21年間の人生で聴いてきた邦楽(全2,280曲) 全曲レビュー その6
いま、私のSpotify「お気に入りの曲」には、2,280曲が登録されています。これについて、一番古いものから順に、全部言及します。
#51 それはただの気分さ - Live - フィッシュマンズ
かなり最後の曲。先輩がツイートしていて知った。ずっと、自分にはまだ早い曲という感じがする。いくつになっても自分には本当の意味で分かることがない曲だと思う。何と切なく、良い曲だろう。
疲れ、窶れることを肯い、愛すること。ただし、疲れているのは、「君」だけではない。歌っている彼もまた極度の疲労下にある。あるいはこれは自己愛でもあるのかもしれない。「君」を想っているのは、「哀しいご厚意に疲れた」彼である。
昔見た先輩のツイートは、あるブログを引用したものだった。
忙殺されている人への愛。
★
僕はどちらかというと疲れている側なのだと思う。そのことは僕自身の欠落でもある。僕は自分が疲れていることによって何らかのプロセスを回避している。この曲を聴くたびに、そのことを意識する。
#52 愛のことば - スピッツ
かなり聴き込んできた曲。
レトリックの影にかくれて、描写される状況は複雑である。そうとしか言えない風景がメタフォリカルに存在する。
スピッツが2000年のアルバム『ハヤブサ』に収録した「甘い手」の間奏部分で引用されるのは、草野が感銘を受けたソビエトの映画「誓いの休暇」の台詞であるという。
未来の喪失、神々の零落。この楽曲が1995年というまさにその年にリリースされたことは見逃せない。
#53 渚 - スピッツ
歌詞が綺麗で人気曲であることがうなずける。
#54 運命の人 - スピッツ
『フェイクファー』の頃は苦しい模索の時期として語られることが多い。実際、本人達も、セールスが爆発的に伸び、世間の求めるものとの乖離に強く悩まされていたことを語る。とても聴きやすく、明瞭なこの曲(もっとも、聴きやすく明瞭であることはこの楽曲の価値をいささかも減損させない)ではあるが、いまよくよく聴いてみると、
のあたりには書き手の暗い部分が落ちているように思える。このような、二重三重に暗さを汲む聴き方でこのアルバムを聴くと、二重三重に魅力的なアルバムであるように感じられる。
後述するであろうが、このような作品が1997〜98年前後に出た後、さらに「ハヤブサ」と同位相の作品が出たかどうかが、1997・98年前後に長期の休止や解散に入ったいくつかのアーティストと、そうでないアーティストの間で異なっている。
#55 謝々! - スピッツ
の歌詞がとても印象的。
#56 幸福論 - 椎名林檎
「ブギー・バック」同様、駒沢公園でMVが撮られている。椎名林檎のファーストシングル。
#57 すべりだい - 椎名林檎
より個人的な「幸福論」の前章という印象がある。「後ろめたいことがあるとき」の「とき」の背後で三回鳴る音が決定的に良い。歌詞が印象に残る。
#58 1/6の夢旅人2002 - 樋口了一
Spotifyの契約を開始してこの曲を「お気に入り」に追加したころ一番やりとりしていた友達も「どうでしょう」が好きだった。僕の世代で「どうでしょう」が好きということ自体、何かがずれていて、ずれていることを互いに笑った。彼と話し続けた時間を思い出す。
#59 traveling - 宇多田ヒカル
よく聴いたし聴き続けている。永遠に未来の音であって、リリースから23年が経過したことが信じられない。
#60 海を見に行こう - スピッツ
JRの宣伝ソング。いまWikipediaを見ると、「三日月ロック」は2001年9月11日の出来事が強く影響した作品であるという。初めて聴いた当時、そのことに気付かなかった。(私は2003年生まれなので、アメリカ同時多発テロについては、少なくとも同時代的には、一切知らない。)
背景に在る事柄を仮に十全に知らなかったとして、良い曲を心に留めることができる(できてしまう)こともまた、ポップスが人の心にもたらす効用なのではないかと、ふと思った。表層が深層を宿す。そのような鑑賞態度が許される媒体は多くない。通常、それは鑑賞側の落ち度であるからである。