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研究者のコピペと捏造

今回は,『研究者のコピペと捏造』という本を紹介したいと思います。

研究者なのにコピペ?捏造?と疑問に思う人がいるかもしれません。しかし,世界中で研究を行う際の問題が指摘されていて,何らかの問題から論文が撤回されるということもよく起きることです。

再現性の問題

心理学でも近年話題になるのが,再現性の問題です。心理学の実験結果のうち,他の研究者が同じ手続きで必ず結果が再現されるわけではありません。そして,研究の再現性を検討するプロジェクトも行われていて,そこで結果が再現された研究の比率は半分以下でした。

でも,複雑な現象をあつかう研究であるほど,研究を再現することはそもそも難しいのです。

 このように見てくると,これら再現性のない研究は捏造なのではないか,との印象をもつかもしれません。しかし筆者の考えでは,必ずしもそうではなく,再現できない理由としては次男の点が考えられます。
(1)たまたま特殊な条件の組み合わせでうまくいった実験に基づいて論文を書いたが,その条件の再現が難しいか,あるいは執筆者自身も条件を理解できていない。
(2)研究に用いたと同じサンプル,材料が入手できなかった。
(3)執筆者がわざと重要な条件を隠している。(p.40)

研究者が何かをわざと隠蔽するようなことがなくても,実験や調査の研究結果が再現されないことは良く起こるのです。

そして,それは通常の科学的な手続きの中でも生じるのが当然なのですから,その結果が噓だとか,研究者が噓をついているとか,研究に意味がないと言うものでもないのです。

 このように自分でも再現できない実験を他人が再現するのは容易でなく,再現できないから噓だとは断言できません。前述のように再現できない理由は多々あり,実験に用いた材料や試薬のわずかな違い,装置の違い,気候や天候,そのほか記載されていないちょっとした作業手順の違いが原因で再現できないことは十分ありえます。不正が明らかな場合を除き,「再現性」を過度に求めることは「角を矯めて牛を殺す」ことと言わねばなりません。(p.40-41)

研究の不正

再現できない研究とは別に,研究の不正という問題があります。たとえば「捏造」「盗用」「改ざん」です。捏造は,観察対象もデータも何もないのに自分でつくりだして報告することなどです。盗用は,他人の文章やアイデア,データなどを適切な引用や許諾なく流用してしまうことです。そして改ざんは,データや結果を都合がよいように変えてしまうことです。

不正が発覚したら

研究不正が発覚すると,その組織や大学が糾弾されます。この本の中では,どのように書かれているでしょうか。

 なお,研究不正が発見された組織や上司を「管理不行き届きである」として,行政的,財政的に処罰するのは適切ではありません。研究不正は個人の問題です。防止のための環境整備や教育は可能ですが,組織で防止することは不可能であり,基本的には組織の責任ではありません。事件が起きると,すぐに大学や研究機関を非難するマスコミも問題です。
 会社の不正であれば,社長が頭を下げるのが当然ですし,官庁の不正であれば大臣が辞めるのは当然です(最近は辞めませんが)。かれらには監督責任がありますし,しばしば実際に不正を指示・誘導しているからです。しかし,研究機関の長は研究の内容を指示しているわけではなく,あくまで,研究の方向を定め,環境を整備することにしか責任がありません。したがって個々の不正に対して,彼らが頭を下げる必要はありません。(p.221)

よく,「○○大学の研究」という表現がされることがあるのですが,研究をしているのは個々の研究者です。大学や研究所は,各研究者ひとつひとつの研究内容を把握しているわけではありません。

問題が起きたとき

組織としては,問題が起きた時にどう対応するかが問われてきます。とはいえ,それはなかなか難しいことなのですけれども。

 学校問題でも,ある地域や学校がいじめの件数が多いとして新聞で叩かれることがありますが,これはむしろ正直に調査して報告しているとして褒められるべきではないでしょうか。いじめが目立って少ない地域は,むしろ隠蔽を行っている疑いもあります。研究不正についても,しっかり調査を行っている機関はむしろ称賛すべきです。まして,STAP細胞事件の際に見られたように,不正の発覚を,その研究機関に対する支配強化の足掛かりにするような動きは論外です。(p.222)

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