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2021年一級建築士製図試験課題「集合住宅」

はじめに

今日課題発表になりました。各資格学校の課題分析はまだですが、今年も例年通り「所感」をまとめたいと思います。念のため、内容は完全に個人的な見解であって何らかのエビデンス等があるものではないことご承知おきください。

「難しい」課題

第一印象としては「難しい」課題になったな、というものです。試験元の発表内容を確認すると課題名以外で昨年と異なっているところは「(注1)、(注2)、(注3)→(注)」と(注)の数が一つになっています。H28年以降、この(注)は3つないし4つで、かつ課題内容の大きなヒント(用途以外に問われる内容)でした。課題自体が特に説明のない、しかも誰もがよく知る「集合住宅」であること、(注)においてヒントとなる要素がないことで学習の焦点をどのように設定するのか、非常に難しいと思います。
また、もう一つ昨年と異なる所はその(注)の内容、法規において「採光」も問います、という部分です。昨年の本試験においては「採光」が要求条件ではなかったため、南側、東側に建物を寄せた法的採光を満たしていない図面であっても問題なく合格していました。今年は道路斜線だけではなく、採光にも配慮して配置計画を行う必要があります。
課題内容に関連したヒントが無くなって学習が難しいという考え方はあるのですが、逆に試験元が集中して見るものは「法令遵守」のみですという強いメッセージだと捉えることも出来ます。昨年、一昨年の結果からも明らかなように、いかにランクⅣ(Ⅲ)を避けて計画出来るか、という試験に移行していると感じます。

ゾーニングは難しくならない?

資格学校の長期コースでは昨年の課題「高齢者介護施設」(考え方としては基準階タイプ)を受けて、今年はゾーニングタイプを想定していました。その予想を全く裏切っての基準階タイプ系の課題になりましたが、そもそもここ数年は基準階タイプのような課題であっても3平面が求められゾーニングタイプのエスキスを理解していないと対応の難しいものになっていました。そのため長期コースの方が時間をかけてきたゾーニングタイプの学習が全く無駄になるとは思えません。ただ、今年の課題「集合住宅」は他のどの基準階タイプの建築用途と比較してもゾーニング要素の少ない課題だと感じています。
具体的には、
①搬入等必要な管理者ゾーンの想定室がない→動線の交錯が問題になりにくい
②用途上、平面的な上足下足ゾーニングはなさそう→上下足ゾーニングは室単位
③用途上、利用時間別ゾーニングや利用形態別ゾーニングはなさそう
④用途と規模上、2層の大空間はなさそう、など。
要はゾーニングの観点から難しくするには「集合住宅」という用途上制限がありそう=ゾーニングは簡単になるのではないか、ということです。住戸以外に想定される室も、集会室、交流室、共用便所、ラウンジ、管理人室、メールコーナー、ゴミ置場、設備室等で、フロアゾーニングが必要な室などは想定しにくくゾーニングを難しくするものがありません。当然学習を進めていく中では交流室の天井高さ指定をしたり、カフェや賃貸店舗部分を入れたり、外部利用可能なキッズスペースを計画したりと色々とやるでしょうが、本試験がその部分に重心がおかれるようなものになるとは想定しにくいです(発表内容に含まれていないため)。
その中でゾーニングの観点から重要になってきそうなものは、
❶セキュリティラインの設定(メールコーナーの配置含む)
❷中庭、光庭、屋上庭園、吹抜→仮想床の発生するもの
❸駐車場、駐輪場→ピロティの計画(地下の場合もあり)
の3つくらいになるかな、と思います。ただ、❶に関してはゾーニングとしての理解が重要でしょうが❷、❸に関してはゾーニングというより「配置計画」としての方がより意味を持ちそうだと考えています。

配置計画の重要性

例年、採点ポイントにも挙がっている重要な項目ですが、今年の「集合住宅」においては配置計画が特に大事になりそうだと感じています。上述の通り「ゾーニングで難しく出来なさそう=断面計画は難しくなさそう」となれば、課題の難易度調整は平面計画(プランニング)か配置計画かのいずれかになります。当然平面計画を難しくすることも出来るでしょうが、これも上述の通り想定される所要室を考えるとそれほど難しく出来なさそう(守るべきゾーニングがあまりないためどこに室配置しても一応成立する)です。そうなると配置計画に注目することになりますが、今年の場合、発表課題からもやはりここがポイントになりそうです。
まず、高さはわかりませんが最大7層程度まで想定できる基準階タイプのため斜線検討は必須です。道路幅員次第では複数道路からの斜線検討が必要な課題も想定できます。このことに加え、今年は法的採光についても問われます。高さ次第ですが「一律数メートルのへり空き」では計画出来ない課題は容易に想像できます。敷地条件次第では隣地側の採光は不可能→中庭(又は光庭)からの採光を取る必要があるもの(ロの字プラン、かなり難易度が高い)もありえます。
また、基準法においては設置義務はありませんが、集合住宅にはほとんどの自治体において条例によって駐車場・駐輪場の設置義務があります。例年の用途のように近隣の駐車場を利用する、というのは現実にも即しておらず、多大数駐車場、多大数駐輪場の計画は「集合住宅」において必須のように思います。そうなるとピロティの検討を含めた配置計画が必要となり難易度は上がります。こちらに関しては隣接地を駐車場用として、建物自体は「計画地」に設計する、という課題の出方も想定されますが、いずれにせよ「斜線・採光」絡みか「駐車場」絡みのいずれかで配置計画の難易度が上がる課題への対応は必須の学習になるでしょう(当然ここに地上の屋外広場を絡めてさらに難易度を上げることもあり得ます)。

ただの「集合住宅」か?

昨年の「高齢者介護施設」では近年の潮流を踏まえて「ユニットケア」に基づく計画が求められました。そのため「ユニット」のゾーニング破綻は合否に大きく影響しましたが、今年においてもそのような潮流を踏まえた「集合住宅」はあり得るのか、です。代表的なものとしてはコレクティブハウスが挙げられるでしょう。ただこの特徴として挙げられるコモンリビングやコモンキッチン等は計画上は一般的な共用部と同じ扱いで計画出来そうです。昨年の「ユニット」のように理解していなければゾーニングが壊れるようなものではないため、課題文条件を守れば良い、という考え方で大丈夫だと思います。またコーポラティブハウスのように建物ごとに要求や共用部が違うものについては学習としての対応のしようがありません。これも出題された場合は課題文を忠実に守る、という方針しか持ち得ないでしょう。他、シェアハウスに関しては定義すら曖昧なため取り上げにくいでしょうし、長屋になってくると計画内容が住戸内に重心が寄るため一級建築士試験の課題としては不適当だと感じます。以上、今年の「集合住宅」については昨年のように「考え方」を理解していないと対応出来ないような課題にはならないと思います。

要求図書について

要求図書については昨年と全く同じ表現です。ポイントは「各階平面図」ということになりますが、昨年少し危惧していたような4平面は今年の場合は特に心配する必要がないと思っています。これは上述の通り、ゾーニングすべきものがほとんどない(はず)ので基準階以外に3平面となることが想定しにくいからです。①1階、2階、3階か②1階、2階、基準階かのいずれかになると考えて間違い無いでしょう。

↑課題発表直後にはこのように書いていましたが、ツイートした通り他のパタンも考えられます。つまり①、②に加え③1階、2階、低層基準階(単身向け)、高層基準階(家族向け)という4平面も可能性としてはあり得ると考えています。またH18のように地下1階を駐車場とした②'地下1階、1階、基準階およびその4平面版である③'地下1階、1階、低層基準階、高層基準階という可能性もあり得ます。資格学校ではまずは共用部に何が来てもいいように対応できるよう課題が作られ学習を進めていくことになりそうですが、上記「ゾーニングは難しくならない?」にも書いた通り発表内容に付属用途がないため「知らないと対処出来ない用途」のものは考えにくく、集合住宅という、基準階部分に複数パタンが想定出来る用途からも初の「4平面課題」となってもおかしくはない、と思っています。
ただ大きく構成が変わる時は「それ以外」が難しいと未完成ばかりになるので単純なものになるはずですし、昨年同様今年もどこかで1課題は4平面を学習するはずなので心配する必要はないのではないでしょうか。それよりはスタンダードな構成(①や②)で出て、斜線と採光で配置が難しい、というものの方が可能性としては高いと感じます。

また断面図について、昨年本試験では東西方向が指定されており、西側道路斜線と地盤への対応を見るという言わばヒントにもなっていました。複層大空間が想定されにくい今年の課題においても断面図の切断位置指定は斜線、採光セットバック、基礎などの整合性を一目で判断出来るためヒントになると考えてもいいでしょう。

↑断面についても、「試験元が何を見たいか」のヒントだとすると、H18のような地下駐車場とそのための斜路(1/6勾配)が出る可能性はありそうです。ただこれも1課題は学習するはずなので粛々と課題をこなせば対応できるようになるでしょう。

重要なポイントは何か

ここ数年、試験元は本試験課題や標準解答例を使って、翌年以降の変化に向けて何かしらのメッセージのようなものを送っていると考えています。H29→H30にかけては敷地をエスキス用紙に載せて翌年の課題文A2への足がかりとし、H30→R1にかけては法令遵守の厳格化の流れを作っています。またR1→R2にかけては標準解答例において「課題文条件の遵守>採点のポイントの一般的な理解」を示すような図面が出ました。では今年、昨年の標準解答例や合否結果からどのようなことが予測されるか、です。個人的に昨年の課題文や標準解答例で最も気になったものは、同じような構成の標準解答例が出たということです。詳しくは2020年一級建築士製図試験の合格基準、標準解答例についてに書いた通りですが、試験元は一律のマニュアル的な判断ではなく設計者としての良識・常識・判断力も見ているということだと思っています。これは課題文条件の遵守が最も重要で、極論それさえ達成できればほぼ合格できる(ランクⅡは非常に少ない)という合否の結果と矛盾しているかも知れません。ただ、ほとんどの受験生がランクⅢ、Ⅳを回避した場合、どこで合否の判断をするかというとその部分になるでしょう。実際そうなってはいないものの、試験元は法令などの条件遵守は当然でその上での設計力を合否の分水嶺にしたいのではないかと思っています。
本試験課題がどのようなものになるか当然わかりませんが、上記のように配置計画で難しいものにすればランクⅣを多く出すのは容易いでしょう。ただある程度簡単な(配置に余裕がある)ものならば、本試験結果においてランクⅡが多くなることも考える事が出来ますし、その場合昨年と同じような住戸が多く並ぶ課題となったことで全く同じ部分(住環境への配慮)がポイントになってきます。「法的採光」はあるものの、それさえ満たしていれば良いのか、は自問すべきポイントになり得ますし、課題文の中で住戸環境がどのように求めらているか読み取ることは今年の課題においては非常に重要(それがおそらくランクⅢ該当項目になる)になってくると思います。

まとめ

上記では触れませんでしたが、「集合住宅」ということは空調計画についても空冷ヒートポンプパッケージ方式一択になるかと思います。どう考えても単一ダクト方式の採用に必然性がないため設備の学習に例年ほど時間を要しません。つまり例年課題になってくるゾーニングの学習や設備の学習が必要ない分、新たな要素として加わった「採光」への対応が必須の試験(そこがポイントとして問われる)になるだろうと思っています。ただそれがランクⅣに該当する部分であるのか、あるいは住環境への配慮として絡めて出てくるのか、です。両極端ですが指導としては前者の方がやり易いですし、資格学校でもそのような指導方針になるのではないかと思います。それを達成しつつ、如何に後者(住環境への配慮)の重要性を伝える事が出来るかで指導の優劣が問われるだろうと思っています。

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