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入試の面接ではどの特技をもつ受験生を選ぶのが正解ですか

先日,twitterで次のような質問をしてみました。

「あなたは大学入試の面接官です。合格枠はあと1名で候補者が3人います。3名の学力試験の成績は同じで、面接で1名を選ばなければいけません。あなたなら次のうちどの経歴の受験生を選びますか?」
1. バイオリンのコンクール日本一
2. e-sportsのゲーム競技日本代表
3.インスタのフォロワー数10万人
4. くじ引きにする

あなたなら誰を選びますか?選んだら,その理由も考えてみるとよいと思います。


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さて,結果はどうなったでしょうか。

次の通りです。

目次

・くじ引きというわけにはいかない
・アドミッションポリシー
・面接官は何を考えるか
・ハロー効果
・誰が大学の名を高めるのか
・予測は不可能

くじ引きというわけにはいかない

面接で誰を選ぶかを,くじで選ぶのはなかなか難しいでしょう。「どうして選んだのですか?」と聞かれても,はっきりと理由を答えることができません。

面接官同士で口裏を合わせて,もう選べないからくじにしておこうか,ということはあるかも(?)しれません。良いのかどうかはわかりませんが。それでも何かの理由はつけておく必要性は出てくる可能性はあります。

実際には,面接官が一人ずつ得点をつけて面接後に感想を言うことになるのでしょう。自分が良いと思った受験生のどこが良かったのか,選ばなかった学生のどこが気になったのか

アドミッションポリシー

各大学にはアドミッションポリシーというものが掲げられており,それに従って入学者を選抜することになっています。

たとえば,早稲田大学文化構想学部のアドミッションポリシーは次の通りです。

アドミッションポリシー
早稲田大学では、「学問の独立」の教育理念のもとで、一定の高い基礎学力を持ち、かつ知的好奇心が旺盛で、本学の理念である進取の精神に富む、勉学意欲の高い学生を、わが国をはじめ世界から多数迎え入れる。文化構想学部が特に入学者に求める資質・能力は、次のとおりである。
・「文化の様相と構造を解明し、表象の分析と文芸の創造に取り組み、人間と社会の本質に迫ることによって、新しい時代にふさわしい文化を構想する」 「文化学の叡智を現代の課題で照らし、これまでの学問領域を大胆に乗り越えて、広領域的・学融合的アプローチを実践する」という学部の理念・目標を理解し、学位取得に積極的に取り組む意欲がある。
・文化構想学部の基礎から専門に亘るカリキュラムを理解して、入学後の修学に必要な基礎学力を有する。また入学以前に幅広い学習と経験を積んでいる。

学部の理念を理解して意欲があることと,十分な学力があることという2点が主な内容です。今回の例の場合,学力は同じですので,あとは学部の理念に一致するか,意欲があるか,といった内容を審査することになる……はずです。

面接官は何を考えるか

それぞれの受験生を推す面接官が,どういう意見を言うのかを想像してみます。

この受験生はバイオリンのコンクールで優勝しているのだから、我慢強く真面目で、きっと逸脱した行為をするようなことはないだろう。音楽は勉強にも通じるものがあると言うし,学業も期待できる。バイオリンはソロだけでなくアンサンブルもあるので協調性も期待できる。さらに入学後もコンクールで入賞してくれれば,大学の名を高めることにもなるだろう。

一人目の面接官はこんなことを言うかもしれません。
でも,e-sportsの日本代表を推す面接官も負けてはいません。

最近、海外ではe-sportsの人気がどんどん高まっている。この日本代表ということは,この受験生は海外でも有名になる可能性が高い。大学の名を高めるのはこの生徒なのではないか。また,ゲーム競技には集団競技もある。うまくチームワークを発揮して敵と戦うという点で,協調性やリーダーシップも期待できる。それに,ゲームの反射神経や戦略性は勉強にも関係してくるのではないか。

なるほど。たしかに,海外にも大学の名前が伝わるかもしれないというのは魅力的です。

さらにそこに,3人目の面接官が加わります。

インスタはまだまだ新興のメディアだが,そこでフォロワー数を10万人獲得するというのは並大抵のことではない。それは,この受験生やこの受験生が撮る写真が,よっぽど魅力的であることの証拠だろう。またフォロワー数獲得の戦略も練っているのではないか。写真技術や加工技術も高いだろうし,見る側の立場から想像する能力も高いと思われる。それに何と言っても,大学の様子が一気に10万人に伝わるというメリットを無視することはできない。メディアの特性から言って,ネガティブなことはあまり投稿しないと思われるので。

確かにフォロワー10万人を獲得し,それだけのフォロワーを維持する能力や努力について考えると,この学生を不合格にするのはもったいない気もします。

ハロー効果

一部の目立ちやすい特徴に基づいて,全体を判断してしまうことをハロー効果と言います。

面接官が自分が良いと思った受験生のことを語るときには,明らかにハロー効果が生じるものです。

学生の特徴は,バイオリンで全国コンクール入賞,e-sports日本代表,そしてインスタのフォロワー数10万人,という情報だけです。

そこから面接官の意見は「真面目」「学業への取り組み」「人間関係」「課題に取り組む時の工夫」などなど,どんどん元の情報とは関係のないことへと拡張していってしまいます。それは本来,無関係かもしれないのにです。

誰が大学の名を高めるのか

3人のうち誰が本当に大学の名を高めてくれるのかについても確実なことは言えません(そもそもこの観点は,アドミッションポリシーとは関係ないはずなのですが)。

「ゲームやインスタに力を入れる学生なんか,大学をドロップアウトしてしまうかもしれないじゃないか」などと言う人もいそうです。でも,もしかしたらそれでも,何かを成し遂げる人物がその大学に一時的に所属するだけで,その影響力は十分なのかもしれません。

早稲田大学第一文学部のWikipedia記事には主な出身者の一覧が掲載されています。そしてこの中には,結構な割合で中退者が含まれています。
でもこのリストを見れば,「この人が通ったキャンパスに通いたい!」と思う受験生が出てくるかもしれません。この大学に通うことで,社会的に高い地位の人物との共通点を手に入れることができるという,一種の栄光浴です。

大学の名声を高めてくれる存在というのは,必ずしも卒業生だけではないのです。

予測は不可能

では,そのような大学の名声を高めてくれるような特技や才能というのは,予測できるのでしょうか。

e-sportsやインスタグラムなら,その活躍ぶりもなんとなく予想できます。しかし,今は世の中でほとんど知られていなくて,20年後や30年後に世界中で知られるような特技の場合はどうでしょうか。

今から10年前に,e-sportsの才能について面接試験で検討することはあったでしょうか。

そういうことは,面接の担当者に判断できるような問題ではないと思います。

たとえ10年後に隆盛を迎える競技に現在取り組んでいて,その技術や成果をアピールしながら面接に臨んだとしても,その受験生はバイオリンやe-sportsやインスタのスキルのようには評価されないでしょう。「珍しいことしているね」と言われることはあっても,それら他の受験生を押しのけて合格することは考えにくいのです。

では,面接でできることは何があるのか……正直,そういう目的の下では,何もできることはありません。我々がやってしまうことは,我々が「価値があるだろう」と考える,そしてそれは素晴らしい才能を見逃してしまう可能性すらある,ステレオタイプに満ちた判断で人を選別することにすぎません。

予想外の人物を合格させるには,多様性の確保と運に賭けるしかないのです。ある程度の学力が保証されているのであれば,あとはあえて問わずに多様性の確保に努めることです。


これ以下は私が勝手に考えているだけの内容ですが……

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