書籍感想「お探しものは図書室まで」

最近読んだ書籍、今回は青山美智子さんの小説「お探しものは図書室まで」の感想を綴っていこうと思います。


概要

本作は働き方生き方に悩む5人の登場人物が、区民センター(作中では「コミュニティーハウス」と呼ばれる)に併設されている図書室にいる不思議な雰囲気を持つ司書に勧められた1冊の本を読むことで、悩みを解消していく物語となっています。

勧められる本も悩みを直接解決する本、例えば「子育てに悩んでいるならば、育児書」のようなものでは無く、全く異なるジャンルの本となっています。
登場人物たちは訝しく思いながらも、それらの本を読むことで、一度立ち止まりながらも考え、その結果に答えを見付けます。

彼らは答えをもらうのではなく、答えまでの道筋を示してもらっているというところですね。

本作の面白いところ

本作に出てくる本は実在する書籍となっています。
一部の書籍(Excelに関する書籍など)は非実在の書籍ですが、登場人物たちが深く読んでいく書籍はすべて実在します。
一人の登場人物はマンガが好きなのですが、彼の好きなマンガとして挙げられる作品も実在のものとなっています。
オムニバス形式となっており、下記のような組み合わせとなっています

  1. 朋香 二十一歳 婦人服販売員:「ぐりとぐら
    探していた本:Excelに関する本

  2. 諒 三十五歳 家具メーカー経理部:「英国王立園芸協会とたのしむ 植物の不思議
    探していた本:退職、起業に関する本

  3. 夏美 四十歳 元雑誌編集者:「月のとびら
    探していた本:子供におすすめの絵本

  4. 浩弥 三十歳 ニート:「ビジュアル 進化の記録 ダーウィンたちの見た世界
    探していた本:特になし(強いて言えばマンガ)

  5. 正雄 六十五歳 定年退職:「げんげと蛙
    探していた本:囲碁に関する本

ちなみに、四章の浩弥には下記のマンガのタイトルが出てきます。

  • 藤子不二雄「ドラえもん」「21エモン」

  • 高橋留美子「らんま1/2」「うる星やつら」「めぞん一刻」「人魚シリーズ」

  • 楳図かずお「漂流教室」

  • 浦沢直樹「MASTERキートン」

  • 山岸凉子「日出処の天子」

  • 手塚治虫「火の鳥」

  • 武論尊・原哲夫「北斗の拳」

ちなみに浩弥と司書の「高橋留美子作品はどれも良いけど『人魚シリーズ』が好き」というのは私も同意見です。
著者は分かっているな」と少し上から目線になりますが思いました。

不思議な司書

本作の軸となる図書室の司書、小町さゆりのキャラクターがなかなかおもしろいです。

白で統一されたファッションであり、なおかつ巨体の女性。
あるものは「冬ごもりしている白熊」、あるものは「『ゴーストバスターズ』のマシュマロマン」、あるものは「ディズニーアニメの『ベイマックス』」、あるものは「『らんま1/2』のパンダになった時の早乙女玄馬」、あるものは「巨大な鏡餅」と表現されています。
私の中では「物静かな白い服を着たマツコ・デラックス」をイメージしています。

その巨体に見合わず、カンファレンスコーナーでは羊毛フェルトを作っており、本を探しに来た人に作った羊毛フェルトを「付録」として進呈します。
この付録も登場人物たちの今後の考えの指針となっています。

登場人物の描写

個人的には各章の登場人物の描き方も上手いなと思っています。
前述の通り、各章の登場人物が小町さゆりを見た時に想像するものを年齢や性別、職業によって書き分けています。
また、羊毛フェルトについても「羊毛フェルトを知っている」、「羊毛フェルトを見たことがあるが、作り方は知らない」、「そもそも羊毛フェルトを知らない」というように登場人物ごとに書き分けています。

各章の登場人物(というか主人公)を結構掘り下げてキャラクター設定しているのがよく分かる作品だと思いました。

本作を読んでの感想

上記でも面白いこととしていくらか感想を述べていますが、個人的に刺さったところを述べていきます。

生き方、働き方について

現在、休職中かつ転職やキャリアチェンジも考えている身としてはいくつもの発見がありました。
自分を大切にすること、分かった気になるのではなく真摯に仕事に向き合うこと、前に進む際の視点の変更、人との関わり方など、私自身も身につまされる内容が多々ありました。

各章のリンク

各章が一つの図書室を起点にゆるくリンクしているのも一つの見所でした。
読み進めるうちに「あれ、この人って前の章のこの人?」のような発見がいくつもあり、もう一度読み返したくなるような工夫が凝らされていました。

まとめ

私も最近よく図書館を利用しているので、少し身近に感じた作品でした。
また、私にとっての「さがしもの」がこの本だったのかもな、とも思えるタイミングだったため、非常に印象に残る作品でした。

少し時間を空けて再読したい一冊です。

ぜひご興味をお持ちになられましたら、図書館または書店でお探しを。

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