ひとつの性格を考えることの意義はどこにあるのか
「性格は1因子」というと,「え?」と驚く人がいるかもしれません。知能については,「一般知能(g)」という考え方が昔からあって,さまざまな認知能力を測定するテストを多くの人に実施して統計的に分析すると,1つの統合的な因子にまとまることが知られています。
学力も,1つの因子になるというイメージがあるのではないでしょうか。国語,数学,英語,理科,社会の各教科のテストを多くの人に実施してデータを分析すると,全体としては「学力」という1つのまとまりになる傾向があります。そうじゃないと,合計得点を算出する意味がありません。全体的にまとまるから,合計得点(総合点)を算出できるのです。
では,性格(パーソナリティ)についてはどうなのでしょうか。どのパーソナリティ特性も,統計的に分析すると1つにまとまる,といったことが起きるものなのでしょうか。
GFP
実は,「性格は1つになる」と主張している研究者たちがいます。それをGFP(General Factor of Personality)といいます。
では,GFPにはどんな意義があるのでしょうか。その意義を論じた論文があるので,見てみましょうか。こちらの論文です(Is there a Meaningful General Factor of Personality?)。
望ましさなのか
ひとつの観点は,GFPが社会的望ましさを反映しているのか,どれとも何らかの実質的な意味があるのかです。社会的望ましさが反映するというのは,GFPが質問紙に回答するときの人々の構えのようなものを反映しているのであって,いわば「歪み」のようなものだという考え方です。
その一方で,GFPは歪みのようなものと言うよりは,実質的に意味のあるまとまりだという考え方もあります。
現実の予測
この点を明らかにするためには,GFPが実生活上の結果を予測することができるという証拠を示すことが,ひとつの解決策です。そして,これまでに多くの研究が行われてきました。
◎上司が評価する仕事上のパフォーマンスを予測
◎非行行為の予測
◎リーダーシップを示す傾向を予測
◎社会的地位の高さを予測
GFPは,こういった社会的な結果を予測することが示されているそうです。
GFPは何を反映するのか
GFPはどのような心理的な傾向を反映するのでしょうか。
社会的有効性とでも訳せばいいのでしょうか……日本語はちょっとよくわからないのですが,social effectivenessが,GFPに関連すると言われているそうです。社会的にうまく機能することにGFPが関連するということです。
また,情動知能(emotional intelligence……一般的にはEQとも言われることがあります)も,GFPに関連するとされているようです。情動知能は,社会生活の中で効果的に感情を使用する能力を表します。情動知能の高さは,安定した感情をもち,社会的な交流の中で相手の状況をよく理解し,円滑な人間関係を営むことにもつながります。そして,ビッグ・ファイブ・パーソナリティでも勤勉性や協調性,開放性の高さにも関連することから,GFPの高さにも関連するということになります。
バイアスなのか
GFPが性格検査に回答するときのバイアスなのかどうかという点は,大きな問題のひとつです。ということは,質問項目の中の社会的望ましさの要素を減少させていくとGFPのまとまりが見られなくなるという可能性が考えられます。実際に,このような措置をするとGFPのまとまりは小さくなるようです。しかし,GFPがなくなってしまうというわけではないようです。
さらに,回答の歳のバイアスを小さくしても,現実社会の仕事のパフォーマンスとGFPとの関連が小さくなるわけではなく,むしろ強まるという報告もあるそうです。メタ分析を行った研究によると,外向性と職業パフォーマンスとの間にはプラスの関連を示しますが,GFPの要素をコントロールすると,その関連は見られなくなってしまうということです。ということは,これは外向性と職業との関連の一部は,GFPが関与している可能性があるとも考えられる結果になります。
役立つのか
こういう研究もあります。
ボリビアの文字をもたないアマゾンの民族(Tsimane族)にビッグ・ファイブ・パーソナリティの調査を行ったデータを分析すると,GFPがやはり見られるという結果が得られています。そして,GFPが高い男性は,子孫を残しやすい傾向があるそうです。
GFPが社会的に望ましい行動をする傾向に関連するのであれば,このような結果が得られことは納得できます。そして,GFPが社会的地位や社会的な資源の獲得,精神的な病理傾向の少なさなどに関連するという研究知見が蓄積していますので,今後さらに良好な適応状態をもたらすパーソナリティとしてのGFPが注目されていくかもしれません。
もっとも,GFPはいつになっても風当たりの強い,否定的な研究者がいなくなることのない概念ではありますけどね......。今でも,ずいぶん昔に海外の学会で喧々轟々と議論していたセッションに出て驚いた時の様子が思い浮かびます。
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