共同研究を成功させるルール
心理学の分野では,この数十年の間に共同研究を行うことが当たり前になってきました。多くの研究者が複数の共同研究プロジェクトを並行しています。しかし,共同研究がうまく長期間続く場合もあれば,うまく成果が上がらずに終わってしまうこともあります。
イギリスの数学者ハーディとリトルウッドは,ふたりの共同研究という形で,数多くの重要な研究を成し遂げました。ふたりの共同研究は長期にわたったことから,次のように言われることもあったそうです。
「現在,3人の偉大なイギリス人数学者がいる。ハーディとリトルウッド,そしてハーディ=リトルウッドだ」
今回の話はこの本に書かれていた内容に基づいています。以前この本を読んだとき,とても魅力的な共同研究のルールだなと思って感心した覚えがあります。
ハーディ=リトルウッド・ルール
ハーディとリトルウッドは,共同研究をする上でいくつかの単純なルールを決めていたそうです。それは,次のようなものです。
(1) 互いに向けて書いたことは,正しかろうが間違っていようがかまわない。
(2) 相手から手紙が来ても,返事を書くどころか,読む義務もない。
(3) 相手と同じことを考えないようにすること。
(4) もめ事を避けるために,片方が全く貢献していなくても,論文はすべて連名で発表すること。
このルールをひとつずつ見ていきたいと思います。
互いに向けて書いたこと
最初のルールは,共同研究相手に向けて意見を言ったことは,正しかろうが間違っていようが関係ないというものです。
このルールは,自由な議論ができないような雰囲気,自由な発想ができないような関係性では,研究は制限されてしまうということを表しているのだと思います。
どのようなことも言い合うことができる中で,自由な発想が生まれていくということなのでしょう。
返事を出す義務はない
ふたつめのルールは,相手の連絡に無理をして返事を出す必要はないというものです。
手紙という言葉が使われていますが,今ならメールでのやり取りやネット上での作業システムでのやりとりがこれに相当するのでしょう。たとえばGoogleドキュメントで共同研究者と論文ファイルをシェアすれば,リアルタイムで論文が書かれていく様子がわかります。
たとえ相手から何か問い合わせがあったとしても,何かをまとめなければならないような雰囲気になったとしても,「しなければならない」という圧力は研究への動機づけを損なう原因になってしまうということでしょうか。研究活動は,内発的な動機づけで進められることが多く,そこで義務のようなことが起きれば,一気にやる気が失われてしまうことがあります(「あまのじゃく」なのかもしれませんが……)。
また共同研究とはいっても,ときには数年がかりで1本の論文を仕上げることもあります。なかなかうまく書くことができず,いたずらに時間が過ぎてしまうかもしれません。しかし,それを互いに待つ姿勢が大切ではないでしょうか。営利目的の作業ではありませんので,待っている間は別のプロジェクトに取り組んでいればよいのだと思います。
相手と同じことを考えない
3つめは,相手と同じことを考えないというルールです。
同じスキル,同じバックグラウンド,同じ思考をする研究者と共同研究をするメリットは,あまり大きいとは言えません。
共同研究は,「自分にはできないこと」を組み合わせることに意味があります。自分にはできない分析ができる,自分の知らない分野の知識がある,自分には書けない論文を書くことができる,そういった組み合わせをすることで研究の幅を広げていくことが,共同研究のひとつのメリットではないでしょうか。
論文はすべて連名で
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