2024 全英オープンゴルフ選手権
1.日程及び会場
〇日程 2024年7月18日~21日
〇会場 ロイヤルトゥルーンGC(スコットランド)
〇全長 7385Y(Par71)
2.結果
優勝 ザンダー・シャフリー -9
(全英オープン初優勝、メジャー2勝目)
T2 ジャスティン・ローズ -7
T2 ビリー・ホーシェル -7
4 トリストン・ローレンス -6
5 ラッセル・ヘンリー -5
6 シェーン・ローリー -4
T7 ジョン・ラーム -1
T7 イム・ソンジェ -1
T7 スコッティ・シェフラー -1
3.全米プロに次ぐメジャー優勝、6年ぶりの年間マルチメジャータイトルホルダーに、ザンダー・シャフリー
大会期間中穏やかな天候が1日としてなかった今年の全英オープン。
3日目首位と1打差につけたザンダー・シャフリーが、最終日6バーディーノーボギーの65で回り、トータル9アンダーで逆転。
5月の全米プロに次ぐメジャー2勝目を挙げました。
年間で複数のメジャーを獲得したのは、18年のブルックス・ケプカ以来6年ぶり(全米オープン、全米プロ)の快挙で、全米プロと全英オープンを1年で同時に獲得したのは14年のロリー・マキロイ以来10年ぶりです。
メジャー初優勝を挙げた選手が複数のメジャーに優勝するのは、15年のジョーダン・スピース以来9年ぶりの出来事です。
〇”サンデーバックナイン”で逆転
最終組はシャフリー、ローズの前回と前々回の夏季五輪男子ゴルフ競技金メダリスト同士のツーサム(ローズ・リオデジャネイロ五輪、シャフリー・東京五輪)。
前半はローズに勢いがあり3バーディーを奪い、首位のホーシェルに並びました。
これに対しシャフリーは2バーディーを奪ったのみで、首位を1打差で追いかける展開で勝負の”サンデーバックナイン”に入ります。
そして迎えた11H(Par4)、右側には鉄道が走るロイヤルトゥルーンの名物ホール。
ティーショットが左ラフに入るも、セカンドショットをピン手前80cmにつけるスーパーショット。シャフリーは難なくバーディーを奪います。
これで勢いに乗り13H(Par4)と14H(Par3)で連続バーディー、そして16H(Par5)もバーディーを奪い試合を決めました。
メジャー初優勝は4日間首位を譲らなかった完全優勝に対し、今回は逆転でのメジャー優勝となり、勝ち方にもバリエーションが増えました。
〇2年前とはもう”別人”
今年の全米プロに優勝するまでは、2年前のジェネシススコティッシュオープンに勝ったのを最後に、メジャー優勝どころかツアー優勝もありませんでした。
ショット・パットとも高スタッツを持ち、金曜日にコースを後にするということもこの2年半の間全くなかったシャフリーですが(※)、ここ一番の勝負弱さが災いしタイトルを逃すシーンを何度も見てきました。
しかし全米プロ優勝後はそんな素振りを見せることもなく、悪天候に見舞われた3日目もスコアを着実に伸ばし逆転優勝に結び付けました。
〇抜群の安定感とスコア、シャフリー今年のメジャー大会
今年のメジャー4大会におけるシャフリーは、異次元の安定感です。
マスターズ8位、全米オープン7位タイ、そして全米プロと全英オープンは優勝とすべてのメジャーでトップ10に入っています。
今年のメジャーすべての試合でトップ10に入ったのは、シャフリー以外にはいません。
そしてメジャー4大会のトータルスコア上位5選手は以下の通りです。
ザンダー・シャフリー -32
スコッティ・シェフラー -17
コリン・モリカワ -15
ラッセル・ヘンリー -9
シェーン・ローリー -6
※4大会とも完走した選手に限る
〇五輪連覇、そしてプレーオフに十分期待
今年のメジャーが終わり、注目は残り2つとなりました。
まずは来月1日から始まるパリ五輪男子ゴルフ競技、前回東京で金メダルを獲得しているので注目を集めるのは間違いありません。
いい流れで会場のル・ゴルフナショナルに入れます。
そして五輪終了2週間後から始まる、フェデックスカッププレーオフでも期待はできそうです。
フェデックスカップ首位のシェフラーに一時大差をつけられたものの、全英オープン優勝で2000ポイント差以内につけました。
プレーオフ2試合(フェデックスセントジュード選手権、BMW選手権)は優勝すれば2000ポイントを獲得できるので、2試合の結果によってはシャフリーがフェデックスカップ1位で最終戦のツアー選手権に臨める可能性が出てきました。
ツアー選手権の会場でもあるイーストレイクGC(ジョージア州アトランタ)は得意としているシャフリーなので、大逆転劇が今年も見られるのかもしれません。
〇唯一狙える”ゴールデンスラム”も来年ひょっとしたら
そして来年以降のシャフリーは、前人未到の大記録を達成するかもしれません。
全米プロ、全英オープンとメジャー2冠。そして五輪金メダルと重要なタイトルを3冠持っています。
残るメジャータイトルであるマスターズ、全米オープンも優勝すればまず6人目のキャリアグランドスラムもそうですが、ジーン・サラゼン、ベン・ホーガン、ジャック・ニクラウス、ゲーリー・プレーヤー、そしてタイガー・ウッズでも成し得なかった”ゴールデンスラム”を達成します。
歴史上の選手以上の実績を出すかもしれない、シャフリーの今後に要注目です。
4.思い入れのある大会で、花は咲かずとも再び輝きを見せた、ジャスティン・ローズ
〇紆余曲折の競技人生
26年前ロイヤル・バークデールで行われた全英オープン、当時17歳のアマチュア選手がいきなり単独4位に入るというセンセーショナルな出来事が起こりました。その主役がジャスティン・ローズです。
大会終了後即プロ転向を表明したローズ、しかしそこからプロ初優勝を挙げたのは4年後の02年のアルフレッドダンヒル選手権でした。
プロデビュー後21試合連続でカットという憂き目を見たローズ。少年顔だったローズも少し逞しくなった瞬間でした。
07年に欧州ツアー(現DPワールドツアー)賞金王を獲得し、それから3年後の10年にメモリアルトーナメントでPGAツアー初優勝。
メリオンで行われた13年の全米オープンでメジャー初優勝を果たし、いつの間にか世界のトッププロに変貌しました。
112年ぶりにゴルフ競技が五輪の正式種目になったリオデジャネイロ五輪で、復帰第1号の金メダリストに輝きました。
18年にはついに世界ランクNo.1になり、その年のフェデックスカップチャンピオンにも輝き、充実した1年となりました。
〇最終予選から出場権
そんなローズも昨年のAT&Tペブルビーチプロアマに優勝して以降勝ち星はなし、世界ランクも67位まで下がり出場資格を得ることができず、最終予選にエントリーしました。
会場となったバーハムアンドベローで出場権を獲得、定員4人の狭き門を潜り抜け本戦に出場可能に。
迎えた本戦でも今まで培ってきたリンクスの戦い方を存分に発揮し、試合終盤まではトップに立つこともありました。
シャフリーが11Hでバーディーを奪った直後の12H(Par4)でボギーを叩いたのが試合に大きく響く格好に。
しかしそれでも勝負を捨てなかったローズ、16H(Par5)ではセカンドショットにドライバーを選択してこのショットを放ちました。
結局ここから2パットでバーディーとし、最終18H(Par4)でもバーディーを奪い5バーディー1ボギーの4アンダー67で回り、トータル7アンダーの2位タイで大会を終了しました。
最後大輪の花を咲かすことができなかったローズですが、最終予選を勝ち上がり優勝争いに食い込めたことを褒めていました。
5.週末久々にパッティングが足を引っ張った格好となりメジャー1冠のみ、スコッティ・シェフラー
風雨の強いコンディションでも左右されず、2日目を終えた時点ではメジャー2冠目も十分にあり得たスコッティ・シェフラー。
ところがこれまで無難にこなしていたパッティングが、週末になると今までの弱点が顔を出し始めました。
3日目ストロークゲインドパッティング(パッティングの貢献度)が80選手中79位、最終日は58位と無双状態だった頃を考えれば考えられない数字に降下。
中でも9H(Par4)は3打目のアプローチを2mにつけたものの、これを3パットしてしまいダブルボギー、ここで優勝争いから脱落しました。
その後もスコアを伸ばせない中迎えた最終18H、ティーショットがショットメーカーのシェフラーらしからぬミスで手前のラフに打ち込み、そのショックが尾を引いたのかダブルボギーでホールアウト。
自身が思い描いていた結果とはかけ離れたものとなりました。
思いも知らね結末で終えた全英オープン、1週オフを取りパリ五輪に臨みます。
この結果を引きずることはまず考えられませんが、プレーオフのことを考えればシャフリーの足音が少しずつ気になってきたのは確か。
シェフラーの立て直しが見物です。
6.松山英樹メジャー大会18試合連続”完走中”、実は現役最長
初日4オーバーで発進し、カットラインが頭にちらつき始めた松山英樹。
2日目は我慢の1日、1オーバーにまとめてトータル5オーバーで週末にコマを進めました。
松山がメジャー大会で週末プレーができなかったのは19年の全英オープンで、それ以降は完走し続けています。
20年の全英オープンはパンデミックで中止、21年の全英オープンはコロナで陽性反応にかかり欠場を余儀なくされました。
メジャー18大会連続で完走し続けるのは、現在世界の男子プロ全員での最長記録です。カットの少ないシャフリーでも22年のマスターズでカットになっています。
(※)シャフリーはこのカット以降、すべての試合に”完走”しています。
最長記録はジャック・ニクラウスとタイガー・ウッズの39試合、まだまだ松山は最低でも5年間メジャー大会を完走し続けなくてはなりません。
結局12オーバー66位タイで大会を終了、パリ五輪に備えます。
7.全米オープンの”ショック”を全英オープンで晴らせず、ロリー・マキロイ無念のカット
先月の全米オープンで、最終日一時は2打差をつける首位に立つものの、終盤のパットミスが響きブライソン・デシャンボーに優勝をさらわれ、公式記者会見場に姿を現すことなくコースを立ち去ったロリー・マキロイ。
何とか挽回しようと臨んだ全英オープンですが、残念な結果に。
初日は強い風雨の中でのスタート、欧州出身のマキロイらしからぬ7オーバー78での立ち上がり。
挽回しようと2日目に入っても強風の中で苦しみ、4オーバー75でホールアウト。結局11オーバーを叩き、無念のカットとなりました。
マキロイ自身メジャー大会最初の2日間でのワーストスコアを記録、今年のメジャーが終わりました。
〇10年間メジャー大会の優勝なし
これでマキロイは2014年の全米プロ(当時は8月開催、現在は5月)にメジャー大会4勝目を記録してから10年間優勝がないという不名誉な記録を更新してしまいました。
2014年の全英オープンで優勝し、6人目のキャリアグランドスラムに王手をかけ全米プロでメジャー大会を連勝したときは、マスターズ優勝はもう時間の問題とまで言われました。
ところが少し強引すぎる時が所々見られるのもマキロイ、それが仇になって勝機を逃すシーンも数々見られました。
その間もPGAツアーとLIVゴルフの仲介役など試合以外の活動もこなす中でもトップを走り続けプロ生活ももうすぐ20年を迎えます。
いろいろな変革を、マキロイは求められそうです。
8.ビッグネーム達が2日でコースを去る
2日間でコースを去るのは、何もマキロイに限ったことではありません。
全米オープンに次ぐメジャー連勝を狙ったブライソン・デシャンボー、歴代優勝者であるキャメロン・スミス、メジャー初優勝を狙ったビクトル・ホブランド、ルドビグ・オーベリ、トム・キムなど。
昨年の全米オープン優勝ウィンダム・クラーク、そしてタイガー・ウッズもここに含まれます。
〇スタート条件が影響したか?
初日は午前中に風雨が強まったため、早いスタートの選手達に大きく影響が出ました。
・平均スコアの比較
初日午前、2日目午後スタートの選手
74.50(初日)、75.38(2日目)
149.88(2日間)
初日午後、2日目午前スタートの選手
74.37(初日)、73.28(2日目)
147.65(2日間)
スタートの違いで、平均スコアが2打以上違う結果が出ました。
3日目80選手が進めますが、初日午後スタートの選手が3日目に多く進んでいます(46選手)。
選手は言い訳にはしませんが、スタートの条件が違うだけでもこれだけ差が出てしまいました。
9.今年のメジャーまとめ
今年のメジャー4大会もこれで終了、優勝者をまとめました
〇マスターズ
スコッティ・シェフラー -11
(メジャー及びマスターズ共に2勝目)
〇全米プロゴルフ選手権
ザンダー・シャフリー -21
(メジャー初優勝)
〇全米オープンゴルフ選手権
ブライソン・デシャンボー -6
(メジャー及び全米オープン共に2勝目)
〇全英オープンゴルフ選手権
ザンダー・シャフリー -9
(全英オープン初優勝、メジャー2勝目)
〇メジャー4大会とも米国勢が独占、しかし意外にも42年ぶりの出来事
今年のメジャーは米国勢が独占、昨年の全米プロでケプカが優勝してから連勝記録を7に伸ばしました。
意外にも聞こえますが、米国勢がメジャー4大会で優勝を独占したのは、1982年以降42年ぶりの出来事です。
・1982年のメジャー4大会優勝者
マスターズ クレイグ・スタドラー
全米オープン トム・ワトソン
全英オープン トム・ワトソン
全米プロ レイモンド・フロイド
米国勢以外が優勝したのは、昨年のマスターズでラームが優勝して以降優勝者が出ていません。
マキロイが10年メジャー優勝できていないのも影響があるでしょうが、それでも米国勢の選手層、選手の質が高いのが大きな要因です。
それでも来年以降はマキロイの奮起やホブランドの復調、そしてメジャー初出場を経験したオーベリがどれだけ実績を積み上げて行くかが欧州勢復権のカギを握るでしょう。
そして豪州、南米、アジア勢もこのまま負けるわけにはいきません。
勿論ここに松山が戦いの中心にいてくれることを期待します。
メジャー4大会は終わっても、今年はパリ五輪が開催されるためゴルフ競技が2週間後に控えています。
好調を維持する選手や切り替えが必要な選手などいますが、パリで熱い戦いをまた期待します。
来年2025年の全英オープンは6年ぶりにアイルランドで開催、ロイヤルポートラッシュが会場です。
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