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ネスターゲームズ(nestorgames)について その5

この記事は ボドゲ紹介 Advent Calendar 2021 の10日目の記事です。

前日はハルバラドさんのドラコの記事でした。非対称2人ゲームは好みなので、どこかでプレイしてみたいですね。

さてこの記事では、そんな王道ファンタジーとはほとんど無縁のパブリッシャーであるnestorgamesをご紹介。毎年ボドゲ紹介Advent Calendarで紹介し続けて気付けば5年、今回も一挙10ゲーム紹介です。

まずご存じない方向けに軽く触れると、nestorgamesとはアブストラクトゲームを中心に制作しているスペインのボードゲームメーカーです。
※アブストラクトゲームの定義は様々ですが、ここでは将棋やオセロのようなテーマ性ほぼゼロ&運要素ゼロのゲームと捉えてください。

比較的シンプルなルールのゲームが多く、それを統一されたフォーマット&クールなミニマルデザインに落とし込んで多数リリースしているのが特徴です。

過去の記事でも色々と解説しているので、よければそちらも見てみてください。(その1その2その3その4)

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今年はnetsorgamesも色々ありました。なんといっても年明け早々にまさかのペンケース型の統一フォーマット(通称、土嚢)が廃止!!
ボードゲームで土嚢と言えばnestorgames、nestorgamesと言えば土嚢というくらいの代名詞だったのですが、諸々の製造上の課題により継続が困難ということで、これには日本の全nestorgamesファン号泣です(想像)。
ミニマル好きが多い日本人にクリーンヒットだったあの形の復活を望む声は数多いものの(もちろん自分も)、現時点で予定はなさそう。残念…

そして数ヶ月の充電期間を経て、4月からは新生nestorgamesとしてBlack Labelがスタート。ゲームの枠を超えたインテリア並のグッドルッキングをまとったゲーム群が厳選展開されています。ただし中々お値段が張ることもあって気軽に買い集めるといった感じではなくなりましたね。この路線変更によってnestorgamesが今後どうなっていくのか、その動向に注目です。

さてさて、土嚢型は無くなってしまいましたがnestorgamesにはまだまだ紹介していない独特なゲームがあるので、今回もオムニバス形式でお届けしたいと思います。


スーパーアダプトイド (Super Adaptoid)

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スーパーアダプトイド

nestorgamesの企業アイコンにもなっているアダプトイドの超進化版、スーパーアダプトイドです。作者はネスター社長。

謎の生物アダプトイドに足とハサミを生やして強化しつつ相手を追い込み、規定回数の捕獲か相手の全滅を目指します。

足が増えるほど移動力(1回の移動可能ヘクス数)がアップし、ハサミが増えるほど攻撃力兼防御力がアップします(自分のハサミ数>相手のハサミ数なら捕獲)。

つまりパーツが多いほど強いのですが、もちろんそんな単純な話じゃなく。
自分や相手の手番終了時、足+ハサミの数だけ周囲に空きヘクスがないアダプトイドは死んで捕獲されてしまいます。
いくら強くても、手足ゼロの最弱アダプトイドに周囲を固められたらご臨終することもあるってわけですね。

この強すぎても弱すぎても捕獲されてしまうアダプトイドたちをどう強化・役割分担させて相手を追い詰めていくか、非常に悩ましいゲームです。

通常版は固定ボードなのですが、スーパーアダプトイドは写真のようにボードの形をいくらでも変えられるようになっています。さらに、2枚重ねで空きヘクス2個分にしたり、穴を作って局所的に空きヘクスを減らしたりと自由自在なので、オリジナルマップ作りも楽しめます。場所の価値がアンバランスになることで序盤の位置取りからして熱い戦い必至。

さらには3人拡張のアダプト3 (Adapt3) もあり、第三プレイヤーの真っ赤なアダプトイドたちが追加されます。じゃんけんのように捕獲できる敵が決まっていて、2人プレイとはひと味違う三つ巴の戦い。どうせ入手するならこれも一緒に持っておきたいところです。


W7バイナリコーディングドミノ(double-seven binary-coding dominoes)

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W7バイナリコーディングドミノ

通常、ドミノセットというとW6, W9, W12あたりがメジャーですが、これはW7(つまり0~7)という変わった構成。しかも目がピップや数字ではなく、点(1)・小円(2)・大円(4)で0~7を表しています(それがbinary-codingたる所以ですね)。

ルールブックには4つのゲームが書かれていて、上の写真はタイルを重ねていくドミナップ(Dominup)というゲーム。手番順にタイルを置いていきますが、同じ目の上にタイルを重ねると最下段に追加で1枚置けるので、それを利用してどんどん出していき、手持ちのタイルを出し切ったプレイヤーが勝利。同じ組み合わせがないというドミノのタイル構成を頭に入れつつ、自分だけがタイルを乗せられるようにレイアウトしていくわけですが、「えーっと、これを上に置きたいわけだから、そうするとこれを下に置かないといけないわけで…、あ、でもこの目はまだ枯れてなくて自分が持ってないわけだから???」と中々に頭がこんがらがります。

ドミナップの他にも、点・小円・大円をプレイヤーカラーならぬプレイヤーシンボルと見立てて自分のグループ拡大を目指す3人専用のドミノメガ(Dominomega)というゲームもあったりして、それなんかこのドミノタイルだからこそプレイできるといえますね。タイルに複数のシンボルが含まれるので必然的にインタラクションも濃くなります。思わず感心するルール。

このドミノセットはBlack Labelにも引き継がれた数少ないゲームで、公式サイトでは六角形バージョンのW7バイナリコーディングヘクスドミノも販売されています。そちらも形とシンボルを活かしたゲームルールが含まれていて中々面白いですよ。


サイジュ/彩珠 (Saiju)

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サイジュ/彩珠

風流な雪月花をモチーフに、雪プレイヤーと月プレイヤーに分かれて中立の花も使いながらマジョリティ争いをするゲームです。3柄×3色の9種類の駒が目を惹きます。

ゲーム開始時には黒の駒3個だけがボード上にあり、手番ではいずれかの黒駒1個を同じシンボルの未配置駒に置き換え、置き換えた黒駒をまた別の場所に置き直す、ということを繰り返していきます。

そうやって全ての駒が置かれたらゲーム終了。色でつながった3個以上の駒をそれぞれグループと見なし、そのグループの中で自分の駒が多ければ、そのグループに属する駒の数が得点になります。また、シンボルが3種類とも含まれていれば得点が2倍になります。例えばあるグループが雪雪花や雪雪月なら雪プレイヤーは3点、雪雪月花なら、雪プレイヤーは8点を獲得します。ただしシンボルが1種類あるいは雪と月が同数のグループは0点です。そして得点の高いプレイヤーの勝利。

ポイントは両プレイヤーとも9種類あるどの駒も置けるところ。そして置ける場所は黒駒で縛られます。単に自分の駒でマジョリティを取っていくだけでなく、自分有利のグループを中立駒で大きくしたり、相手にマジョリティを取らせないよう相手の黒駒を無意味な場所に遠ざけたりもできるわけです。

さらに中盤からは色を枯らせることで打ち手を縛り、相手の駒を置かせた上にそれでマジョリティ勝利確定の状況を作り出すなど、作戦がはまると気持ちいいですね。

打ち手を縛りあいながら活路を見いだすプレイ感は大好きなので、個人的にはかなり気に入りました。ゼヘツ(ZÈRTZ)やウルビーノ(Urbino)が好きな方にオススメしたいゲーム。

nestorgames版は絶版となってしまいましたが、作者の方が自サイトでリデザイン版を販売されています。


ダイスマトリクス (Dice Matrix)

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ダイスマトリクス

お次は、アブストラクトゲームではあまり見かけない大量のダイスを使ったゲーム。といっても、最初に50個のダイスを豪快に振って並べたあとは一切運要素なし。

手番では写真左側のダイス群から同じ色or同じ数字で縦or横に隣り合うダイス2個を取ります。ただし、2個の間に他のダイスがないなら離れていても隣り合っていると見なしてOK。

取ったダイスは写真右側のビンゴのようなエリアに置きます。ここは縦が数字、横が色で置き場所が決まっていて、同色同数字なら積み重ねます。そして、置いたマスの縦方向のダイス数と横方向のダイス数がそのまま点数になります。なので、1回の得点が段々累積して大きくなっていくわけですね。

何をすればいいか比較的分かりやすいですし、時々離れていた2個が思わぬ形で取れて「おぉ」となったりもして、アブストラクトビギナーも気軽に遊べてオススメのゲームです。


アブストラクト (Abstrakto)

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アブストラクト

ド直球なネーミングに自信の高さがうかがえるアブストラクトゲーム。

手番では3種類ある自分のタイルのどれか1枚をボードの線に沿って置くだけ。そして勝敗を決めるメカニズムはエリアマジョリティなんですが、どうやってエリア毎の勝敗を決めるかというと「空きエリアに接しているタイル数」です。上の写真で置かれているキューブが、その空きエリアをどちらのプレイヤーが制したのかを示しています(引き分けはグレーのキューブ)。制したエリアの大きさに関係なく、より多くのエリアを制した方が勝ち。

空きエリアを意識的に作るという引き算的思考回路が求められるほか、タイルに置きやすい置きにくいがある中でどれを温存するか中々悩ましいですが、「全然分からん!」まではいかない程々の悩ましさで、個人的には結構プレイしやすいゲームだなと思っています。

エリアマジョリティ好きでアブストラクト好きの方ならこのルールを聞いただけでやってみたくなりませんか?機会があればぜひプレイしてみてください。これはBlack Labelでデラックス版の販売が継続されています。


サムサラ (Samusara)

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サムサラ

仏教の輪廻転生がテーマ。ただし、どこにそれを見いだすかはあなた次第…。んー捕獲した駒を再利用するところ、か?

ま、それは置いておいて、独特な円形ボード上で縦横移動やジャンプを行い、相手駒を飛び越えた場合は捕獲できます。チェッカー(ドラフツ)のような手番内連続ジャンプもOK(自駒も飛び越え可、ただし捕獲は相手駒を飛び越えた時のみ)。また、捕獲した相手駒は裏返して自駒として再配置できます。

勝利条件が複数あり、自駒を相手色エリアに3個移動させる、あるいは中央のグレーエリアに7個移動させる、相手駒を規定回数捕獲する、相手を手詰まりにさせるの4ケースがあります。

このゲーム、ルールは簡単そうに見えて、実際にやってみると捕獲に対するガードが難しかったり、先読みして駒を移動するには結構頭を捻らないといけないです。手なりでやるとグダグダ泥仕合になりそうなので、アブストラクトに慣れた人同士でプレイしてみてほしいですね。


ファール (Furl)

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ファール

furlの意味は「たたむ」。nestorgamesにはオンラインのBGAでもプレイ可能なミュルス・ガリカス (Murus Gallicus) という名作アブストラクトゲームがあるのですが、その流れをくむ到達系ゲームです。

交互に駒を移動させていき、手番開始時点で自分の駒が1個でも最奥の列(相手側の1列目)にあれば勝ち。

特徴は移動方法で、単に前進することはできません。手番でできるのは、2個以上並んだ駒を片寄せして積み上げ2段以上のスタックにするか(ファール)、スタックをバラしてマンカラのように前方に1個ずつ落とす(アンファール)のみ。途中に他の駒があるとアンファールできませんが、最後の1個に相手駒がある場合だけは着地して相手駒を除去できます。

尺取り虫のような独特の移動が面白く、その動きの中で相手のアンファールをブロックしたり、隙間を縫って一気に奥まで到達したりの攻防が悩ましく楽しいゲームです。


スウィッシュ (Swish)

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スウィッシュ

昨年紹介したグザッツ(xats)並にスーパーミニマルなコンポーネント。
実はこれ、池を泳ぐ魚を表しています。

ボードがないタイプのゲームなんですが、なんと駒を適当にばらまいて初期配置とします。目安となるような仮想グリッドすらありません。一応「初回は幅1個分くらい離した方がいいよ」という目安はありますけどね。

ゲームの目的は、全ての魚が捕食されるまでにより多く自分の魚を成長させる(長くする)ことで、駒(骨) 2個分の魚からスタートします。

手番では、自分の魚の末尾を取って先頭に付け直すことで魚を前進させます。また、例えば自分の魚の骨が3個なら1手番で最大3回まで付け替えて前進できます。

このようにして前進していき、漂う魚(単独の駒)に触れたら捕食することができます。捕食した魚は末尾に付け足して骨となるわけですが、そこでこのゲーム最大の悩ましポイント。「同色の骨が前後に隣接してはならない」という制約があります。つまり捕食する時に頭か尻尾が捕食相手の魚と同色だと、今回か次回に制約違反になって失点となります(これを消化不良と呼びます)。

実際やってみると、こんな単純な見た目とルールのくせにかなり難しいゲームです。消化不良を起こさずに捕食するにはジャストな位置でジャストな色の魚を捕食する必要があり、毎度そう易々とお目当ての色はありません。さらにグリッドなんてものはないので、目測で「次の手番にはあそこに届く…はず!」という気持ちで狙いを定めないといけません。

ホントいろんなタイプのゲームがあるなと再認識させられますね。


グリーンスカル (Green Skull)

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グリーンスカル

スカルフィギュアがインパクト大なゲーム。nestorgamesは紙のコンポーネント以外だとノンテーマか大幅に抽象化されたコンポーネントが多い中、これほど具体的な造形は逆に珍しいですね。

このゲームは、ゴブリン(紫)とオーク(白)が第三勢力のゾンビ(緑)を操りつつ対岸到達と捕獲を狙うチェッカーの系譜です。

基本は開始地点の反対側の辺を目指して移動します。そして、手番では単に1個を1ヘクス隣に移動させるか、他の駒1個を飛び越えた上で飛び越えた駒を除去します。飛び越えるのは自分の駒でもよく(これでも除去されてしまいますが)、また、チェッカーのように連続してジャンプすることもできます(ただし必須ではありません)。

では、第三勢力のゾンビはどうなるの?というと、スカルを持っているプレイヤーが、自分の手番後に同様の手順で手番を行うことができます(任意)。
また、自分の手番あるいは操作中のゾンビがジャンプを行ったら相手にスカルを渡さなければなりません(つまり操作権が移ります)。

ボード上の3色のうち1色が全て向かい側に到達するか、1色が全て除去されたらゲーム終了。向かい側に到達した駒1個につき2点、(誰が除去したかに関わらず)自分の色以外の除去された駒1個につき1点です。

この得点計算はプレイヤーだけでなくゾンビについても行います。場合によってはプレイヤーではなくゾンビの勝利!ということもあり得るわけですね。

移動だけを繰り返してゾンビを操り続けるか、見切ってジャンプする(=駒の除去&操作権を相手に渡す)かのタイミングが結構難しくて悩ましいゲームです。


オメガ (OMEGA)

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オメガ

nestorgamesとしては巨大なパッド2枚使いのボード、ケースはもはやペンケースではなくポーチです。

各プレイヤーには通常通りプレイヤーカラーがあり、手番では駒を置くだけなのですが、1手番で全員の駒を1個ずつ置きます。例えば、2人プレイならお互いが自分の手番で毎回白と黒を1個ずつ置くことになります。これを繰り返していき、ほぼボードが埋まるとゲーム終了です(具体的にはこれ以上全員が同数の駒を置けなくなった時)。

で、最大の特徴は得点方法。連続する同色の駒を1つのグループと見なし、含まれる駒の数がそのグループの点数になります。そして、自分のグループの点数を全て掛けたものが最終得点です。つまり、連続する9個のグループ1つは9点にしかなりませんが、3個のグループ3つなら同じ9個でも27点になるわけです。

勘の良い方ならグループの最適な駒数が思い浮かぶかもしれませんが、果たしてそんなにうまくいくでしょうか?お互い自分の手番で相手の駒も置けますからね。一度プレイすれば、狙い通りの数に収束させるのが思ったより難しいと分かるはず。

ちなみに一辺を8ヘクスにした上の写真は、白が49万3136点、黒が31万1040点で白の勝ち。とりあえず最終得点に笑うしかないですね。


おわりに

nestorgamesの中で面白そうなのをあれやこれやと収集し続けて、今や土嚢タイプのゲームだけでも写真の通りの大ボリュームになりました。

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もちろんこの中でも個人的に刺さったもの刺さらなかったものがあるわけですが、どれもシンプルなルールの中に「へ~」と思えるポイントがありますね。テーマ性がほぼなくてルールもシンプルなだけに、遊ぶと「あ、そういう風にこのルールが効いてくるわけかー」とシステムの妙味に気づいて感心することも多く、普通に遊ぶだけではない楽しみ方もできるのが好きだったりします。

もし興味のある方は、公式が直リンクのみ公開しているURLから、絶版ゲームを含む全ルールブックの全言語分が一括ダウンロードできます(430MBもあるので注意)。自分もこれまで160個くらい和訳を提供させてもらっているので、この機会に「へー、nestorgamesにはこんなゲームもあるんだね」と知ってもらえると嬉しいです。

長くなりましたが、今回はここまで。

明日はかーんさんによる記事です。どんなゲームが紹介されるんでしょうか??

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