甘くて苦い
私は今、人混みにもまれている。
周りは9割女性。
少し年配の人や、中高生まで、様々だ。
「ちょっとシオリ、はぐれないでよ」
名前を呼ばれて振り向いたら、一緒に来ていた友達のユナが二つ先のお店でチョコレートを選んでいる。
「そんな高いお店で買うの?」
呼びかけた先で振り向いた彼女は満面の笑顔で振り向いた
「そうだよ!だって美味しそうじゃん」
確かにおいしそうだけど、あげちゃうんだからそれなりのお値段にすればいいのに。
思っても口には出さない。
「確かに美味しそうだね」
それは事実なのでしっかりと同意しておく。
そう、今日はバレンタインのチョコを買いに来たのだ。
少し前に振られてしまった私には寂しいイベントになってしまったけれど、ユナはチョコと一緒に気持ちを伝えるらしい。
「やっぱり、あっちのお店の方が良いかなぁ」
楽しそうに選ぶユナに引っ張られて少し気持ちも上を向く。
「そうだね、あんまりお金もないし、あっちのお店の方が良いかも」
二人そろって人混みを掻き分け、少し値段の安いお店に移動してくる。
お店のショーケースに並ぶチョコを見て、素敵なことを思いついた。
「お姉さん、これを一つください」
私が頼むとお姉さんは笑顔で応えて、何も聞かずに素敵なラッピングをして渡してくれた。
私がラッピングを待っている間ユナはもう一つ隣のお店で買ったようだ。
お目当てのチョコを買った帰り道、二人でカフェに立ち寄る。
「すごい人だったねー。」
「そうだね、なかなかないよね。」
テラスの小さなテーブルに二人で腰かけ、甘いコーヒーを飲みながら雑談をする。
「そうだ、ユナ、ちょっと早いけど、これあげるね」
私は買っておいたチョコをユナに渡した。
するとユナは目を丸くして驚いたようだ。
私が満足顔をしていると、ユナも紙袋の中から一つの箱を取り出した
「はい、私もシオリにチョコ買ったんだよ。」
今度は私が驚く番だった。
「ありがとね」
今朝は憂鬱な気分で来た買い物だったけれど、ユナのおかげで素敵なバレンタインになった。
やはり持つべきものは素敵な友達との素敵な友情だってことに気づかされた一日になった。