立法学入門コラム 朝ドラと法制局 【追記】2023年9月29日
2020年のエイプリルフール・ニュースに初の女性法制局長をモデルに朝ドラが作られるという嘘ニュースを書きました。
今年(2023年)になって、来年(2024年)の春のドラマが日本初の女性弁護士三淵嘉子氏をモデルに朝ドラ(連続テレビ小説)が作られるという発表がありました。法律関係の職業の「女性初」ということで、先の嘘ニュースもまんざら嘘ではないということになるかもしれません。とはいえ、「虎に翼」の方は「女性初の」といっても戦前に弁護士となったことであるのに対して、私の嘘ニュースの方はまだ「女性初」の方が出ていないことについてなので、「女性初」の意味合いは異なります。法制局の関係では、この点はまだまだ遅れているようです。いずれにしても、先のエイプリルフール・ニュースが本当になったということではないのですが。
ところで、この三淵氏について、参議院法制局と、かなり間接的ですが、関係があるので、そのことについて触れておこうと思います。そして、今年春の朝ドラ「らんまん」についても、こちらは内閣法制局ですが、これまたかなり間接的ですが、関係があるので、ここで書いてみます。まあ、少々こじつけという感じもありますが。
というわけで、これは嘘ではないので、コラムの方で書いてみます。
まず、「虎に翼」についてのNHKの発表は、次のようになっています。
モデルとされる三淵氏については、その出身である明治大学のホームページで紹介しています。
この記事にあるように、三淵氏は、戦後、裁判官の任用願いを出しますが、すぐには任用とならず、司法省に入り、民法改正や家事審判法の制定に関与します。この意味で、立法過程に関わっているということが言えますので、私としては、ドラマがこの点をどう描くかも気になります。ただ、三淵氏が司法省に入った時点では、民法改正の立案作業は終盤になっていたということではあるので、どうなるでしょうか。
さらに、当時の司法省民事局長は奥野健一氏であるということです。奥野氏は、この民事局長の後、訟務長官になり、そして初代の参議院法制局長となります。この意味で、参議院法制局と関係があるということになります。かなり間接的で、関係はないというべきかもしれませんが、私としては、関係あるということにします。なお、民法改正とからめると、奥野氏が昭和23年(1948年)に出版した『改正民法の解説』(三省堂)の「はしがき」には次のようにあります。
「和田」というのは当時の三淵氏の姓で、この「和田嘉子君」が三淵氏のことです。
奥野氏がこのドラマで、どう描かれるのか、もしかすると描かれないのか、わかりませんが、こうしたことでも楽しみにしています。
いずれにしても、主演が伊藤沙莉さんという好きな俳優さんでもあり、リーガル・エンターテイメントということでもあり、「虎に翼」、大いに期待しています。
さて、次に、放送の順序は逆になってしまいますが、今放送している朝ドラの「らんまん」についてです。「らんまん」は、牧野富太郎博士がモデルのドラマです。牧野博士は、植物学者で法制局とは関係なさそうですが、実は元法制局長官で、現行憲法の制定過程でも活躍された佐藤達夫氏が、牧野博士のお弟子さんなのです。佐藤氏は、植物の新種を発見したり、植物に関する著作もあるほどで、植物学の方も本格的です。本職の法律関係では、専門的なもののほかに、法律に関する随筆も多く、その中で牧野博士に言及するものもいくつかあります。たとえば、「法令植物誌」という随筆(初出は、昭和32年7月産業経済新聞)は、次のように始まります。
「ジャガタライモ」を「馬鈴薯」と呼ぶことの間違いを指摘した牧野博士の随筆を受けて、法律で「馬鈴薯」としているものがいくつかあり、佐藤氏は「わたしとしては、先生にあわす顔がないというわけなのである」(同47頁)。そして、この随筆の最後を次のように締めくくっています。
「らんまん」、今も面白く見ていますが、「らんまん」に佐藤氏をモデルとした人物が登場するのかどうかにも注目して、これからも見ていこうと思います。
【追記】2023年9月29日
今日で、朝ドラ「らんまん」は最終回を迎えました。ドラマは、『日本植物図鑑』ができたところで終わり、佐藤氏のモデルが出てくるところまではいきませんでした。しかし、半年間、大変楽しみました。
ところで、今月、佐藤氏の『植物誌』が河出文庫として復刊しました。「らんまん」の影響かもしれません。早速、入手しました。そして、そのあとがきに付された注記で、佐藤氏が牧野博士の「日本植物図鑑」に触れていることに気がつきました。佐藤氏は、次のように書いています。
この〈牧野植物図鑑〉からの引用は、たとえば「ほととぎす」の項から示すと、「牧野植物図鑑によると、「和名ハ杜鵑草ノ意、花蓋片ノ斑点ヲほととぎすノ胸斑ニ比シテ此名ヲ呼ビシナリ」とある」(佐藤『植物誌』200頁)というようになっています。今日の最終回で出てきた『日本植物図鑑』もこのように片仮名文語体の文章であることが描かれていましたので、まさにそれとにつながるものといえ、興味深いです。
それと、この植物図鑑が新版になって「全部口語体に改められている」ということを佐藤氏が書いているのも、興味深いです。我が国の法令は、従来片仮名文語体で書かれていましたが、日本国憲法が平仮名口語体になったことで、その後、平仮名口語体で書かれることになりました。この転換の中心にいたのが佐藤氏であり、佐藤氏が上記のように書いているときに、このことが胸中をよぎったのではないかと、これは私の勝手な推測ですが、思えてなりません。
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