医師と患者のコミュニケーション
今回はこの本を紹介したいと思います。
ダニエル・オーフリ著『患者の話は医師にどう聞こえるのか:診察室のすれちがいを科学する』(みすず書房)です。
ベルビュー病院
著者はニューヨークにあるベルビュー病院に勤務する内科医です。ベルビュー病院は,アメリカの最も古い公立病院のひとつで,1824年に病院名が名づけられたそうです。
心理学でもベルビュー病院の名前はよく耳にすることがあります。たとえば,WAISやWISCといった知能検査を開発したウェクスラーは,このベルビュー病院に勤めていました。
患者は話を聞いてほしい
優れた医師というのは,患者の生存率を高めてくれる医師のことだと思うのですが,医療現場では優れた医師が必ずしも患者の満足度を高めるとも限らないようです。
人は総じて,基本的な能力をそなえた,だがなによりも話を聞いてくれる医師を求めているのだ。
「話を聞く」というのは当然のことのように思うかもしれません。でも,なかなか難しいことでもあります。
話の腰を折る
病院にやって来る患者さんたちには,話すべきストーリーがあります。一方で,医師は何が問題なのかを見定めようとします。すると,どこが問題なのかを定めようとして,だらだらと長々続く患者の話を遮ろうとしてしまう……というのはよくあることだということが本の中に書かれています。
この「話の腰を折られる」ことが,患者にとっては大きな問題で,満足度にも大きく関係することではないでしょうか。
患者は何分話をするのか
本の中に,「もし医師が一言も発しないとしたら,患者は実際にどのくらいの時間,話しつづけるのだろうか?」という疑問が書かれていました。
みなさんは「何分くらい」だと思いますか?
スイスで実際に研究がおこなわれたそうです。よくある最初の質問(たとえば「今日は何でお困りですか?」)に,患者が話を完全にやめるか,発言を求められるまで一言もしゃべらないようにして,335名の患者の診察が分析されています。
結果は,平均92秒だったそうです。
著者によると,医師の多くは「放っておくと患者は際限なく話しつづけて,診療時間が終わってしまう」と考えているそうなのですが,予想以上に患者の独白時間は短いということが分かりました。予想よりも時間が短いことは,著者自身も確認したそうです。
銀行預金スキル
こういった内容は,医師養成の教育の中でも応用されていくべきですよね。著者は本の中で,次のように書いています。私自身も,いつお世話になるかもしれないお医者さんです。患者としての不安や心配を少しでも軽くしてくれるお医者さんに巡り会えるといいなと思いました。
医学生やインターンにこの種のアプローチについて話すときは,こうしたスキルを「銀行預金」スキルと呼んでいる。時間の浪費に思えるかもしれないし,最初は実際そうなる可能性が高いのだが,効率的な医療という形で継続して利息が支払われる,必要不可欠な投資だ。このスキルのおかげで,より一層「有能な」医師になれる。短時間のうちに問題の核心にたどりつける可能性が高いからだ。最終的に,自分も患者も,エンドレスな堂々めぐりの繰り返しや,不要な検査や,たび重なる診察や,相手へのいらいらから解放される。数分のうちに成果が得られる場合もあり,それが何年も続くかもしれないのだ。
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