人は見た目じゃ分からない@7750
先日こんなつぶやきをしました。
相当まえの話ですが、ここまではほぼ事実。
んでこのあとフィクションを付け加えて書こうと思っていたのですが、あまりに長くなりそうなのでnoteで更新することにしました。
以下のお話がそれです。途中からはまったくの作り話ですがよかったら読んでください♬
◇◇◇
ビルの5階6階にあるスポーツクラブ。5階のプールも、6階のジムや、風呂やサウナも、そこかしこで笑い声が響く休日のお昼過ぎは、これから訪れる薄着の季節に備えて体のメンテナンスに励もうと意気込む老若男女で大にぎわいだ。
満々と水をたたえたプールの底は鮮やかな空色。足元から10メートル、天井まで壁一面の大きな大きな窓ガラスから差し込む午後のお日様は、空色のプールの底にゆらゆらと波の影を映している。
駅前の大きなニュータウン、分譲マンション売り出しに合わせてオープンしたスポーツクラブは、水泳やダンスを習うためのスクール会員と、好きなようにトレーニングしたり泳いだりするためのクラブ会員の二種類の会員システムがあった。
ステインアライブ、フットルース、フラッシュダンス、ヘブンリーボディーズ、そんな映画が流行ったあと、エアロビクスが上陸した。
少し遅れて水中エアロビクスや水中歩行が市民権を得、泳ぎが得意でなかった人や水は苦手と言っていた人々も、次々と水の中へ浸かろうと、特にレッスンがある休日はいつもよりたくさんの人で空色のプールはにぎわっていた。
音楽に合わせて水の中で行うエクササイズは、膝や腰への負担が少ない上、水の抵抗を生かすことができる一石二鳥の運動だ。
心拍数を測りながら年齢にあったレッスンをしているので、参加者は誰もみな頬を紅潮させ気持ちよさげ、レッスンをリードする琴子だけは30度の室温下、プールサイドで飛んだり跳ねたりだから、いつでも大洪水の汗まみれ。レッスンはなかなかにハードだった。
それでも、今まで水を敬遠していた人や、陸上で思うように運動できない人たちが、元気な様子で水に触れる姿を目にしたり、くずれるような笑顔で喜びを露わにすることが心から嬉しかった。
疲れなどどこかへ吹っ飛んでしまうほど、その時間にやりがいを感じたし、時にレッスン中に思いあまって涙ぐむことさえあった。
心拍数を測りレッスンの振り返りをコメントしたあと「お疲れさまでしたー!」と解散をすると、みな銘々にお馴染み同士おしゃべりをしながら広いプールへと散っていく。
その姿を見送ったあと、琴子は汗だらけのソックスと履いていたシューズをぬいでプールサイドにマットを広げる。レッスン後、自分のためのストレッチを始めようとしたその途端、突然、プール室内に大きな声が響き渡った。
「こっこせんせーーーーーーー!」
見れば、7コースのスタート側で両手を頭の上で振ったり手招きしたりしながら、大きな声が琴子を呼んでいる。木戸さんだ…と琴子は声で知る。
レッスン後の至福のストレッチタイムを邪魔された琴子は、やれやれ…まったくもう…と心の中でぶつくさ言いつつも、慌ててビーチサンダルに素足をすべらせ速足で声のする方へ歩み寄る。
「どうなさいました?!」
膝をついて話しかけると、木戸さんは口元に手をあてて早口の小声。
「ねえ…あそこで泳いでいる女の人見えるでしょ?あの人の腋毛が気持ち悪いのよ!あの腋毛を剃るように注意してもらえないかしら?」
と一気にまくしたてプールの角によりかかった。
両手をオーバーフローのプールサイドに大きく広げる様は、さながらヤ〇ザの親分だ。親分が顎をしゃくるその先には、あちら側へ向かって泳いでいく見慣れない女性の姿があった。
水着とキャップ、背格好と泳ぎ方を見れば、その人が誰なのか顔を見なくても判別できるくらい、琴子はこのスポーツクラブに長く勤め、7000人いる会員の半数以上の顔や名前を把握していた。
けれど、いくら見てもその女性が誰なのかわからなかった。
大きな会社が建設し大きな会社がオーナーのそのスポーツクラブには、ほんの時折、大きな会社のお友達や、オーナーの大きなお友達がお遊びの冷やかしで遊びに来ることがあった。
木戸さんもまた、クラブのオーナーと太いパイプがある様子でなぜか圧してくる雰囲気を持っている、親分だった。
何かにつけてはスタッフを呼び止め、身勝手な無理難題を投げつけてくる人だとスタッフ内では噂になっていたが、なぜか琴子を気に入って、何かというと「こっこせんせ!」と寄ってきては気が済むまでどうでもいい世間話をするのだ。
仕事が終わったあとなら何も問題はないが、勤務中、しかもその後にすることが待っている状態で呼び止められると、心の中で軽く舌打ちをすることもあり、木戸さんに対してはいいつでも防御線を張っている琴子だった。
そんなわけで親分はスポーツクラブにとっても琴子にとっても、共に要注意人物だった。
「へっ?!腋毛ですか?!」
あまりに突拍子のない話に思わず反射的に反論ともとれるような口調で言葉を返した琴子だった。が、琴子からすれば長い髪の毛を一本に束ねキャップも被らずに泳いでいる親分、あんたのほうこそ気持ち悪いよ!というのが営業のお面をはがした本音だった。
しかしそこはサービス業の宿命。
愛想笑いをしながらどうやってこの局面を乗り切ろうか、はたまた自分一人でこの親分を納得させることができるだろうか…と頭の中でチクタクチクタクと忙しなく時計の秒針の動く音が鳴っている。
なんとかしなくちゃ!と焦る気持ちを抑え、どうにか笑顔でギリギリを持ち堪える。
琴子がもう一度その女性の方を見てみると、クロールで泳いでいた手がカベにタッチ、同時にスッと立ち上がった。
おそらく琴子と同じ150センチくらいの身長だろう。胸まで水に浸かっている女性の髪はシルバーグレーのベリーショート。
両手を上下させながら元気よく歩いてこちらにもどって来る。身に着けているのは真っ赤なリゾート水着だった。髪の色と水着の色がなんともいい感じで、琴子の目には、興味深く魅力的に映った。
確かに、遠めに見ても溌溂と空中を切るように上げ下げする両手の付け根には、白っぽいフワフワしたものがあるようだった。
でも、それは気持ち悪いと感じるようなものではなかったし、それより何より親分のほうこそ、長い髪の毛を何とかしてほしいもんだよ…まったく!と、琴子はまた心の中で秘かに悪態をつく。
少しずつ近づいてくる女性の顔を見ても、まったく見覚えがない。琴子がどうしたものかと思いあぐねていると…
「あの人、フランス帰りなんだって。なんでもご主人が銀行屋さんらしくてね、その関係で一緒にフランスに長い間いたらしいんだけど、このたび晴れて定年になって日本に帰って来たらしいよ!フランスの女性ってのは、みんな腋毛を剃らないもんなのかね?」
そう助け舟をだしてくれたのは杉田さん。杉田さんはいついかなる時も飄々としている。しかしながら、あちこちのトライアスロンにエントリーするほどのアスリートおじさんだった。杉田さんと話をするとき、琴子はいつでも爽やかな風で後ろから押されるように感じ、よし!今日もやるぞ!という気分になるのだった。
「そうなんですか。じゃあまだ入会したばかりなんですね…それなら早速ご挨拶しなくっちゃ!」
そう言いながら片手でプールの水をパシャパシャたたいて琴子は横目で木戸さんを、正面にはベリーショートの女性を見る。琴子、木戸さん、杉田さんの視線を感じた女性は平らかな表情で「こんにちは!」と朗らかな優しい声であいさつをした。すかさず琴子も「こんにちは!」と返す。
第一印象がもうストライクゾーンだった。少し日焼けした肌にはそばかすがいっぱい。
20代の琴子の目には女性は50代なのか60代なのか、まさか70代ではあるまいな…という程度にしか年齢の見当はつかなかった。
小さな耳にはシルバーリングのピアス、笑うと目尻に浮き上がる何本もの皺が女性の顔に幸せを刻んでいるように感じた。
「本当にここのプールは気持ちがいいわねえ。こんなに陽の光がはいって、プールの底に光と影がゆらーーーっとしていて、泳ぐのが楽しいわあ、できることなら毎日でも来たいくらい…あ…ご挨拶もしないで…私ったら…いやだわ…、ええと…新城といいます。今日が3回目の新入りです!」
そう言って親分の横でプールの壁に背を向けてよりかかると、首を左右に曲げてストレッチをしはじめた。
女性のしなやかな動きや表情をみて、琴子は思った。
親分が気に入らないのは腋毛などではなくこの女性そのものなのかもしれない。
琴子の目には新城さんと親分が真反対の女性のように見えた。
「私、水泳やスタジオのレッスンを担当しています、藤田琴子といいます。よろしくお願いします!」
と琴子が先陣を切ると
「あ!私は杉田といいます!私ももうリタイア組ですわ!」
すかさずアスリートおじさんが自己紹介…すると
「あら…あたしなんか毎日来たいから来てるわよ!新城さんだって来たいなら毎日来ればいいんじゃない?あ!あたし木戸っていいます!どうぞお見知りおきを!」
少し意地の悪い調子で木戸がたたみかける。琴子は親分がいつ腋毛のことを言い出しはしないかと、内心ハラハラしながら新城さんの返事を待った。
すると新城さんが申し訳なさそうに眉根を寄せ…
「ええそうね…私もできることなら毎日来たいんだけど…実は主人のね、体調がよくなくって…そのせいで銀行も退職することになってね…こちらに戻ってきたのは娘や息子たちが少しでも力になれるならって…言ってくれて…だから帰って来たんです。
ホント、人生なんて何があるかわからないものですねぇ…はあ…初対面の皆さんにこんなしみったれた話をしちゃってごめんなさいね…あら、もうこんな時間…今日はもうお先に失礼しますね…」
そう言って新城さんはプールから出ると、水道でうがいをし、目洗い場で目を洗って、ジャグジーへ姿を消した。
琴子は新城さんの後姿を見送りながらチラッと親分を見た。親分は怒ったような顔をしていたかと思うと、ザブンッと大きな波をたててあっという間にプールサイドへあがってしまった。そして新城さんの後を追ってジャグジーへと姿を消した。
琴子は困った。
喧嘩の仲裁をするのは面倒だし、第一そんなこと琴子の手に負えるものではないような気がした。
どうしたらいいんだろう…と思ったとき、杉田さんが助け舟を出してくれた。
「琴子せんせ…心配しなくても大丈夫ですよ。僕が保証しますから絶対に大丈夫です!さささ!まだお仕事たくさんあるんでしょ?早くシャワー浴びて着替えて次のお仕事してくださいね!僕が見張っておきますから…大丈夫です…心配いりませんってば!」
何を根拠にそう言い切るのか、琴子にはまったく見当がつかなかったけれど、ここまで既に予定より20分オーバーしている。杉田さんには申し訳ないと思いつつ、そのあとに幼児クラスのレッスンが待っている琴子は、
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて、あとは杉田さんにお願いして仕事に戻ることにします。本当にすみません。何かあった時は必ず呼んでくださいね!よろしくお願いします!」
そう言ってシャワーを浴びるとコーチ室へ戻った。そのあと通常業務に追ったてられるようにして、長い一日をやっとのことで終える頃にはもう腋毛のことは頭から放り出されていた。
翌日もいいお天気でお日様は燦々とプールを照らしていた。
けれど新城さんは姿を見せなかった。
次の日も、その次の日も、またその次の日も、新城さんは現れなかった。
翌週も、翌月もついに新城さんは一度も姿を見せず、秋がきて、冬がきて、年が明けてしまった。
節分が過ぎてもまだ新城さんの姿を見ることはできなかった。
その間にも気が気ではない琴子は、月が替わるたびに受付で確認をする。
新城さんはクラブには在籍したまんま、毎月の会費は引き落としになっていた。けれど、あの日を境についに新城さんの姿を見ることはなかった。
同時に木戸さんの姿を見かけることもなくなった。
たまたまなのか、それとも二人の間に何かあったのか、杉田さんに聞いてもよくわからないという。
念のためクラブのに責任者にはその一件についての報告はしたが、会員同士のトラブルならやむを得ない…というのがクラブの方針だと事務的に申し渡された。
***
それから半年。新城さんはプールにもジムにも姿を見せることはなかった。琴子は自分を責めた。なぜ、あの時、新城さんを追って行った木戸さんをそのままにしてしまったのか。
あんなに朗らかな表情でこのプールが気持ちいいと喜んでいてくれた新城さんだのに、そんな大切なお客様を守ってあげることができなかった自分を責めた。
何度か電話をしてみようかとも考えた。そこまでする必要はない…と責任者に一喝されへどもどして立ち往生したっきり、琴子は頭の中あれこれ考えるばかりで何もできず時だけが過ぎていった。
スポーツクラブのビルの裏には一級河川が流れていた。そしてその土手にはこれでもかというほどにソメイヨシノが自由に根と枝を伸ばして育ち、花見の季節になると出店が出て夜になると灯りが点いた。
今週末が満開の見頃になりそうだね…とスタッフ同士言い合っている中、新城さんから私宛に電話が入っているとフロントから内線があった。
慌てて電話に出る。
電話の向こう側で新城さんは泣いているようだった。琴子は泣いている人の感情にすぐ引きずられてしまい、本来なら慰めて元気づけたり勇気づけたりすべきはずの立場でありながら、一緒になってメソメソしてしまうことが度々だった。
それなので、今回もそんなことになってはまた周りから何を言われるか分からないと、中休みになって人気のないジムの電話で新城さんからの電話をとった。
すごく心配していたこと、あの日いったい何があったのか、もし自分にできることがあるならぜひ力になりたい!木戸さんのことも、何かあるならぜひ話してほしい、琴子はひとり興奮気味にそう伝えた。すると新城さんからは予想とはまるで違った答えが返ってきた。
あの日、ジャグジーに入るとすぐに木戸さんがとなりにきて、主人の病気がどんな病気なのか聞かれてその頃の病状を話した。すると、あなたに是非に聞いてほしい話がある。
実は私も数年前に夫を同じ病気で亡くした。その時の私は、いつまで続くの分からないその看病に、そして病人の強さを持って日に日に我儘になっていく夫の身勝手さを持て余していたそうなの。
良くなってほしい…そう願っているはずなのに、実際の夫に接する態度は、夫の我儘に引き摺られて優しさはどんどん擦り減っていき、猛々しい気持ちが昂っていくようないけ好かない付き添い人に成り下がっていったらしいの。
そう思えばまた、そんな自分にうんざりして、かといって嫌な自分を隠し通そうとするしたたかさもなく、交わす言葉すら棘を抜かなければ受け取ることもできない夫婦になったしまったって…そんなある日、ご主人が言った
「こんなに何もできない亭主なんて、いない方がいいと思ってるんだろ?」
そう言ったらしいの。
看病とお互いを思いやることができない寂しさと悲しみに、浅い呼吸をしながら一日一日を凌ぐことがやっとだった病人に対して心底腹が立ったって…
ご主人が放ったその言葉を病人が言う我儘、戯言、と身を躱して受け流すことができなかった、って…連日の看病で疲れ果てた木戸さんは、ご主人が言った売り言葉に買い言葉で
「ああ、本当にその通りだよ!」
そう言い返したらしいの…。二人はいつも同じ部屋に、ご主人はベッドで、木戸さんは畳に布団を敷いて眠っているときだけは仲良く寄り添っていたらしいのだけど、その日、頭に血が上り過ぎた木戸さんは布団を隣室に置いて頭から湯気をたてたまんま眠りについたそうなの。翌日、朝になってご主人の部屋をのぞいたら、もうご主人の体は冷えに冷えていたって…。
なぜ、最後の最後に優しく見守って安心させてあげることができなかったのか、なぜ気持ちよく逝かせてあげることが、笑顔で見送ってあげることができなかったのか、そのあと随分と長い間を悔しくて、切なくて、自分を責めて暮らすことになったって。
だから、あなたには同じ思いをしてほしくないって…おそらく気晴らしも必要だと思う…でも、最後の最後に私と同じような後悔をできるならしてほしくないと思う…って。
きっとあなたのご主人も長くないでしょうから、今日が最後の一日と思って見守ってあげてほしいの…だってきっと今まですごく大事にしてくれたでしよ?あなたのこと。あなたの顔を見たらそのことがよくよおく分かるものって。
だから、主人のために時間を使ってあげてほしい…ジャグジーで木戸さんにそう言われたの。だから私…だから…
そういうと新城さんは今までこらえていた悲しみを吐き出すように嗚咽した。琴子は言葉がなかった。嫌ね…こんなに子どもみたいに泣いたりして…と散々泣いたあと大きく深呼吸した。
それでね、ここからが本題なんだけれど、夫がどうしてもこのプールの底に陽が当たって波の影がゆらーーーっとするところを見てみたいって…亡くなる前の3日間くらい、ずっとずっと、あのプールの底の様子を聞かせておくれよ…って…だから何度も何度も同じ話をしてあげたの。
そのたびに夫は、うんうん、そうか、そうか、って遠い目をして天井と私を交互に見ていたの…。それでね、もしできたら、あの…亡くなった夫の遺影を持って行くので、ほんの少しだけ、お日様いっぱいのあのプールサイドから夫にも水の底にゆらーーーっとする波の影を見せてあげたいと思っていて…
木戸さんにも是非お願いしてそうしてあげたほうがいいって…あの翌日から木戸さん、毎日うちに来てくれて、いろいろと助けてもらっていたの。
木戸さんは、ヘルパーさんのお仕事をなさっていたそうで、私なんかよりずっと上手に夫の身の回りのことをしてくれて、私達もう親友みたいに仲良しなのよ…ふふふ…
新城さんは小さく笑った。
次から次に涙があふれ、琴子は話をすることができなかった。
あの木戸さんが、あの人の腋毛が気持ち悪い…そう言っていた木戸さんが、新城さんを思ってそんな優しい助言と手助けをしていたなんて…。
それなのに、木戸さんを勝手に悪者扱いしてずっと恨めしく思っていた自分が恥ずかしい…加えて杉田さんが言っていたことは全く当てにならない…いい加減な人だと腸が煮えくり返るほどイライラすることもあった自分が情けない。
なんて浅はかな大馬鹿者だろう…こういう時に穴があったら入りたいと人は言うんだろうか…。
関係のないことを考えながら『さて、どうやって上司にこの話を承諾させようか…』こうなったら太いパイプの木戸さんに一役買ってもらおうか…どうすれば、新城さんのご主人に水の底のあの美しさを見せてあげることができるか…。
溢れる涙を止めようともせず、窓の外、満開に咲き誇るソメイヨシノの花びらがよろけた風にひらひら飛ばされる中、木戸さん、新城さん、杉田さん三人の顔を思い浮かべながら鼻を盛大にかむ琴子だった。
おしまい