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深夜特急

バンコクから、タイの外れにあるノンカイという小さな街まで深夜特急で行こうと思った。

沢木耕太郎の深夜特急を、10代の頃夢中で読んでいた。そして、酔ってしまった。
ヨーロッパやアジアを一人で旅した。

今回は5回目の旅にしてはじめて、深夜特急に乗るという長年の夢が叶った。

バンコクの外れにある、教会のような駅に入ると大広間におびただしい人が列車を待っていた。

人一人分くらいの荷物を持っている家族や、浮浪者のような人や、観光客。シャワーを済ませて、楽なワンピースに着替えた。

身軽だった。3枚くらいの麻の服だけを持って、暑い国をずっと旅していたい。
好きな時に起きて、好きなところへ行って、道端の屋台で味の濃い料理と香草の沢山の入った麺料理を食べたい。

でも、この旅行にはタイムリミットがある。
それでも良かった。

列車が出発する30分前に列車に乗り込んだ。
三等車の環境は劣悪だった。

四人がけの席で、向かいには貧しそうな大家族が座っていた。隣にはオレンジ色の袈裟を着た僧侶。

どんな貧しそうな見た目でも、最新のスマートフォンをみんな持っていたのは、へんな感じがした。

ここから14時間。
永遠のような時間であった。

電気もつけっぱなしだし、椅子は固いし、半分だけ眠りながら夜が明けていくのを感じていた。
ふっと目を開けると、窓の外に見える朝焼けが美しくてなんかもう、いいやと思った。
池澤夏樹のきみがすむ星という本の中に出てきた、朝焼けコレクターの話を思い出していた。
一生分のきれいな朝焼けを、一つの朝焼けの中に見て満足する話だ。
たぶん、これからもずっと、この深夜特急に乗った時の、ちょっとの不安とワクワクした気持ち、そして何よりも、願えばいつでも自由になれることを思い出すのだと思った。

夜が明けて、田舎の駅に着くと、オバさんが美味しそうな鶏の焼いたやつを串にさしたのを売り歩いていたので買って食べた。
朝焼けによく合う。

2時間遅れで着いたノンカイの駅に降りた。

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