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年齢を重ねると賢くなるのか

「頭の良さ」とは何でしょうか。

知能検査は「頭の良さ」だと思いますか?では学力試験はどうでしょう。それも「頭の良さ」だと思うでしょうか。では,たくさん物事を記憶できることは頭の良さでしょうか。制限時間に多くの計算ができることは?問題に素早く答えることができることはどうでしょうか。

このように考えてみると,一口に「頭の良さ」と言ったとしても,その中身はけっこう色々なものが想定されているように思います。

賢さ

頭の良さと似た言葉に「賢さ」という言葉もあります。「賢い」と言われると,また「頭が良い」という表現とは違う内容を思い浮かべそうです。

「ずる賢い」という言い方もあるように,ルールの裏をかいくぐって物事を解決に導いたり,他の人が考えないようなことを思いつくこともそこには含まれそうです。

また「思慮深い」という表現はどうでしょう。もっと落ち着いて,知恵を使って問題を解決しそうなイメージになるのではないでしょうか。

英単語の場合

英語の場合にも,いくつかの表現があります。

intelligentは,知性や賢さ全般を指す,いちばん包括的な表現のようです。

cleverは,頭の回転が速くすぐに答えを出すような人や,ずる賢いという意味でも使われるようです。

smartは,頭が良いという意味でも使われますが,ちょっと洗練された言動を指したり,そこから格好をつけていて生意気な様子を指したりすることもあるようです。

wiseは,いわゆる賢さという表現に近いかもしれません。知識があって,その知識に裏打ちされた分別のある答えを導くようなイメージです。そしてこの単語からできているwisdomは,知恵や分別,賢明さを表す単語です。

知能検査の結果は年齢とともに

成人期を過ぎ,老年期に入るとどうしても知能検査で測定するような知能の側面は低下していきます。

そういった側面は,運動で言えば短距離走や筋力の測定のようなものです。どれだけ素早く答えることができるかということが求められます。限られたヒントからできるだけ素早く正確に答えを出すことや,妨害がある中で作業に集中したり,一時的に何かを覚えて再生したり,そういった側面です。

でも,知性というのはそういった側面しかないのでしょうか。年齢を重ねることでより適切な判断ができるようになる,という事例は少なくとも私自身もよく目にするものです。皆さんはいかがでしょうか。

年齢を重ねることと知恵

年齢を重ねることの知恵とはどういうものかを検討している研究があります。この論文(Reasoning about social conflicts improves into old age)です。

著者たちは,知恵(wisdom)に6つの側面があると言っています。
(1) ひとつの見方から問題に巻き込まれた人の見方に移行すること
(2) 変化の可能性に気づくこと
(3) 複数の可能性を考える,予測の柔軟性
(4) 知識の不確かさや限界に気づくこと
(5)問題の解決策を探すこと
(6)妥協点を探すこと

こういう知恵や賢さというものは,「老獪さ」といってもいいようなものですよね。三国志や戦国時代の軍師の戦略にも通じそうです。

こういった知恵を働かせる様子を測定するために,この研究では具体的な問題を提示して,どのように考えるべきかを答えさせています。たとえば……

タジキスタンの経済発展によって,キルギスタンから多くの人々が移民としてやってきた。キルギスの人々は自分たちの習慣を守ろうとしているが,タジキスタンの人々はキルギスの人々に,彼らの習慣をやめてタジキスタンの生活に完全にどうかするように求めている。

皆さんなら,この事例の場合に,このあとどういったことが起きると思いますか?また,その理由についてはどう考えるでしょうか。

この研究では,同じような問題をいくつか用意し,口頭で回答してもらっています。そして,先ほどの6つの「知恵」の観点から,回答を得点化しています。皆さんの回答には,さきほどの「知恵」がどれくらい反映しているでしょうか。

知恵に欠ける回答

ちなみに……いちばん「知恵」が反映していない回答の例は,次のようなものなのだそうです。

私は,それぞれの文化はそれぞれ独自の習慣を保つだろうと思います。ある地域に住んでいた人が,新しい地域に移動したからといって変わる可能性は高くないと思います。人というものは自分たちの本質にかなり忠実であり,それほど大きく変化しないので,彼らが自分たちの文化を変えるのは簡単なことではないと思います。

互いに歩み寄ったり,変化が生じたりするような可能性をまったく考慮せず,複数の可能性を無視し,妥協しようとしない,そのような回答がこの場合にはもっとも「得点が低い」と判断されるというわけです。

知恵のある回答が増える

さて,このような調査方法でさまざまな年代の成人に調査を行っています。

すると,全体として,20代から30代よりも40代から50代,それよりも60代以降のほうが,全体的な「知恵のある回答」が増える傾向が見られました。

このことは,明確な回答がないような複雑な問題や,対立点が多くすぐに解決しないような問題を扱う場合には,若年者よりも年長者のほうがより多様な観点を考慮した判断ができる可能性を示しています。

高齢者になると,明らかに知的な処理スピードである流動性知能の能力は低下します。その一方で,高齢者を適材適所に配置することで,よりうまく社会の問題を解決していくことができるのかもしれません。

ただし……日本人の場合,そもそも若い年齢でも結構,総合的な判断ができるかもしれないという研究知見もあるようで……。日本では高齢者がどのような問題解決に向いているのかについては,研究をしていく必要があるのだろうと思います。

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