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『エビデンスを嫌う人たち』

今回の記事では,『エビデンスを嫌う人たち: 科学否定論者は何を考え、どう説得できるのか?』(リー・マッキンタイア著)を紹介したいと思います。


反科学

アメリカでは,進化論の否定,気候変動説の否定,反ワクチン運動,そして極めつけは「フラットアース」など,多くの反科学的な運動があります。日本でも同じような信念や運動はよくみられるものです。科学者たちは反科学的な運動をなんとかしようとするのですが,たいていはうまくいきません。

映画『ビハインド・ザ・カーブ -地球平面説-』は,とても興味深い内容でした。最近は「フラットアース」論の訳本なども販売されているようです。

どうして,現代の教育を受けたうえで,「地球は平面だ」と考えてしまうのかというのは,この本でも描かれている典型的な問題です。

科学否定論者の5要素

科学を否定する人びとに共通する要素はあるのでしょうか。本書では,5つの「類型」として示されています。

1 証拠のチェリーピッキング
2 陰謀論への傾倒
3 偽物の専門家への依存
4 非論理的な推論
5 科学への現実離れした期待

p.82

これらはそれぞれが単独で存在しているのではなく,科学否定論者の中で組み合わされます。本の中では次のように書かれています。

 これらを組み合わせることで,科学否定論者が共通して利用している,ある青写真が手に入る。彼らはその青写真を使って,カウンターナラティブ(従来の説に対抗するための筋書き)を作りだし,科学界ではすでにコンセンサスがとれて久しいトピックに異議申し立てをするのだ。

p.83

対話

この本の面白いところは,実際に著者(哲学者であり科学史家)が,フラットアースの会合に出向いたり,気候変動説に否定的だと考えられる炭鉱労働者にインタビューしたりする中で,「敵を理解していく」ところにあります。

科学者たちは往々にして,科学を否定する人びととの対話を「無駄」だと思っていたりします。それはそうで,どのように説得しても相手は納得しないということを何度も経験しているからです。大学で授業するときなどは,楽なものです。学生たちは「学ぼう」としてくれるのですから。

困難さ

何かを信じた人の意見を変えさせることは,並大抵のことではありません。それは,世の中の至る所で見られる現象です。

それぞれの人は,それぞれのストーリー(ナラティブ)の中で生活しています。科学否定論者であっても,それぞれのアイデンティティとストーリーをもっており,その核心の部分はそう簡単には覆らないのです。

 科学否定論者と対話をするとき,彼らの信念ばかりでなく,反科学という価値観がコンクリートのように固まっているケースは多い。もちろん,彼ら自身はそう思っていない。自分が科学否定論者だと自認している者はいないだろう。むしろ,自分の方が科学者より科学的だと考えている場合すらある。あなたが相手に対して思っていることは,相手があなたに対して思っていることでもある。科学否定論者との対話に臨むときは,小説家ならば誰もが指針にしているルールを覚えておくといいだろう――悪役は自分の物語では常に正義の味方である。

p. 350

「悪役は自分の物語では常に正義の味方である」というのは,誰もがそうです。

身近にも

陰謀論や科学否定論に触れることは,意外と私たちの周辺でも可能です。そのようなことはないだろうと思っていたのに,話をすると実は科学否定論者だった……ということは,よくあります。政治的に右派だろうと,左派だろうと,関係ありません。どちらも科学否定論につながることがあるのですから。

そんなときに,どのような対話をしていったらいいのか,この本の中にヒントがありそうに思えます。

目次はこちらです。

【目次】
はじめに
第1章 潜入、フラットアース国際会議
第2章 科学否定とはなにか?
第3章 どうすれば相手の意見を変えられるのか?
第4章 気候変動を否定する人たち
第5章 炭鉱のカナリヤ
第6章 リベラルによる科学否定?
第7章 信頼と対話
第8章 新型コロナウイルスと私たちのこれから
エピローグ

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