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専門は何ですか?

昔から聞かれるたびに困っていた質問のひとつが,「専門は何ですか?」というものです。

「心理学です」と答えて終わることができればまだ良いのですが,「心理学の中でどういう領域が専門なのですか?」という質問に答えようと思うと,「うーん」と考え込んでしまい,とても難しかったのです。

それは正直,自分でもよくわからなかったのですよね……。


研究生活のスタート

卒論で自己愛的パーソナリティの研究を始めました。大学4年になり,卒論のテーマを決めなければいけません。毎日図書館に籠もって,心理学の雑誌をぱらぱらとめくりながら,面白そうなテーマを探していました。

やはり自分に興味がありそうなキーワードというのは,「自己」「自尊心」「自己評価」「青年期」「友人関係」「自我同一性」といったところで,このあたりのキーワードを拾いながら,書棚にある海外の雑誌と国内の雑誌を行き来しながら論文を集めていきます。テレビ番組をザッピングするような感覚です。

すると,当時海外の雑誌ではよく見かけるのに日本の雑誌でほとんど見ないテーマがあることに気づきました。それが,自己愛的パーソナリティの研究だったのです。

青年心理学

自己愛的パーソナリティの研究は,海外ではまさにパーソナリティ心理学の領域での研究だったのですが,国内では臨床心理学,精神分析学,そしてその中に,思春期発達の文脈があるというような状況でした。

そこで何となくそれらに合わせるような形で,青年心理学としての自己愛傾向の研究へと進んでいきました。大学院が教育学研究科でしたし,青年期の先生もいましたので,あまり違和感なく「それでいいだろう」と思っていた感じです。

発達心理学

最初の就職は発達心理学を教えるポストでした。ですから,「発達心理学の教員です」という肩書きを名乗ることになります。

でも自分ではあまり発達心理学を研究しているという感覚はなく,授業はしていますし勉強は一応するのですが,自分が興味をもつ研究内容とは少しズレているように思っていたのも確かです。

思いつくままの研究内容

ということで,研究の内容そのものは,発達心理学という枠組みにとらわれることなく,思いつくまま,興味を抱くままに進めていきました。

一時期は,これから何の研究をしようかと悩んだ時期もあります。一応は,継続していた研究課題はあるのですが,いまひとつしっくりこないといいますか,内発的動機づけが喚起されない状態が続いていたりもしました。

今思えば,その答えは簡単で,明らかに「勉強不足」だったのです。

研究の知識やその周辺の知識を身につけることを継続していれば,興味・関心の幅も広がり,「やってみたい」と思うことがどんどんストックされていきます。就職した後,しばらくの期間は,そのサイクルがうまくいっていなかったのだと思います。

今は「やってみたいことはあるけれど時間も身体も足りない」と思うことはあっても,「何をしたらいいのかわからない」と思うことは少なくなりました。

パーソナリティ心理学

あるとき,「このテーマならしばらく研究が続くかもしれない」という,しっくりくるものを見つけました。そのために,本や論文を読んだり,授業の中で話をしてみて学生からのコメントシートを見たり,試しに何かをしてみたりと,色々なことをしました。

そして本格的な転換点は,海外の学会に参加するようになったことです。実際には,海外の学会に参加せざるを得ない立場になったのですが……その経緯は,次の本『日本パーソナリティ心理学会20年史』に書いています。

いずれにしてもそれは,結果的に自分にとってはとてもよい転機でした。

そこから,色々なことが良い方向へと流れていくようになったように思います。

海外の研究者との人脈も増え,いろいろな研究のおおまかな流れや方向性が見えるようになり,そこからもさらに刺激を受け,やってみたいなと思う研究も増えて,研究を継続させることができるようになっていったように思います。

そして,知識が増えるとそれらがお互いに結びついていきます。すると「これはあそこで見た内容だ」とか「この例はこんなところでも使われている」とか「この話はこっちの話と同じ構造になっている」といったように,ものごとの理解のしかたも変わっていきます。

専門は…

こういった紆余曲折を経て,今では「専門はパーソナリティ心理学や発達心理学です」と言っても,あながちそれほど間違いではない状況になってきました。

それでも,自分の関心を優先させるように研究の内容は選んではいるのですが。

ある意味で研究者としてのこうした紆余曲折も,アイデンティティ達成の発達過程によく似ているのではないかと思っています。

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