2022年一級建築士製図試験 本試験課題エスキスと感想
はじめに
エスキスと解いてみての雑感、復元図の傾向や合否のポイントになりそうなことなど書いていきたいと思います。なお、内容は全て個人的見解によるもので特定の資格学校の見解等とは全く関係がないことご承知おきください。
本試験エスキス①(7階建・片コア)
雑感とポイント
ここ数年では間違いなく最も難しい課題だったと思います。難しさの種類としてはR1のような縛りの強さではなく昨年本試験のような自由度の高さによるものでした。ただその高い自由度を根拠を持って処理出来ればゾーニングやアプローチ条件は複雑ではない為、断面検討・平面検討などは悩む所なく、結果として1/1000までのエスキスがいつもより速く終わった人も多かったかも知れません。
作図に関しては要求図書に要求されるものが初出のもの含めて多く、もやもやして「いつも通り」進めることが出来ない人が多かったのではないかと思われます。本試験の緊張、サプライズによる揺さぶりでチェック時間の確保が難しかった方には大きな負担となったことが想像出来ます。
最後に、要点は昨年初めて出されたスケールの大きい図面(イメージ)に加え、難易度的にも上がっており作図以上に大きな負荷がかかったのではないかと思います。
以下、いくつかのポイントについて列挙します。
①階数指定無し
想定していなかった受験生は戸惑う人も多かったかと思います。ただ通学していた方は多くの講師が可能性として一度は話していたかと思います。というのも、昨年試験元が床面積指定を無くしてきたこと、基準階タイプの事務所ビルになったことから十分に想定出来る内容だからです。
対処としても5階建想定なら÷3、7階建想定なら÷5といった計算で1フロア当たりの面積を出し、+150〜200㎡のコア面積加えたものと、建築可能範囲を比較し計画可能性を確認するだけでした。
②基準階「事務室」3000㎡以上
復元に戻ってきた受講生から、コアを含まず3000㎡以上か含んで3000㎡以上か分からなかったという声がありましたが、明らかに「事務室のみ」で3000㎡以上と読み取れます。そもそも、事務室の床面積欄に書かれていること、基準階全体という捉え方は難易度易化方向になることからもコアを含む考え方は自己都合判断と言えると思います。
③事務室天井高さ指定
基準階に機械室設置などの設備方式の指定が無かったため、天カセと床直吹きを選択すれば設備配管スペースは冷媒管の経路のみで良く、天高指定があったとは言え階高4000での計画が可能でした。具体的には、CH:2800+配管スペース:100+梁せい:800〜1000+OAフロア:100=3800〜4000、です。
このことから片コアで計画する場合、無柱空間のためのPC梁せいが1000以上、つまりスパンが15mを超える場合には階高を上げる必要があり、斜線の再検討も必要となります。片コアの場合はこの、天井高さによるスパンの縛りを念頭に事務室面積を満たすスパン検討を行えたか、が最も重要なポイントだったように思います。
一方、センターコアの場合はそもそもPC梁の計画自体必要ないため必要面積からのみでスパン割の検討を行うことが出来ます。担当受講生には天井高さ指定があればセンターコアの方がやり易いという指導をしていたので、ほとんどがセンターコアでの計画になっていました。
④法規
法規に関連して過去問になかったものが2つありました。
一つが「屋外階段不可」、もう一つが「延焼ラインの記入必須」です。
まず屋外階段の設置不可についてですが、屋外階段はそもそも課題条件を満たすため緊急避難的に設けることが多いものです。今回どのような緊急事態が起き得るかというと、①基準階事務室面積が足りない→階段部分を事務室面積に加算して屋外階段設置②シェアオフィスの無窓重複20m以内が満たせない→屋外階段で2直経路確保、の2つが代表的なものかと思います。つまり試験元は曖昧な基準階検討で計画したものや、避難に関する法規が徹底出来ていない計画は合格させるつもりがない、ということだと思います。またこの条件により短手(東か西)片コアの計画も基準階で必ず重複オーバーとなるため一見してランクⅣに出来ます。採点の効率化も少しは意識しているのかも知れません。
延焼ラインを「必ず描け」については昨年本試験ですでに読み取ることが出来た内容でした。一昨年は「防火設備等の凡例」の所に「延焼のおそれのある部分が存在する場合においては」とあった所、昨年はその文言が消えていました。そして今年は要求図書に要求されることになりました。受験生の気になっている所は10m道路の延焼ライン、つまり道路境界線オンラインの延焼ラインを描く必要があったかどうか、だと思います。これについて資格学校の見解はわかりませんが個人的には描いておくべきものだったと思います。確かに道路境界線から「0m」は違和感がありますが延焼のおそれのある部分は「以内」であり、起算点を含みます。また、技術的なことは別として、道路境界線上に建築物を建ててはいけない理由がありません(隣地境界線上ではないため防火・準防火地域かどうかも関係ない)。つまり道路境界線オンラインであっても延焼のおそれのある部分が存在する建築物はあり得る、ということになります。試験元から出る標準解答例で最も注目すべき点になると思います。
④基礎
H30年以降、毎年必ず地盤に軟弱部分があり、またその対応が十分ではない図面は不合格になっている可能性が高く減点が非常に大きい部分だと考えられます。さらに今年は昨年までと要求図書上での表現も変わりました。昨年までは「基礎、壁、梁及びスラブの断面を図示する」というものであったのに対し、「適切な地盤から建築物を支えるための基礎を図示する」と、より具体的な要求に変わっています。今年は支持層が20m以深であることから杭基礎の要求と読み取れますが、要点に設問がないため杭基礎でなくても不合格にはならないと考えられます。対応が分からずありえないような地盤改良になっていたとしても支持層に到達していれば減点で済むのではないでしょうか。
⑤ゾーニング
ゾーニングに関しては部門分けもほぼなく、大きく3つについて満たしていれば問題なさそうです。しかもゾーニングを満たすべきものについては意識していようがいまいが図示要求があるため要求図書にしたがって描けていればほぼ大丈夫だと思われます。
まず一つ目はレストランです。唯一の別部門ですが、このゾーニングを守るために必須になるのがレストランの直接アプローチと内部のトイレです。エントランスホールとレストランで時間の異なる利用となっているため片方が閉まっている時の運用に問題ないか(時間別ゾーニング)がポイントですが、アプローチもトイレも特記にあるため描けていない人の方が少ないと思われます。
次にシェアオフィスですが会員制で基準階とは別運営となっています。そのためシェアオフィスのセキュリティゾーニングとして出入口にゲートやオートロック、及び受付が必要となりますが、これも特記に受付が要求されているため問題なく出来ているのではないかと思います。
最後が基準階の貸事務所についてです。最上階が別運営ということもあり1階にセキュリティを設けることが望ましくありません。そのため貸事務室のセキュリティゾーニングとしては各出入口にセキュリティがあるか、つまりオートロックなどの記載があるかがポイントになります。これに関連して注意喚起とでも言うべき形で要求図書の中に「貸事務室A及び貸事務室Bの出入口」というものがありました。何のための要求かでセキュリティに気づけた方も多いのではないかと思います。
⑥最上階屋上庭園
段差のない計画ということで防水も考えてのスラブ下げが必要でした。下階に基準階があり、かつ天井高さ指定があったことで、PC梁を採用しているにも関わらず階高4000の計画をしている方は配置次第では何かしらの不備が発生することになります。幸い要求面積が100㎡以上とさほど大きくないことから意識せずとも不整合が起こっていない方も多いと思われます。
⑦要求図書
今年の課題で「①階指定無し」とともに最も大きなポイントだと感じています。まず上記でも触れた「必ず記入(図示)」が3つもあります(延焼ライン、基礎、塔屋及び設備スペース)。このような強い形での表現は初めてであるものの、その言葉の意味を考えるに描いていない場合はランクⅣに相当しそうです。ただ上記「延焼ライン」の道路境界線オンラインは描いていない受講生も多いことが予想されるためこれを一発失格項目にしてくるのか、は大きなポイントだと思います。
他新たなものとしては「建築物から敷地境界線までの最小後退距離」があります。断面にも要求があるため道路斜線確認のための情報のようにも読み取れますが、「道路境界線」ではなく「敷地境界線」と書いてあることから「隣地境界線」からの最小後退距離も記入する必要があると考えられます。
また「ペリメーターゾーンの切断位置」ということで要点記述との整合性が必須な項目が要求されたことも初めてのことでした。
受講生の答案状況
改めて、ですがここから書く内容についても個人的な考えやこれまで経験による憶測であり、特定の資格学校の見解ではありません。情報源もあくまで担当受講生及び所属教室(+α)の状況(大体の)を踏まえてのものであり一般性については何の保証もありません。
今年は約100枚〜150枚程度の復元図を確認することが出来ました。
ここ数年は作図時間短縮の強化、およびチェックの重要性についても力を入れていることもあって完成度や密度に関しては一定以上のものになっているものがほとんどでした。大きいサプライズや初出内容にも関わらずそれだけの仕上がりになっていることで受講生間の力の差がほぼ無くなってきていることを感じますし、益々ちょっとしたミスが命取りの試験になってきていると思います。
復元図全体の内容ですが、上記のように初出内容もあったためか、全く問題なく合格しているだろうという図面は確認出来た枚数でもほぼありませんでした。今年のポイントになっているであろう項目のどれかには引っかかっており、またその対応のレベルも様々でした。一方、未完成も含めた明らかなランクⅣの図面が1割程度、ランクⅢかⅣかはわからないけれどもランクⅠにはならないと思われるものが3割程度ありました。つまり残りの6割の図面は合格している可能性があるものとして考えられます。資格学校のチェックシートにおいてもおそらく同じような割合でAまたはBがついているはずで多くの受講生はどこがポイントになるのか気になる所だと思います。資格学校のチェックシートは合格の可能性の高いBか可能性の低いBかも判断できず、採点会においては各講師それぞれがそれぞれの考えを受講生に伝えるといった状況だったと思います。
ここからは上記ランクⅠにならないと思われる3割の図面が犯しているミスや残り6割の図面で最初にはじかれるであろう図面など、合否を分けるであろうポイントについて個人的な考えを書いていきたいと思います。
※以下有料部分では復元図や昨年本試験結果を踏まえての合否のポイントの他、条件を満たす基準階のパタン、5〜8階建てのエスキス(少なくとも3つ)などを掲載しています(エスキスは後日更新)。(内容から個人の特定につながる恐れもあるため有料記事としていることご了承ください。)
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