ファンアート小説のあとがき
この2週間、椎名かいねさんの作品『ひとつなぐものら』のファンアート小説をちまちま書いては小出しにするやつをしてきた。
↓全話ここから読めるよ。
1万と数千字になる文章で、こんな大作を書いたのも、こんな長期間に渡ってひとつの作品を書いたのも初めてだ。もっと書けることあったなと思いつつ、ひとまず完走できたことで肩の荷が降りたというか、そんな気持ちになっている。
せっかくのあとがきなので、考察っぽいことを出して行こうと思う。
先に、ちょっと語りにくい部分として「そんなに死にたいなら死ねばいい」という言葉に触れておく。
これは遊とは少し違う状況だけど僕が言われたことのある言葉で、今でも思い返すとちょっと苦しい。あの瞬間から、自分の命なんかどうでもよくなって、その最後の使い道を考える日々が、世界でいちばんだと言える推しの人から言葉を貰うまで10何年も続いていたんだ。
ちょっとしんどい話はここまで。
・タイトル『ブルームーン』について
調べればいろいろ出てくるが、このタイトルがどこにかかっているとかそういうことを語りたい。
まず、登場人物。原作では「深月」そして「葉月」という女性が登場し、この作品でも月という名前の女性を出したかった。それから、いろんな月のつく名前を並べてみて、それぞれどんな意味を持つのかを調べ、この作品や原作とどう繋げられるかな、と考えたのが始まりだ。
ブルームーンという現象の意味は、「決して起こらないこと」転じて奇跡だとか、宗教的な側面では暦とのズレから「裏切りの月」だとか言われていたらしい。
その他にも、ブルームーンというカクテルがある。こちらはちょっと趣深いと感じていて、カクテル言葉は「できない相談」で、あなたの想いには応えられないよ、みたいなことになる。一方で、カクテルに使われているリキュールである、パルフェ・タムールには「完全なる愛」という意味も。
滅多にない幸せな出来事、と読み取るならば、その月からつけた名前の少女に、悲しみの底から万にひとつの可能性を見て欲しいと思って、蒼月という名前と、ブルームーンというタイトルに決めた。
それから、ついでのようになるが、ブルームーンというカクテルは甘いスミレのような香りがするという話もある。メインに「月」を、その傍らに「甘い香り」や「奇跡」という繋がりを置くと、原作『ひとつなぐものら』の3人の人物と重なるようで素敵だなと感じたりもしている。
・月が綺麗ですね、に対する答え
第一章で壮太が「今日は月が綺麗だな」と言ったときは、なんかいつもと違うなーくらいの雰囲気で言ってみただけで、特に意味もない言葉だった。葉月も「そうだね」とだけ返している。この時点で2人にとってこの掛け合いに深い意味はないが、そういうこともあまりやってこなかった(たぶん)中で、こういう会話が出るという微妙な心境の変化みたいなのを表現してみたかった。
第七章では遊(蒼月遊)から、壮太に「月が綺麗ですね」と言わせている。遊はその言葉のロマンチックな部分を知っていて、壮太はその時点で気付いていない。現実には、月が綺麗ですね、に対して死んでもいいと返すのは愛の告白を受け入れる意味がある(はず)が、ここでは遊のこれまでの話から、過去の悲しさを払拭させる意味を持たせてみた。なお、ルート分岐であるこの話では、今回は選ばなかった分岐として、遊が自分の命を終わらせるルートを用意していた。
最終章では、「月が綺麗ですね」の返しとして「死んでもいい」という言葉の続きを出している。「死んでもいい、あなたのためならそれもまた良い」この返しは、僕がいつか見た作品で触れた表現で、これ以上ないと思ったもの。命懸けであなたを愛します、と相手に強く焦がれる心を表している。そこを、この話では壮太の「未来を生きて欲しい」という願いを受け入れた遊の決意のような意味を持たせたかった。あなたが望むなら、私はこの先の悲しみにも負けないと。
そして、ラストシーン。「月が綺麗ですね」という言葉が持つロマンチックな部分(というか本来そうなんだけど)を意識した壮太が、葉月に語りかける。葉月ならどう返すか、という問いに、これまでの2人の関係ではなかなか出ないであろう答えを思いつつ、ありきたりではない、イメージに呑まれすぎない返しとして「アタシ達が気付く前から、月はずっと綺麗だったんじゃないかな」と葉月。月はずっと綺麗でしたよ、と言うと、私もずっとあなたを好きでした、という意味になるらしい。そこを踏まえて、「アタシ達が気付く前から」と「綺麗だったんじゃないかな」と言わせることで、原作では歩むことの出来なかった、もしかしたらそういう未来もあったのかもしれないという雰囲気を出したかった。
ほにゃほにゃ書いてきたが、大まかにはこんな感じ。たったひとつの言葉が生きる意味になり、その先の人生を変えるということ。その経験をして今の僕があるからこそ、『ひとつなぐものら』に触れたとき、そんな物語を書くと決めて、この話ができたんだ。
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