
川下の街



こんな書き方はいけないのかも知れないが、まるで化石の様だと思った。
かつて繁栄を誇った漁港は伊勢湾台風で致命的な痛手を負い、二度と立ち直る事は無かったのだ。
細い路地が迷路の様に入り組んでいる。
傷むに任せた冷凍倉庫や錆び付いたクレーンが目に付く。
相当数の建物は撤去され、今は基礎のみを残すだけだ。
堤防で写真を撮っていると、子どもたちが魚釣りをしていた。
釣れる?
そう尋ねると、彼らは照れくさそうに首を横に振った。
何所かのラジオから高校野球が聞こえる。
他にはまったく物音がしない。
静か過ぎて耳の奥が「きーん」と鳴っている。
川面で魚が跳ねる。
(2012年8月21日 中川区下之一色で)