1-2 日常の中の非日常
いつもの景色を離れ、石造りの街の中を歩く。
これも日常と言ってしまえば日常なのかもしれないが、なかなか珍しいことだ。
今日はガゼルではなく、お気に入りの服や、装飾品に狙いをさだめる。
無駄遣いはできないが、街に来ることもそうそうないので、色々なものが欲しくなってしまう
「これ、高くない?少しまけてよ」
言ってはみたものの、日ごろの暮らしを考えると、物の値段なんてよくわからない。しぶい顔をされたので、大人しく値札の値段で服を買った。
「いい趣味してるね。」
本気なのか嫌味なのか、よくわからない店主の言葉
「どうも。」
精一杯そっけなく返したつもりだったのだが、店主は話し続ける。
「この辺の人じゃないだろう?」
この辺りの文化圏ではいたって普通な服装をしているつもりだったし、顔立ちも異国と言えるような差があるわけではないのだが、何かおかしかったのか、そんなことを言われた。
「なんで?」
純粋に疑問に思って聞き返すと、得意顔の店主がさらに続ける。
「この模様の服はね、この辺りの人は着ないんだよ。昔の王族の模様でね。特に禁止はされているわけではないんだが、縁起が悪いってことで、誰も着なくなったんだよ。」
その服を買った人間の前で言うことかとも思ったが、別にこの辺りで着るわけではないので気にしないことにした。
それよりも、どういうことなのかが気になって、今度はこちらから尋ねる。
「なんで縁起が悪いの?」
待ってましたとばかりに、笑顔で話し始める店主を見て、これは話したかったんだなと確信した。
「その王族の最後の子どもが、居なくなった時に着ていた模様で、その模様の服を着ていると神隠しに遭うと言われているんだよ。」
なんだか面白そうな話になってきたが、この店主の顔を見ていると胡散臭さしか感じなくなってきたので、そろそろ切り上げることにする。
「そうなんだ、まぁ、興味ないね。そろそろ行くよ。」
そう言ってまだまだ話したりなそうな店主を残し、店を後にした。
この街には二日滞在することになっているのだが、明日はこの服を着てみようと思った。
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