遺伝的に優れた子どもを生みたい

「自分は背が低いので,背が高い人と結婚して,背が高い子どもがほしい」
「頭のよい人と結婚して,頭のよい子どもが欲しい」
「高い学歴の人と結婚して,勉強ができる子が欲しい」

たまにこういうことを考える人がいるようです。皆さんはどうでしょうか。

優生学

優生学というのは,「人類の遺伝的素質の低下を防ぎ,優秀または健全な素質を高めることを目的とする学問」とされるものを指します。多くの場合,社会に対する憂慮とセットになっていて,より良い人間を残していかなければいけない,いくべきだ,という社会的な実践ともセットになっています。

優生学というと学問の一種なのですが,優生学的な考え方のことを「優生思想」と呼ぶこともあります。

現代優生学

池田清彦著『「現代優生学」の脅威』も,最近出版された優生学についてまとめられた一冊です。

この本の中で「現代優生学」は,次のように書かれています。

現代優生学の特徴を一言で表せば「社会にとって有益でない人間の生存コストを,社会全体で担うべきではない」というものです。この考え方をもう一歩押し進めれば,「社会にとって無益な人間の遺伝子は残してはならない」「無益な人間は社会から隔離し,場合によっては生命を絶つべきだ」という価値観につながります。

『「現代優生学」の脅威』p.25

2種類の優生学

この本の中では,優生学にはふたつのものがあるとも書かれていました。「消極的優生学」と「積極的優生学」です。これらの言葉を聞いて,どんなイメージを抱くでしょうか。

消極的優生学

消極的優生学というのは,遺伝的に望ましくない状態の人びとの生殖(出産)を抑制しようとする考え方を指します。障害をもつ人を断種する,隔離する,そしてナチスのように虐殺する,といった考え方は,消極的優生学にあたるものになります。

優生学には,「消極的優生学」と「積極的優生学」の二種類があります。消極的優生学とは,「望ましくない形質または遺伝的欠陥を伝達しそうな人びとの生殖を規制しよう」という考え方です。ナチスによる障害者・ユダヤ人の虐殺や,日本でのハンセン病患者への隔離・断種政策は消極的優生学そのものでした。

『「現代優生学」の脅威』p.26

積極的優生学

一方で積極的優生学というのは,生まれる前の段階にアプローチをかけて,優秀な資質を備えた人びとが多くなるようにしよう,劣等な人びとが少なくなるようにしようと考えることを指します。

どうでしょうか。消極的優生学,積極的優生学という言葉を聞いたときのイメージと,合っていたでしょうか。

優秀な子どもがほしい

さて,冒頭に示した意見についてです。「自分は背が低いので,背が高い人と結婚して,背が高い子どもがほしい」という発言は,まず「背が高い」ということがなんらかの望ましい資質だという前提に基づいています。そして,生まれる前の段階から,遺伝的に優秀な資質を備えた子どもをもうけようと考えることです。

ということは,積極的優生学に相当する考え方になります。

おそらく誰も,自分の発言は優生学だとは思っていないことでしょう。あくまでも個人の考え方であり,社会全体で選別を行おうとするわけではないからです。しかし,以前の記事にも書いたことがありますが,ここから社会全体についての優生学的な考えに至るのは,ごく自然なことなのです。

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