解釈が大事であったことは結果から明らかです。❶同様、このミスのみ、という図面が少なく有意な情報とも思えませんが客用トイレなしで合格している図面はありました。ただ解釈次第で客用トイレにも見える、という図面であったこと、他は「小さなミス」のみで不合格になっている図面が目立つことから「大きなミス」に近い大きな減点があった項目だと思われます。この「ゾーニング」については下記「標準解答例について」でも少し詳しく触れたいと思います。

「中程度のミス❹」:シェアオフィス区画不成立

❸に続いてゾーニングですが、シェアオフィスの区画が出来ていないものは大きな減点があったと思われます。具体的には共用部とシェアオフィス室内の区画がなく特記要求にもある「出入口」がない、または明確ではないものです。課題文から貸事務室とは別運営であることが読み取れるため共用部から自由に出入り出来る状態だとセキュリティ上も問題があることは明白です。R2年の「高齢者施設」においてはユニットゾーニングが重要な合否を分ける項目でしたが、平面配置上「扉一枚描いてあればゾーニング出来ているもの」の合否が分かれる結果になりました。これは採点官による判断が分かれたためではないかと思っていたのですが、そのような曖昧さを排除するための「出入口」表記要求であり、その欠落に対して大きな減点となったのではないかと思います。

「中程度のミス❺」:特記項目欠落

特記項目の中でも重要と思われるものが欠落している図面も大きな減点となっていると思われます。具体的には「塔屋」「設備スペース」「高さ情報」のいずれかが全く描けていないものです。これはR3年で「高さ情報未記載」がほとんどランク3になったように法令の違反に関わらず法令関係のものの記載漏れが厳しく見られるということ、また「塔屋」「設備スペース」については「必ず記入」指示があったことから厳しく見られたことが伺えます。

「中程度のミス❻」:搬入動線不備

レストランの搬入動線がないものも「中程度のミス」としての減点があると思われます。具体的には「サービス用駐車場から厨房への直接の出入口」、または「サービス用駐車場から通用口→管理ゾーンを介した厨房へのアクセス」のいずれかがないものです。「事務所ビル」という利用者・管理者ゾーニングの少し曖昧な用途であり、またレストランの営業時間記載がある=時間外搬入も可能、ということも考えれば少し厳しいような気もしますが、このミスが他のミスと合わさって不合格になっていると思われる図面が数枚あるためある程度の減点があったものと思われます。近年ゾーニング・動線計画に関してはほぼ問われないような内容になっていますが、やはりこうした基本的なゾーニング・動線計画については押さえておく必要があるということでしょう。

「中程度のミス❼」:室内プラン不備

上記6つより減点は小さいと思われるものの、表記ミスや表記忘れのような「小さいミス」より重く見られていそうだ、と思われるものが貸事務室Aの室内プランです。これは他の「中程度のミス」をしている図面で合格しているものも多いため大きな減点とは考えにくいのですが、不合格図面では共通して出来ていないものが目立ちます。また、「大きなミス」①とも大きく関わるため重く見られていても不思議ではありません。具体的には室内プランに机と椅子しかなく収納棚や複合機コーナー等が計画されていないものです。収納棚や複合機がないことで「避難経路」は対角の短くても問題ないものになりますが、収納棚は計画の位置次第では避けて避難経路をとる必要があります(=「避難経路」が長くなり重複オーバーの可能性が出てくる)。法令を満たすためにR4年の主用途である「事務所ビル」としての計画が蔑ろになっているとされるものの減点がある程度大きいことは納得出来ると思います。

以上7つ(または❼を除く6つ)が比較的減点が大きいと思われる項目です。概ね1つのミスなら大丈夫、2つ(❼以外)以上で不合格という状況が読み取れました。
「大きなミス」「中程度のミス」のいずれにも該当せずに不合格になっているものもありますが「小さなミス」が多くその中に試験元が重要視しているものがあるということかも知れません。
この合否に大きく関わったと思われるミスの内容は基本的な知識と学習で身につけることが出来るものばかりですし、チェックがちゃんと行えれば回避出来るものばかりです。合格には特別なものが求められているわけではないということが改めて確認できると思います。

標準解答例について

R4年の標準解答例はここ数年よりも示唆に富む内容が多いという印象を受けました。そもそも標準解答例は模範解答例ではなく一般的な合格レベルの図面を示すもの、という側面がある一方、試験元が「考え方」や「表現」、ひいては今後「重要と考えるもの」を盛り込んでいると考えられるものでもあります。R4年の標準解答例は後者の側面を強く感じるものでした。
資格学校でも基本的にはこの標準解答例に倣って方針等を決めており、今季どのような変更があるのかはわかりませんが個人的に着目すべき項目、またその対応等について考えていることをまとめたいと思います。

※以下「標準解答例について」においては着目すべき事項、対応、考えられる試験元の意図等について詳述します。なお有料記事とさせていただきます(項目数等については目次ご確認ください)が、これは資格学校の方針如何に関わらず個人的な指導にも関わると思われる内容を含むからです。ご了承ください。

※想定部数以上購入された場合順次値上げを行う予定です。

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