
「生きがい」と予防医療の関連
健康診断の日程が毎年決まっているわけではなく,「行くことができるタイミングで人間ドックに行ってください」と言われるものですから,ついつい先延ばしをしてしまいます。予防医療が大切だということも,十分理解しているのですが,検診で何かが見つかりたくない,という気持ちも先延ばしに拍車をかけてしまいます。
予防医療サービス
アクセスをよくする努力は行われているにもかかわらず,予防医療サービスが十分に利用されていないケースは,世界的にもよく見られるようです。
ドイツの2014年の調査では,40歳以上の人々のうち定期的に癌検診や定期健康診断を受けていたのは,3分の2にすぎなかったそうです。また,新型コロナウイルス感染症のパンデミック期間中では,60歳以上の人々のうち約3分の2から半数が,インフルエンザワクチンの予防接種を受けていなかったという報告もあるようです。
予防医療利用の要因
予防医療を決定する要因には,どのようなものがあるのでしょうか。
性別や教育水準,宗教など,社会人口統計学的変数については,いくつか特定されているそうです。それに比べると,心理的な要因については解明が遅れています。
その中でも,今回紹介する論文では「生きがい」に注目しています。
生きがい
生きがいは,人生の目的や存在意義を表現する言葉です。「日本語」なのですが,論文の中でも「日本語の概念である」と書かれていました。生きがいについての本が海外で出版されて,「ikigai」という単語が広がっているようです。
生きがいの背景には,人生の置ける意味,充実感,バランスを見出すことを重要視する考え方があるとされます。個人が好きなこと,特異なこと,世の中で必要とされること,対価としての報酬などから,その人だけの存在意義を見出し,幸福を感じること,と書かれています。似た概念に,人生の目的や人生の意味というものがあります。これらに比べると,生きがいは情熱,天職,職業,使命というところに焦点を当てたものだそうです(あらためて「生きがい」という概念を説明すると,こうなるようです)。
高齢期に関して言うと,人生における目的意識の高さや人生の意義は,地域の予防医療サービスの充実度に関連するという研究があるようです。しかし,「生きがい」そのものについては検討されているわけではありません。
予防医療との関連
実際に,生きがいと癌検診,インフルエンザワクチン接種,定期健康診断といった予防医療との関連を検討した研究を見ていきましょう。これはドイツで行われた研究なのですが,なぜか日本語由来の概念である「生きがい(ikigai)」が使われているという,ちょっとその点で目を引く論文です。
では,こちらの論文を見てみましょう(Ikigai and use of preventive healthcare services in Germany)。
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