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6月
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「死ぬかもしれない」と思った話をしよう。
ぼくが36歳の頃の話だ。
6月の終わり頃、給料日の後だったから25日は過ぎていたんだろうと思う。当時は名古屋で両親と一緒に住んでいた。
仕事を終えて帰宅し、20時過ぎだったと思うが夕食を摂った。
そこまでは何事もない一日だったのだ。
2階に上がりテレビを見ている時、喉の奥に違和感があった。
何だか食べたものが引っかかるような嫌な感じだ。
唾を飲み下しても違和感はなくならない。
だんだん気持ち悪くなってきしまい、トイレに行って吐き出すことにした。
何か食べ合わせとかが悪かったのかも知れないと思った。
しかし吐いても一向に良くなる感じがしない。それでぼくは少し横になろうと寝室へ入った。
横になったその途端、一気に胸が苦しくなった。
これは普通じゃない。これはおかしい。
ぼくはほうほうの体で起き上がり、階下にいる家族に「救急車を呼んでくれ」と言った。そこまでははっきりと覚えている。
ここからは後日家族から聞いた話。
どうもぼくはそう言うなり2階の階段の踊り場でばったり倒れてしまったらしい。
家族の声を断片的に聞いた気がするが、あまりよく覚えていない。
担ぎ込まれた病院での診断は「心筋梗塞」だった。
即日入院となり、身体中にセンサーや管を取り付けられ、絶対安静になった。
聞くところによるとかなり重症であって、助かる確率は30%くらい(21年前の話だから今であればもう少し高いかもしれない。医療は日進月歩なのだ)
入院当日に「今晩がやま」と言われたのだそうだ。また発作が起きるようならダメかも知れない。そんな風に医師から伝えられたらしい。
当のぼくはモルフィネを投与されたために意識が朦朧としていて、センサーの音がうるさかった事、背中がひどく張って苦しかった事くらいしか覚えていない。
ちゃんと意識がはっきりしたのは倒れてから3日経っていた頃だ。
入院当日の真夜中に発作が起きていて、センサーの音がうるさいと覚えていたのは、その時のものらしい。
流石に家族もダメかと思ったと聞いた。
カテーテルを入れてバルーンで膨らませてからステントを入れた(わかる人はやったことあるね?)
しかし心臓は丈夫な臓器だけども再生することはなく、今でも1/3は壊死したままだ。
それから12年後の48歳の頃に再発。
今度は心不全と診断され肺に水がたまる肺塞栓を起こしていた。
6月になるといつも思い出してしまう。