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セックス中毒だった苺へ。
セックス中毒の女へ。
セックス中毒はつらい病だ。
病気だ。
男たちとすぐに、誰とでもやってしまう病だ。
重たい病だ。
誘われれば、してしまう。
大学で出会った。
椎名 苺は、セックス中毒の女だった。
はじめてみたときは、まったく、セックス中毒だとは思えなかった。
普通の、美人で、かわいい、綺麗な女の子だと、思った、モテそうな、魅力的な女の子だった。
彼女が、心に深い闇を抱えていて、男にされていないと、どうしようもなくなる、セックス中毒者だっただなんて知らなかった。
僕は、彼女と、付き合った。
付き合い始めて、彼女の家に遊びに行くことがあった、家に遊びに行くと、彼女はいきなり脱ぐ出して、身体を触ってきた。
目が死んでいた。
明らかにいつもと様子が違った。
彼女は、どこかおかしいと気が付いた。
大学で、彼女が、複数人の男に絡まれているのをみかけた。
彼女は、セックスに誘われていた。
目が死んでいる。
「やろうよお。」
一人の金髪の男がいった。
女は、笑顔で、目は死んでいるが、口は笑顔でいった。
「いいですよお、何回もやったことありますし、いろんな人と。」
といった。
どうして、なのだろうと、思った。
数日後、女は、やせ細って、気力が抜け落ちていた。
心配に思い、話掛けた。
女の家に遊びに行くことになった。
遊びに行くと、女の家の中は、獣の匂いがした。
女の部屋のベッドには、40代くらいの男が寝ていた。
女は男に、金を渡した。
金を渡してまで、20以上も歳の離れた男とするだろうか。
明らかにおかしい。
女は、病気だった。
明らかに病気だった。
「やめなよ。あんな男とするのは。」
女は、言った。
「どうして、優しい人だよ。」
20代前半の女から、金をもらって家に泊まり、する、男が優しい男なはずがなかった。
「自分を大事にしない女はバカだ。お前のことが僕は心底嫌いだ。」
女は、嬉しそうにしていた。
「はじめて、人に嫌いっていってもらえた。ふふふ。うれしーなー。」
もう、あたまがおかしくなってしまっているのだ。
一周回って、嫌われるくらいが、苺という女にとっては、心地よかったのだ。
一か月ほど、苺と話したり、時間を過ごしてわかったことがある。
苺という女は、自分という人間に心底、絶望していて、自分に価値などないと思い込んでいるようであった。
あれだけ、かわいくて、みためがよくて、勉強まで、できるというのに、苺は、自分をゴミ以下の存在だと、信じ込んでいた。
男にレイプされて、ひどい扱いを受けて、頭が、自分の存在価値を受け入れなくなっていた。
男とセックスすることで、しか、自分は、存在できない。
男とセックスすることが、自分を肯定してくれる唯一のものだと信じ込んでいた。
刷り込みされていたのだ。
何回も、何回も、男たちに刷り込みをされていたのだ。
僕は、怒った、心底、怒った、怒りが込み上げてきた、自分の能力や才能を、価値がないものと信じ込まされ、いいように、男にされることが、自分の唯一の価値だと信じ込んでいる、苺のことが許せなかった。
腹が立った。かわいそうだ、というよりも、バカな女だ。一生幸せになんかなれない、かわいそうで、バカな女だと、イライラした。
僕は彼女を、スターにしたいと思った、彼女が羽ばたいてほしいと思った。
率直な気持ちを伝えよう、彼女に大事な話があると、いって、海辺に誘った。
「なあ。苺、御前、どうして、生きてんだ。生きてて楽しいかあ。」
僕は唐突に話出した。
苺は、黙った。
「・・・。」
「御前、自分の感情を表に出すのが怖いんだろ。裸になって、セックスをすることでしか、もう、生きていけなくなっているんだろ。」
「・・・。」
どうして、怒らないのであろうか。
普通だったら、怒るところでも、苺はけっして怒らない。
苺がおこるところをみたことがない。
ずっと、笑っているだけだ。
何かから脅えているかのようにして、笑っているだけだ。
「御前、もう、セックスなんて、やめちまえよ。すぐに、男の前で裸になるのも、ベタベタくっつくのも、やめちまえよ。気持ち悪いんだよ。お前。」
「・・・。私のことを捨てる気なの。ねえ。」
苺は泣きだした。
こわいのだ。
捨てられるのが、だから、男に金を出して、男が自分から離れられないようにしているのだ。
「御前は、芸能人にだって、モデルにだって、なれるだけの、容姿がある、勉強を頑張って大学院だって卒業できる頭がある。」
「ないよ。そんなの。」
女は、自分の容姿のよさにも、頭のよさにも、気づいていないのだ。
ただ、自分が無価値で、ごみくそで、意味のない人間だと思っているのだ。
「御前、写真を撮るのが好きなのな。なんなんだ、あの、風景写真は、いいじゃないか、夕焼けが綺麗な写真だった、青い綺麗な空の写真、何気ない日常の写真。いいじゃないか。」
苺は、はじめて、感情をあらわにした。
顔を真っ赤にして、怒った。
「みたの。引き出しに隠してあった、誰にも見られちゃいけない、写真をみたの。」
殺されそうな勢いで怒った。
僕は、それがうれしかった。
「ああ、みたさ。針金で、ちょこちょこと、弄れば、すぐに開いたさ。」
「最悪、変態、死んじゃえ。」
苺は、憤っていた。
誰にもみられたくないものだったのだろう。
「御前、写真撮りにでもなればどうだ。いいじゃ、ないか。いい写真だった。」
「無理だよ。私なんか、ゴミ以下なんだから。」
苺は、自分に自信がない。
苺は、自分をゴミ以下だと信じ込んでいる。
「写真をみられたのは、真一がはじめてだよ。内緒だからね。」
「ああ。」
でも、きっと、苺は、まだ、なおっていない。
「苺、おまえはさあ、セックスでしか、人に振り向いてもらえない、興味を持ってもらえない、独りぼっちになってしまうと、思っているかもしれないけれど、僕は、御前から絶対に離れたりしないんだぜ、御前、人をもっと恨んでいいんだぜ。」
苺は、本心を表に出さない。
絶対に出さない。
だから、笑顔の裏にある闇に、誰も触れてこなかった。
「御前、セックスされた男のこと、恨んでいいんだぜ。優しい人だとかいうなよ。本当の気持ちを言ったっていいんだぜ。」
「・・・。」
「紙に、書いてみろよ、自分の本当の気持ちをよ、殴り書きでもいいからさ。女の子は男のことを、嫌悪する生き物なんだぜ、警戒する生き物なんだぜ。あの男が気持ち悪いだとか、死ねばいいだとか、思ってもいいんだぜ。大事なことだ。」
「・・・。」
苺は、僕にさえ、心を開いてくれない。誰にも開いてくれない。
苺の両親のこと、家族のこと、僕は何も知らない。
僕は苺のことが好きなわけではない。
ただ、放っておけなかったのだ。
「なあ、苺、御前、セックス禁止な、代わりに、別のやりたいことをやってくれよ。僕は応援するからさ。」
僕は、苺は、真っ当に頑張るところが見たかった、羽ばたくところがみたい。
「苺、引っ越そう。この町にいちゃだめだ。腐っていくだけだ。周りの人間はお前が、セックス中毒の女だと思って話しかけてくる、別の場所で、やり直すべきだ。」
「・・・。いやだよ。こわいし。むり。」
一筋縄ではいかなさそうだ。
「一緒に暮らしてやるよ。僕が働いて、御前を養ってやる。もう、セックスなんてしなくていいんだ。来年また引っ越し先の近くの大学にでも通えばいいだろ。」
僕は何をいっているんだろうか。
まるで、プロポーズじゃないか。
「え。私をもらってくれるの。」
「違うよ、少しの間だけさ。君が、何かをみつけて、変われるときまでさ。」
「・・・、変われるとき。私、コワいの。」
一人の女の子の人生を僕は変えようとしている、いいことなのか、悪いことなのか、僕にはわからない。
三年次編入で、僕は、引っ越し先の大学の夜間制に通おうと思った。
「・・・。」
なんとか、苺を引っ越しさせることに成功した。
苺は、一言も口を開かず、とぼとぼと、まるで、捨て犬のように、僕の後をついて回った。
幼稚園や保育所の子供のようについて回った。
悲しいことだが、苺は、自分の意志を口に出すことができなかった。
されるがまま、やられるがまま。
苺は、自分を外にだすことができなかったのだ。
相変わらず、苺は無口だ。
なるべく、距離をとるようにしている。
苺は、不安そうに、目を殺して、裸になって、ベタベタくっついてきたり、してしまうからだ、治さなくてはならないことの一つだ。
僕たちは、必ず3メートル以上の距離を取って過ごすことにしている。
ある日、苺の部屋に入ったときに驚いたことがあった。
机に置かれた大きな紙一面に、恨みや、憎しみの感情が書かれたいた時だ。
あの苺が、別の誰かのことを悪くいっていることがうれしかった。
中には、僕に対する、苦言も書いてあった。
バカみたいなお人よしで、しつこくて、キモイから嫌い。
と書かれていた。
僕は、飛び跳ねて喜んだ。
いつか、苺が、口で、意思が伝えられるようになれれば、と思った。
写真を撮りに行くときは、僕もついていっていた。
最初のころは、不安だった。
大丈夫だろうか、悪い男や女にいいように使われてまた、逆戻りしないだろうか、と不安だった。
けれど、最近は、もう、だいぶ、よくなった。
随分といい顔をするようになった。
彼女は、詩を書いたり、歌を歌ったりするようにもなった。
彼女の鼻歌が部屋に響くのが、心地よかった。
少しづつ、他の人とも会話ができるようになった。
「私、美術大学で、写真の勉強がしたいの。」
苺は言った。
自分の意志でいった。
僕はニッコリ笑って、喜びの涙目で言った。
「いいんじゃない。いいと思うよ。」
彼女もまた笑った。
目もちゃんと笑っていた。
数年後彼女は、世界的に有名な、写真家、動画クリエイターになって、活躍して、名作を残し、67歳で死にました。