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自分を大切にすべきか他者を大切にすべきか
私たちは,自分を大切にすることを重視すべきなのでしょうか,それとも他者を大切にするべきなのでしょうか。これはなかなか結論を出すことができない,難しい問題です。もちろん,両方が満たされることが重要なのでしょうけれども……。
向社会的行動
これまでにも,他者を重視して大切にする行動が幸福に関連するのかという問題は検討されてきました。助け合うことや他者をサポートするなど,他者に利益をもたらす行動のことを向社会的行動(prosocial behavior)といいます。向社会的行動とウェルビーイングとの間のメタ分析も行われていますが,予想どおり,向社会的行動はウェルビーイングを高める方向に関連することが報告されています。
向社会的行動は,自律的な行動であり,他者に影響を及ぼすという点で有能感の感覚にもつながり,心理的欲求の充足にもつながることから,ウェルビーイングや幸福を高める要素になりえると考えられます。
不公正
しかし,世の中に不公正がはびこっていたらどうでしょうか。警察や政府が利己的で私利私欲に基づいて動いており,国民の利益を無視していたとしたらどうでしょう。また,社会的にも不平等が大きくなっており,不公平感を抱くような社会であったら,「他者を助けよう」という行動が必ずしも幸福につながらないと予想するのではないでしょうか。
そこで,大規模な調査データを用いて,国の中の不公正と他者を助けようとすること(対,自己を優先すること)が,幸福にどのようにつながるのかを検討したらどうなるでしょう。どのような結果が見られるのでしょうか。では,こちらの論文を見てみましょう(Does the association between self-focus and life satisfaction depend on the levels of perceived societal injustice?)。
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