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【再び】心理尺度構成の方法:基礎から実践まで

8月初めに出版した書籍について,気まぐれですがもう一度紹介記事を書いておきたいと思いました。誠信書房より刊行された,『心理尺度構成の方法:基礎から実践まで』というタイトルの本です。

前回は忙しくてあまり余裕がない時に書いてしまったので,もう少し文章を書いてみようと思います。


アンケート

この本は,心理学的な何か(パーソナリティ,態度,価値観,志向性,好み,感情など)を測定するためのアンケート(心理尺度,質問紙法)を,どうやって作っていくのがよいのかを解説するものです。心理学の研究にも対応できる,専門的な内容の書籍となっています。心理尺度構成の論文に触れたことがある方であれば,「ああこういうことか」とわかってもらえるような内容も多いのではないかと思っています。

しかし,内容を構成をする段階から考えていたことなのですが,ありがちな「ハウツー本」にはしたくありませんでした。というのも,「この一通りの手続きを進めていけば心理尺度が一丁あがり」となることはまずないからです。

トレードオフ

心理尺度構成には多くの「トレードオフ関係」が存在すると思います。こちらを優先すると,あちらが失われる,といった関係が数多く存在していて,その中でバランスを取って心理尺度構成をしていくというのが,実際に数多くの心理尺度を作ってきて感じていることだからです。

「あれをやって,これをやって,こうすればできあがり」とはなりません。ですから,気にするべきポイントが多数あって,作らなければいけないなら理解した上でうまく作りましょう,ということが主張したいことです。

そもそも必要なのか

研究の中で心理尺度は,「使ってもらってなんぼ」です。道具なのですから,多くの研究者に使ってもらえる心理尺度を構成することが,ある研究分野を発展させる起爆剤になります。どの心理尺度がどれくらい引用して使われているか,レビューでもしてみるといいでしょう。

でも,「そもそも作る必要があるのか」と感じさせる心理尺度もたくさん心理学の研究雑誌には掲載されています。私も大学院生の研究指導をする際に,むやみやたらに心理尺度を作成させようとはしません。「今あるやつを使えないの?」「応用できないの?」「どうして必要なの?」「作ったらどういう研究に使えるの?」と,何度も尋ねます。そして「作ったならそれを使って他の研究者のお手本になるような研究を考えて」と言うこともあります。そういうお手本になるような面白い論文を見て,新たな研究が広がっていくこともあるからです。

簡単

心理尺度を使う研究には,曖昧なところも多そうです。でもどうして心理尺度が心理学の研究の中で駆逐されないのか。それは,明らかに「実施が簡単だから」「研究が楽だから」「労力がかからないから」です。

これは,おおっぴらに多くの研究者が言わないことでしょうが,間違いなく存在する要素です。世界中の多くの研究者は,できるだけ楽に研究して多くの論文を速いペースで書きたいのです。研究者が置かれている,年々激しくなる競争状況の中で,この魅力に抗うことは困難です。他の研究者よりも多くの研究成果を残して生き残らないといけないのですから。

もちろん,研究分野や研究テーマ,研究対象にもよりますが。

そして,楽にデータを集めることができることと,「信頼できること」「妥当であること」との間にも,トレードオフがあります。簡単なものほど粗い情報しか手に入らない,労力をかけた研究は貴重で重要な情報をもたらす,といったトレードオフが,往々にしてあるものなのです。

そこで重要なのが,信頼性や妥当性という問題です。簡単に実施できて信頼性があり,妥当な方法であればこんなに良いことはありません。いいとこ取りができます。でもこれもまた,「これをすれば信頼性や妥当性が検証される」といったたぐいのものではないのです。

というわけで,本書では信頼性や妥当性についても詳しく章を割いて説明しています。

短縮版

21世紀になってからのトレンドのひとつに,少数項目で構成された心理尺度の開発があります。先ほど,心理尺度のメリットに「楽だから」「労力がかからない」があると書きましたが,短縮版尺度はまさにそのメリットを強調したものだと言えます。

しかし,短縮版を作る時にはそれなりの苦労があったり,工夫があったり,気をつけるポイントがあるのです。因子分析で高い負荷量の項目を抜き出せば内的整合性が高い短縮版ができあがりそうですが,それで良いという問題でもありません(測定される意味範囲が一部に限定されてしまいます……帯域幅と忠実度のトレードオフと呼ばれる問題です)。

というわけで,さまざまな観点から,心理尺度のつくり方について解説しています。

もしよければ,手に取ってもらえれば幸いです。

目次

目次は以下のとおりです。各章をご執筆の先生,素晴らしい原稿をありがとうございました!

1章 心理尺度とは何か
2章 心理尺度の形式
3章 心理尺度構成の手順
4章 心理尺度を用いた調査の実際
5章 心理尺度における信頼性
6章 心理尺度の妥当性
7章 信頼性と妥当性の相互関係
8章 心理尺度構成のための統計手法
9章 心理尺度の構造と得点化の方法
10章 反応バイアスの検出と補正
11章 短縮版心理尺度の開発と意義
12章 心理尺度構成を報告する際に考えるべきこと
13章 臨床現場に役立つ心理尺度の特徴
14章 心理尺度の功罪
15章 心理尺度開発の実例:オリジナル尺度
 15.1 楽観・悲観性尺度
 15.2 生徒の教師に対する信頼感尺度
 15.3 噓をつくことに対する認識尺度
 15.4 二次元レジリエンス要因尺度
16章 心理尺度開発の実例:翻訳版尺度
 16.1 病理的自己愛目録日本語版(PNI-J)
 16.2 日本語版改訂非緩和共同性尺度
 16.3 日本語版Big Five Inventory-2(BFI-2-J)
 16.4 IPIP-IPC-J

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